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アフガニスタン人が陸路で日本に退避できたわけ

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保護対象になっているアフガニスタン人の協力者が日本に避難してきた。4名がすでに到着していて、残りの6人も無事に日本に到着したようだ。日本のメディアは難民申請するか第三国に向かうのかということは気にしているが、どうやって逃げてきたのかにはまるで関心がないようだ。

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カブールの空港以外に退避通路がないという報道で止まっている人もいるかもしれないのだが、実はパキスタンとアフガニスタンの国境は再開されている。カブールからジャララバードを経てペシャワールからイスラマバードに抜ける道があるのだ。つまり今後ここから難民が先進国に向けてやって来る可能性がある。

アルジャジーラがレポートを出している。

アフガニスタンとパキスタンの国境は開いているが国境警備・関税・麻薬調査の三つの検査があり非常に時間がかかっているそうである。生鮮食料品などはトラックの中でダメになってしまうとドライバーたちはやきもきする。やりすぎのような気もするが実際に武器や高級な品物が密輸されることがあるそうだ。パキスタン当局は「事実上国境封鎖は不可能だし人道的な理由もある」と説明する。

どうやらこの通路を通ってアフガニスタン側に外国人が入国することも可能なようである。TBSの報道特集は日本人ジャーナリストがカブール市内の様子を伝えている。ここからアフガニスタンに入り12時間かけてカブールに戻ってきたそうだ。

これらの一連のレポートから伝わってくるアフガニスタンの様子は我々が想像しているものとはかなり違っている。日本の過去と現在が入り混じったような状態にある。

パキスタン側は街道沿いに度々賄賂を要求されるそうだが、タリバンが制圧したアフガニスタン側では賄賂がなくなったそうだ。街道で通行税というのは日本でいえば江戸時代以前・戦国時代のような様相である。

アフガニスタン側のタリバンは国民が海外に流出するのは防ぎたい。一方で物流を早く元に戻したいのだろう。このため治安維持では一定の役割を果たしている。「テロリスト・タリバン」とは違った一面である。ただ政敵を見つけ出して報復するというようなこともやっているようだ。これもどちらかというと日本の戦国時代のメンタリティである。

TBSの報道特集を見ると人々はガニ政権だろうがタリバンだろうが「とにかく早く経済を正常化させたい」と思っているようである。女性の人権について聞いていたが「女性どころか男性にも人権がない」と言う人がいた。つまり仕事もない状態で人権がどうだというようなことを言っている余裕はないということなのだろう。ただ「タリバンはお金を持っていない」そうだ。給料が払われる見込みもないのにタリバン政権のために働こうという人はいないだろう。

米ドルと物流が止まったため現地通貨アフガニの価値は落ちている。各地から戦火を逃れた人たちのキャンプが市内に作られ子供達が闇市のようなところにいる。誰もがその日暮らしで身の回りの貴重品を売ったりしているそうだ。米軍が入ってきた日本と出て行ったアフガニスタンという違いはあるが終戦直後の日本の様子によく似ている。

つまり現在のアフガニスタンは戦国武将のようなタリバンが支配しカブールの街は第二次世界大戦直後日本のような状態になっている。ただSNSやテレビもありトラックが日常物流を支えている。カブールの山には電波塔が立っている。つまり近代以前の日本と現代が入り混じったような不思議な状態にある。

いずれにせよ現地経済は混乱している。食べるものも仕事もないなら出て行くしかないと人々は訴える。アフガニスタンの人口は3,800万人ということだが、UNHCRはこのままでは年末までに50万人程度の難民が出るだろうと予想しているそうだ。

島国の日本は戦後復興で国外に逃げるという選択肢はなかったのだが、アフガニスタンから陸路で逃げ出すことができる。また何十年も状況が悪化し続けていて「もう逃げるしかない」と感じる人も増えているようだ。つまりアジアの日本からそう遠くない地域で新しい難民危機が起きている。

人道的なことを考えなければ「閉じ込めてしまえばいいのではないか」と思えるのだが物理的にそんなことはできない。そもそもパキスタンが北部のパシュトゥーン居住地域をきちんと管理できていないようだ。

各国政府はタリバン政権を認めるわけにはいかないが何らかの援助をしないと新たな難民危機に襲われるというかなり切迫した状態にある。ただこれも今起きた問題ではない。ペシャワール会の中村哲さんは30年前(アメリカ同時多発テロが起きる前)から干ばつで農地がなくなっていて今に大変なことになると訴えてきたそうだ。世界はアフガニスタンの飢えを放置し、実現するあてもない現代国家像をアフガニスタンに押し付けた。だったらもう逃げるしかないと人々は思っている。

自衛隊のミッションの成否も安保法制が正しかったという議論も実はもうどうでもいい問題になっているのである。

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