このブログは一旦草稿を書いて1日寝かせることになっている。最近総裁選挙について書いていると大幅な書き直しを迫られることが多い。一夜で状況が大きく変わるからである。それくらい政局が揺れている。今回は自民党総裁選挙には二つの争点があると書こうとしたのだが、明けてみると「麻生財務大臣がコロナはある程度収束していると言った」として叩かれていた。側近に囲まれて世間から隔絶しているうちに周りが見えなくなっているのであろうと思う。ただ、これは二つ目に書くはずだった「老害」のサインだ。
一つ目として書くつもりだったのは、経産省対非経産省の戦いである。経産省が守旧派で非経産省が改革派ということになる。だが、麻生発言を見て「この対立点は実は本質のように見えて単なる表ガワなのだな」という気がした。
今井尚哉内閣官房参与が岸田文雄陣営についたという記事を読んだ。キーワードは「脱原発」だ。今井尚哉内閣官房参与は経産省の官僚で菅政権でエネルギー政策を担当していたそうである。現在三菱重工業の嘱託顧問を務めている。ここからわかるのはこの人が原発推進派であるということだ。この人がいま岸田さんについている。
Aera.dotは次のように書く。もちろん憶測ではあるのだがここからいろいろな推理はできる。
岸田さんが菅、二階体制を見事に切り崩した。バックで安倍前首相の首相補佐官だった今井尚哉さんが動いた様子です。
菅首相退陣で 河野太郎、石破茂、小泉進次郎氏が総裁選出馬を検討 岸田陣営「受けて立つ」〈dot.〉
岸田文雄候補は「今の分科会の他にコロナ後の経済について話し合う分科会を立ち上げたい」と表明している。さらに「厚生労働省分割」というTweetを出しのちに「検討段階にある」として撤回したそうである。
この二つを経産省という切り口で切ると次のように解釈できる。
岸田陣営は岸田候補が経産省擁護の守旧派であるというイメージを隠したい。そのために常套手段は別の官庁を叩くことだ。新型コロナ対策の失敗は厚生労働省のせいだということにして厚生労働省から経済分野を切り離したい。今の体制では新型コロナ抑制色が強すぎて経産省がコントロールできないからである。どちらを前面に押し出すかで守旧派か改革派かという印象を変えることが実はできるのである。
一方で河野派は「ガチの改革派」である。今、河野太郎候補は実は環境・脱原発の望みを捨てていないのではないかという観測が出ている。菅総理は安倍総理の後継政権だったので安倍前首相の意向を無視できなかった。だが今回の件で「二階さんを切ったのに助けてくれなかった」安倍前総理との間に亀裂が走った。二階幹事長は「二階切り」に理解を示した。今回は守旧派のレッテルを貼られてしまったがこれは国民受けが良くなさそうだから「改革派」を支えたいと考えても不思議ではないだろう。二階派は石破派にも手を広げている。一時は推薦人を貸してもいいという話が出ていたようである。
だが実は改革派が戦っているのは経産省と手を組んだ党内の特定の人たちである。それが安倍一派であり岸田派だ。二階派も実はこうした人たちを排除したい。これが実は一つ目の対立点の背景にある「本当の」対立である。
菅政権が掲げていた改革には「デジタル化」があった。それぞれの官庁から利権を引き剥がしてテジタル庁に一元化したかった。菅総理は総務大臣経験者なので、総務省・通産省からデジタル利権を引き剥がしたかったのだろう。また環境省も経産省と原発で対立する。次世代のカーボンニュートラルを目指すためには思い切った改革が必要だが今の経産省にはそれが難しそうだからである。今後はまた菅総理得意の裏方に戻り「改革派」の河野総理大臣を支える。菅総理はもはや安倍前総理に遠慮しなくてもいい。
このように「経産省」を代入すると説明できることは多い。例えば甘利元経産大臣がなぜ河野候補を推せないのかということもわかる。甘利さんは当然経産省擁護・原発推進であり過激な改革派である河野さんを応援できない。ただ麻生さんがどう転ぶかはわからないので「岸田候補にシンパシー」という曖昧な言い方をして含みを持たせている。
要はかつて先進的な日本の産業を支えていた通産省が完全に時代から取り残されてしまったということなのだろう。経産省についている政治家たちは党の重鎮であり国民の生活実感とは乖離している。
「プリンス河野」は屋根裏部屋に閉じ込められているが実は正当な派閥後継者だ。実は麻生派の源流を作ったのは河野洋平だからである。河野さんが王様になれば麻生さんは隠居になる可能性がある。だから何かにつけて理由をつけて河野太郎さんの総裁選出馬に難色を示してきた。プリンス河野を屋根裏部屋から引っ張り出して表で活躍させたのが菅総理である。
だがプリンス河野は屋根裏暮らしが長すぎた。政治評論家たちは「後先考えず他人の気持ちがわからない河野さんでは状況は収拾できないだろう」という。プロジェクトマネジメントができないというのが周囲の一貫した評価だ。
岸田候補は森友加計問題が安倍一派の逆鱗に触れそうだということがわかると「森友問題の再調査をやるとは言っていない」と方向転換した。この人も元総理・前総理のコントロールからは抜けられないのだろうなということが周知された瞬間である。河野候補の登場でおそらく守旧派色が強くなってゆくだろう。プリンス河野は戦略的に麻生財務大臣から距離をとった方がいい。不規則発言の多い麻生財務大臣を抱えていては改革派のイメージが得られないからだ。
だが、国民世論に押された改革勢力は党内重鎮の支持が得られないというのもまた自民党のセオリーである。党内重鎮が何か発言したり影響力をチラつかせると「守旧派」に見え国民実感から乖離しているという印象がつくのでその候補は総理にはなれない。だが総理になった人は党内改革ができない。この方程式を解くのは不可能なのでおそらく次の政権は短命に終わるだろうということになる。この方程式では参議院議員選挙を乗り切れないからである。