東京都議会議員選挙のあと報道が面白かった。小池百合子東京都知事のプレゼンスはあまり高くなく最後の最後になって「見捨てた」という印象にならないように主要な候補のところを最低限回ったという印象を持っていた。だがコメンテータたちの印象は違ったらしい。
「小池百合子さんが金曜日に会見を開いたことで有権者の認識がガラッと変わり当初の自民党有利という構図が覆った」というお話になっていた。新しい小池百合子伝説が出来上がっていた。
だがよくよく考えてみると彼らには別の思惑があったものと考えざるを得ない。
まず自民党である。東京都知事選挙が始まってからワクチン関連の悪いニュースが出ていた。ワクチン供給は国のせいで止められた。一部の人は接種が終わったのに自分がいつ打てるかわからないという人が大勢いる。だが、予約再開のめどは立っていない。自治体は国が供給計画を出してくれないと何も言えないの一点張りである。
また国民よりもIOCの意向を優先しオリンピックを強行するという姿勢は非常に顕著だった。東京の感染者が増えていたにも関わらず自民党はオリンピックを優先するんだ……と醒めた目でニュースを見ていた人が大勢いただろう。
だから「菅総理で戦えるのか?」という声は出てきている。山口公明党代表は「総裁選をやらずに任期満了を待ってもいいのではないか」と言い出している。これ以上選挙に影響を与えるようなことをして欲しくないのだろう。2009年の麻生おろしのトラウマがあり都議会議員選挙の後に内紛を起こしたくないという気持ちだけが菅おろしを防いでいると言って良い。
ところがそれを認めてしまうと自民党の政策が負けたことを認めざるを得なくなってしまう。であれば虚空を指差して「ほら、小池百合子という魔女が出て魔法を使った」と説明したほうがいい。自民党が負けたのではない。小池さんが不思議な魔力を使ったから勝てなかったのである。
こうして新しい小池百合子伝説が作られた。
政治コメンテータたちも当初は自民党有利・都民ファースト不利という見立てをしていた。あるアナリストは「東京の有権者(特に女性)」は最後の最後に印象で決めるといっている。可哀想な小池百合子さんをみて影響を受けたのだろうと分析していた。つまり有権者の半分の女性は難しいことなどわからず最後の最後の印象だけみて簡単な判断をするのだという認識があるのだろう。
シロウト相手なのだから分析が間違ったのは仕方がない。「自分たちは政治に精通しているが故に印象でふらふらと投票先を変えるような人たちに振り回されたのだ」と思ったほうが気持ちが楽になるのだろう。
確かに小池東京都知事の掲げる「一生懸命に頑張っているが周囲に邪魔されて実力を発揮できないかわいそうな私」という自己演出に効果がなかったとは思わないのだが、おそらく周囲の様々な思惑があり必要以上に大きな存在になってしまっているなと感じた。
朝日新聞などは自民党大敗と言い続けているのだが実際に起こっているのは中央政党離れだと思う。
地方選挙では「中央の事情をスルー」して勝手に地元事情で選挙戦を組み立てるところが多く出てきている。千葉県・千葉市の首長選挙はまさにこの構図だった。また横浜市でもIR推進という菅総理の方針に沿わない候補者を擁立しようとしている。実際に小此木候補がIRについてどう考えているのかはわからないが表向きはIRを諦めるという選挙になりそうである。兵庫県でも県知事選挙を巡って自民党が二つに割れているそうだ。自民党が負けているわけではない。足元から壊れているのである。
二大政党制を志向して始まった小選挙区・比例並立方式だが、単に国民から選択肢を奪っただけに終わりそうだ。衆議院議員選挙以外のところでは二大政党制が崩れており都民ファーストのような第三勢力が一定の受け皿になったり逆に自民・立憲民主・国民民主などが一つの塊になったりしている。
地方組織は自分たちで考えなければならない。すると勝手な政党の組み替えが行われる。おそらく有権者も「自民党は支持できないが失敗した立憲民主党も嫌だ」と思っているのだろう。選挙に対する有権者の反応は合理的ではあるが不規則になる。
おそらく政治の専門家はこの辺りの中央政界離れを読みきれていないのではないかと思う。政党単位でしか取材をしない上に地方の事情までいちいち取材していられないからなのかもしれない。
そんななかで「魔女」の存在はとても便利である。逆に日本の政治状況は魔女なしでは説明できなくなっていて、おそらくその原因は「党」というものが融解しつつあるということなのだろう。