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買い占めのマインドセット – 新型コロナワクチン不足は誰のせい?

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今回は新型コロナワクチン接種における情報システムの混乱はどうして起きたのかということを書く。結論は「河野大臣は無能だ」という悪口になるので河野シンパの人は読まない方がいい。ただ「どうすればよかったのか」ということも一応わかることになっている。今回はもう対策できないが次回からの改築には役立ててほしい。キーワードは「買い占め」である。

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買い占めとは何か

台風19号に備えてパンがなくなったスーパー

まず最初に買い占めについて書いておく。

買い占めとは品不足を予見した消費者がものを買い過ぎてしまうという状態である。

買い占めを目にした消費者は自分も乗り遅れまいとするので買い占めが加速する。そして少しでも多く売りたい小売は卸に過大な請求をしそれが実際に品不足を生む。品不足は可視化されるので一度買い占めが起こるとそれが加速度的に悪化するということになっている。

買い占めを沈静化させるためには倉庫にたくさんモノがあるということを示せばいい。つまり買い占めは簡単に沈静化させられる。

流通在庫とは何か

次に流通在庫について整理する。流通在庫は医療機関に滞留している在庫である。流通在庫量=申し込み量-使用量である。つまり流通在庫量を把握するためにはこの二つの情報が同じシステムに格納されている必要がある。さらに流通在庫は期間が終わると無効になる。ワクチンには賞味期限があるからである。これを歩留まりという。歩留まりは要求量と有効に活用された量の割合であるがリアルタイムではわからないので「破棄された時点」の情報を別にとっておいた方がいい。歩留まりが悪い自治体はおそらくワクチンを過大要求している自治体だ。

なぜか二つあるワクチン管理の仕組み

それではシステムはどうなっているのだろうか。よくわからないことが多かったのでたくさんの記事を読まなければならなかった。つまり情報はあるのだが隠れていてまとまった知見になっていない。

まず、新型コロナワクチンの在庫管理に絞ると関連するシステムが二つある。厚生労働省が作ったワクチン円滑化システムV-SYSと接種記録を管理するVRSである。V-SYSとVRSの連携は取れておらず手作業で連携する必要があるそうだ。

ではなぜV-SYSとVRSは別れたのか。

そもそも自治体(国ではない)は予防接種台帳というシステムでワクチンの接種管理をしていた。予防接種台帳は住基ネットと接続されているようだ。台帳といっても電子化はされているらしい。厚生労働省は当初電子化された予防接種台帳を使わせたがったようである。法律は自治体が予防接種管理をすると書かれていて国が情報をもらう時には個人の同意が必要ということになっているようで国が一括把握できない。法律を変えればいいと思うのだが国会対策や給付金の失敗から国で一括管理は諦めたのかもしれない。電子化されているはずなのに最新情報を反映するのに二ヶ月から三ヶ月かかるという不思議なシステムのようだ。厚生労働省のシステム音痴ぶりに呆れさせられてしまう。

こうした事情があり作業は自治体にやらせることにしたがV-SYSは使わないことにした。住基ネットからの情報をもとに作った台帳をCSVでインポートしてVRSに移すというやり方をとった。VRSに情報を持ってくることはできるのだがそのあとは連携が取れなくなる。そしてオペレーションは自治体にやらせた。このほか自治体は接種券発行システムを自前で構築させられたようだ。

名前を売りたい目立ちたがり屋の大臣たち

なぜ官邸が独自のVRSにこだわったのかはわからない。さらにVRSを主導したのは河野大臣である。平井大臣がやたらにVRSシステムの利便性を宣伝している記事が複数見つかった。「ダッシュボードという仕組みを使えば最新情報がわかりますよ」といっていたという記事が見つかった。おそらくはだがデジタル庁初代長官になりたい平井さんが功績を宣伝したかったのだろう。システムをわかってますよというアピールなのかJSONを使ったダッシュボードなどということが書いてある。ITがわからないおじいさんたちはイチコロだろう。

ここまでの話を整理する。まず厚生労働省が作った堅牢ではあるがリアルタイム性にかけるシステムがあった。そこに菅総理大臣の「とにかくワクチンだ」という勇み足的な指示が入る。そこに名前を売りたい河野大臣と平井大臣が出てきてシステムを構築する。ところが彼らは自治体を所管していないので(そういえば総務大臣の名前が一向に出てこないのだ)現場作業は調整なく自治体に丸投げした。

最初に情報をまとめた時にはわからなかったのだがこの時買い占めが起こる状況ができてしまっている。だがおそらく当事者たちはそれに気がつかなかったのではないかと思う。そこは致し方ないのかもしれない。

VRSは新興企業ミラボが受注したので大手ベンダーが怒ったとデイリー新潮が書いている。ミラボと平井大臣の関係はわからない。NECの「おっちゃんどう喝事件」からわかるのはどうやら平井大臣が大手ベンダーに敵意を持っているらしいということだ。現代も「政府DXを主導する平井卓也デジタル改革担当大臣や河野大臣の厚労省や大手ベンダーへの不信感がにじみ出ている。」などと書いている。対立があるのは間違いないだろう。

具体的な利権があったのかは明らかではないものの接待をしてくれる企業を優先し、いうことを聞かない官僚と大手ベンダーを嫌っていたのかもしれない。NTT幹部が平井大臣と密に会食したと言う話もあった。法的に問題があると言うわけではないのかもしれないが何らかの影響はあったのだろう。

功績をあげたいという気持ちはわからなくはないが、大臣たちは監督者ではなく単なるプレイヤーになってしまっている。そして大手ベンダや官僚と大臣たちが対立するという構図が生まれたのだ。いわうる「政治主導」が行き着いたのはこんなところだったということになる。安倍政権を放置したツケを我々は今支払っているのだ。具体的には、一人ひとりがチームではなく自分の出世のためにプロジェクトを利用したことが一つの背景になっているようである。

在庫管理できない

平井大臣がVRSの宣伝をしていたちょうどその頃国会で伊藤孝恵議員が質問をしている。ワクチンがいつ届くのかがわからず、システムが多すぎるという。これではシステムハラスメントだというのだ。

デイリー新潮の記事には「なぜそうなったのか」は書かれていないのだが、V-SYSでは自治体のリアルタイム要求は把握できず過剰に配送されたワクチンが役所や病院に滞留していたそうである。ファイザーのワクチンを管理する冷蔵庫も足りなかったという。

台風19号に備えてパンがなくなったスーパー

今回色々な記事を読んだのだが決定的に欠けているのがこの「在庫管理ができない」ことがもたらした弊害である。

中央集権的な仕組みになれた人だと「計画が立てられないのがいけないのではないか?」と思うかもしれないのだがそうは思わない。

足りないと思うと過剰に要求して却って余らせるという状態が起こる。これを買い占めという。台風などの災害時によく起こる例のアレだ。「パンを買い占めて食べきれなかった」という人も多いだろう。

買い占めを沈静化されるためにイオンは倉庫を解放して「品物はたくさんありますよ」とやった。これに倣えば解決策は自ずと出て来る。国は地方自治体が積み上げた接種計画を元に在庫を配分するのをやめればよかった。代わりに在庫量を示して「こんなにたくさんある」と公開すればいいのである。さらに「達成率」だけではなく「歩留まり」を成績に加えればいい。つまりワクチンを過大に請求して余らせたところにペナルティを与えればいいのだ。

そのためにはシステムが一元管理されていなければならない。ワクチンの配送管理はV-SYSがやっているのだから、V-SYSを効率化させて使うべきだったということになるだろう。

買い占めのマインドセット

いずれにせよ使いにくいシステムを使わなかった明石市などはワクチンの割り当てが遅れることになり「利権があるのでは」「いやない」という不毛で不愉快な論争も生まれた。すでに関西地域では疑心暗鬼が生まれている。

AERA.dotの記事によると「タブレットがポンコツだから使わない」とした自治体に対してワクチンの配給が遅れているのではと明石市長が噛みつき(実際にはAERA.dotが無理やり結びつけているだけのような気もするが)西村大臣が否定すると言う騒ぎになっている。大阪市も菅総理に直談判したようだ。菅総理が選挙を念頭に維新を優遇すればさらに買い占めマインドセットが強く働き無駄なワクチンは増えるだろう。

今の仕組みでは「医療機関にだぶついている在庫(いくら無駄になったかもわからない)」は把握できない。つまり出荷と使用実績がわかっても配分されたが使われていない流通在庫を把握する仕組みがない。システム的にはこれを解決すればいい。田村厚生労働大臣は病院や自治体に滞留している流通在庫を把握した上で配分調整するといっている。

ただ問題は「ワクチンの配分を政治利用したい」という人たちである。システムを構築したという実績をアピールして上司に取り入りたかった大臣や、選挙を念頭に特定の政党や自治体を優遇しかねない総理大臣のマインドを変えるのは難しそうなのだ。結局「システムの問題は解決できても政治家が変えられない」というのが大きなネックになっている。

菅政権は情報を自分たちが握ったままで部下たちを競わせて忠誠心を確保するというマキャベリスティックなやり方で成功した政権だ。人は飢餓感をあおることで「この人のいうことを聞いてもいい」と思うようになる。皮肉なことにそれが不信感を生み買い占め・買いだめのマインドセットを生み出している。買い占め・買いだめは情報の不足から起きるからである。

だがおそらく菅総理は維新に向けて何らかのサービスをしようとするだろう。つまりワクチンを接種できないでいる人たちは菅総理のせいでイライラさせられているということになる。イライラさせることが菅総理の本質なのだから当面この混乱は収まらないのかもしれない。

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