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六十谷水管橋の崩落は序章に過ぎない

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和歌山市の紀ノ川にかかっている六十谷水管橋が崩落した。この橋が崩落しただけで紀ノ川以北にある6万世帯13万8千人に水が供給できなくなったそうだ。耐用年数がまだ2年残っており耐震化工事も行われていた。ネットでは耐震化工事をしたのは誰だ?と犯人探しも行われているようだ。復旧の目処が立っていないようで隣にある県道を封鎖して仮の水道橋を作る案が進められている。

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これは明らかに人災である。ドローンを導入して調査した結果「アーチの上の方が折れていた」ことがわかったそうだ。水管橋がポッキリ折れている画が強烈なので「なぜ折れたんでしょうね」というところだけが話題になっていたがが実際は目視確認できる程度の痛みがあったことにおなる。尾花正啓市長は東大土木工学部土木工学科卒業なのでおそらく自分の知識に過度の自信があったのだろう。耐震工事は十分だと胸を張っていたそうだが実は十分に対策ができていなかった。

だが市長を責めても問題は解決しない。水道インフラの問題は以前から課題になっていた。おそらく同じような問題は様々な場所で起こるだろう。

池田政権の所得倍増計画は経済成長を原資にして太平洋ベルト地帯の総合インフラを整えるという政策だった。このころ整備され始めていたインフラがそろそろ老朽化の時期を迎えている。六十谷水管橋は所得倍増計画の15年後に当たる1975年の完成で「あと2年しか耐用年数が残っていない」という状態だったという。こういう事例は全国各地にあると専門家は警鐘を鳴らす。

それにしてもなぜ水管橋が一本落ちただけで水道が止まってしまうのだろうか。

浄水場が川の南側にあるのだから当たり前ではないかと思われるかもしれないが隣の岩出市では断水が起きていない。市の境界を挟んだ東側と西側で断水が起きている地域と起きていない地域が生まれていることになる。この地域ではおそらく水道設備は市の単位で作られていてそれぞれに連絡がないのだろう。

当たり前だと思われるかもしれないのだが東京や千葉ではこんなことは起こらない。東京は都が水道事業をやっている地域が多い。千葉県の人口密集地では千葉県が主な事業者になっている。埼玉県も秩父地区以外は埼玉県の水道局が統括している。神奈川県はやや特殊で横浜市・川崎市・横須賀市。県西部は独自の水道局を持ちあとは神奈川県が担っているようだ。つまり関東は早い時期から水道の広域化が行われている。

和歌山市も一部の地域では二つの取水場からの水を流していたようだがそうではない地域の方が圧倒的に多い。和歌山市北部も六十谷水管橋の水をポンプで中継しつつ市北部に流していた。この方が構造が単純でメンテナンスがしやすかったのだろうがどこかが詰まってしまうとそこから下の水が全て止まってしまう。

関東地方のように広域になると複数の取水場から水をとってくる必要がある。ただこうすると水圧の管理がやや難しくなる。水道から水が自然に滴り落ちることはなくポンプや給水塔(高いところから低いところに水を落とす)を組み合わせて圧力を作り出す必要があるのだが、複数の水源があるとそれを全て管理しなければならなくなるからだ。

こうした単純な水路は実は過去にも問題を起こしている。和歌山市では2000年に水道管破裂により断水が起きていたそうだ。

関西ではおそらく市町村単位で水道を整備してきたのだろう。結果、例えば淀川の流域では市が独自に淀川の水利権を買った。このため大阪では市によって水道料金がかなりばらついている。和歌山市もおそらく同じような事例だったものと思われる。水道ビジョンという県がまとめた冊子によると「県営水道」はなく市町村が独自に水道を経営していることがわかる。

国も何も対策を打っていないわけではない。民間の活力を使って水道事業を運営してもらおうというコンセッション方式が導入された。命の水を外国の民間企業に売り渡すのか?と話題になったが導入のトップランナーである宮城県は国内の業者を選んだようである。ただし売りに出されるのは運営権だけでインフラの所有はできない。また宮城県のすべての自治体が県営水道というわけではなく県内では25市町村が上水を県から買ったり、下水の処理を県に委託したりしていますということのようだ。

地方自治体に代わって地域の水道事業の責任を長期間(宮城県では20年)担うことになるためなかなかこれに応じることができる企業の数は多くない。事業体の規模が小さければ小さいほど効率運営は難しくなる。例えば和歌山県で広域化を目指して私企業が周辺自治体の上水道網を作り直すとなるとおそらく莫大な金がかかる。さらに施設整備のために施設を作ろうとしても「運営権だけを委託されており施設は持てない」ということになる。

つまり六十谷水環境のような問題が起きてもコンセッション業者は対応できないのだ。私企業になれば当然契約違反ということになり自治体や利用者から訴えられかねない。実は「唯一の打開策であったコンセッション方式では対応できない」かなり面倒くさいことが和歌山市で起きてしまったのである。

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