新型コロナワクチン の接種を受けてきた。高齢者の中でもまだ接種できていない人がいる中での接種だったのでちょっと後ろ暗い気持ちがある。
と同時に「ワクチン接種してもらえるかどうかがわからない」という不安から解放された解放感もある。接種してもらえる前には感じなかったので「やはり思っていた以上のプレッシャーがあったのだな」と思った。
だが帰ってきてテレビを見るとワクチンが足りないという混乱が続いている。一体何が起きているのだろうかと思い調べてみた。
接種を受けたのは偶然だった。実はそんなに早く接種してほしいという気持ちはなかったのだが、周りからは「ワクチンはどうするんだ」というプレッシャーがあった。今のうちに大規模接種会場を抑えておいた方がいいのでは?と言われたので自分で調べてみることにした。
千葉市ではワクチン接種権を順次配っている。優先順位があって医療従事者・高齢者・持病がある人・その他という枠である。公的な接種会場は接種券をもらったあとで予約番号を入れて自分で申し込む仕組みになっている。接種券の配布は7月初旬になりそうである。
近くの病院では予約を受け付けているところがあった。一つは「優先者ではないのでキャンセル待ちリストに乗せる」と言われた。もう一つの病院は今システムを作っているという。だが近所の小児科では予約を受けてくれると言われた。接種券はなくてもいいという。市の方針なのだそうだ。意外と簡単に受けられるんだなと思った。
この近くには高齢者を中心にして経営している病院が多い。だがその一方で小児科が中心の病院もある。余り混まないので数年前に風邪をひいた時にかかっていてカルテが残っていた。おそらく病院としてもワクチンを余らせるよりは接種できる人に接種した方がいいと判断したのだろう。半信半疑だったのだが電話で予約してそのまま1回目の接種までが終わった。小児科や形成外科など枠が余っているところが少なからずあり、ワクチンナビで探せば簡単に見つけることができる。つまり千葉市は比較的簡単にワクチン接種が受けられる。大規模接種会場の高齢者枠もまだ空きがあるところがある。モノレールに乗らなければ行けないところなのであまり人気がないのだろう。
ところが予約してからすぐ河野大臣の例の発表があった。「ワクチンが足りないので職場接種の新規受け付けを中止する」という。だがそれとは別に自治体の予約を絞るという話もあった。この結果、予約を受け付けていたところの中にも新規予約を中止するところが出てきた。
この漠然とした報道だけを見るといかにも不安になる。では本当にワクチンは足りないのだろうか。
実際のところ「おそらく大丈夫だがよくわからない」ということになる。そもそも何がわからないのかがよくわからない。白い紙を取り出して情報を整理してみた。
まず、接種会場には個別・集団(自治体)・集団(職域)・集団(自衛隊)があることを頭に入れておくと良い。次にモデルナ・ファイザーという二種類のワクチンがある。当初はモデルナ(職域)でファイザーが(自治体・個別)だった。
千葉県ではファイザー製のワクチンは高齢者分の全量確保されているらしい。あとは優先枠でない人たちのワクチン接種計画をどうするかである。「クール」と呼ばれる三週間ごとの期間がある。千葉県は大規模接種会場であってもファイザー製を使っている。これは千葉市も同じである。モデルナが足りないという話は千葉市には関係がない。さらに千葉市は個別接種に関してはお医者さんが配分して余ったら接種券のない人にも接種してあげてくださいと指導している。あとで医者から市に「この人は接種しましたよ」と連絡を入れて接種券を発行するそうである。つまりシステムもある程度整っている。
だがやはり足りないというニュースが多い。一体何が起きているのだろうという気分になる。東京新聞「自治体のワクチン接種、一転ブレーキ 職域接種に続き…政府の見通しの甘さ露呈<新型コロナ>」はこうまとめていた。
- ファイザー製のワクチンの供給は、本格化した4~6月が約1億回分だったのに対し、7~9月は約7000万回分に減る。自治体への2週間ごとの配送量も現在の1872万回分から、7月当初は1287万回分と約6割になる。
- どこかの段階でペースを供給と合わせて考えていただく必要があると河野大臣が説明した。
- 田村憲久厚生労働相が22日の記者会見で「各自治体間、医療機関の中に在庫がたまっている可能性がある」と指摘。今後は調整のため、調査を進める考えを示した。つまり国はどこにどれだけワクチンがあるかを把握できていない。
この二番目のメッセージはファイザーのワクチン供給について言っている。つまりファイザーのワクチンが今後先細るかもしれませんよと読み取れる発言である。政府の発言はこの後二転三転する。主に混乱の原因を作ったのは河野大臣である。
時系列でまとめる。
一部の自治体にはファイザーの供給が少なくなると説明していたようだ。高齢者は確保できたがそれ以外の人についてはどうなるかわからない。秋田県や茨城県などではファイザーの供給が7月には減るのだという。6月20日に佐竹知事が記者たちに伝えたことで報道が出た。この時河野大臣はファイザーが基本でモデルナを併用するということをほのめかしている。だが6月30日段階では「モデルナが足りないからファイザーで補う」ということになった。するとファイザーは余っているのかなという印象が生まれる。やはりよくわからないとしか言いようがないが、途中で河野大臣の発言が変わったことだけは確かである。
このメッセージは地方自治体に混乱を生んでいる。茨城新聞には水戸市の事例が出てくる。水戸市の大規模接種会場ではファイザー製のワクチンだけを使うつもりでいたが県から言われてモデルナ製も使うことにしたという。
これだけを読むと「千葉市はちゃんとできているのだから水戸市がダメなだけでは」と思えるのだが同じようなニュースが四日市市にもあった。岐阜県内でも同じような自治体があるようだ。各地で同じことが起きているようだ。
ただ、ファイザーが足りないとかモデルナが足りないなどとなっていて何が起こっているのかがよくわからない。もっとも混乱を印象付けたのは明石市長が激白「ワクチン寄こせ」と西村大臣に直談判もゼロ回答 「利権化し、官邸が恣意的に運用」〈dot.〉というこの記事だ。これでは「ワクチンがない」という印象しか残らない。6月20日ごろに始まった混乱は6月30日にピークになり今も続いている。
この明石市長の話には「ファイザーが足りないのかモデルナが足りないのか」ということは書いていない。漠然とないんだろうなという印象になる。そして別の問題が出てくる。それがシステム問題である。
複雑な話なので白い紙を準備してほしい。システムには厚生労働省が使っていたV-SYSと平井大臣が準備した官邸肝いりのVRSがある。4月くらいに「システム乱立」という情報が出ていた。どうやら在庫引き当てはV-SYSを使い接種券管理はVRSを使うらしい。ところがこの二つのシステムが連携されておらず手作業だった。さらに引き当てられた流通在庫の消化状況を管理するシステムはない。システムとシステムの間に落ちてしまっているのだ。
さらにVRSは使い勝手が悪い。平井大臣はここでもシステム開発に失敗していたのである。使えないから使わないとしていた自治体が「ターゲットになっていじめられているのであろう」と明石市長は言っている。もちろんそんなことはないのだろうが足りないと市が責められるわけだから「悪いのは自分ではなく政府だ」と言いたいのだろう。
AERAdot.は面白おかしく「利権があるのだろうか?」と書いている。不安は解消されないまま新しい情報が積み上がってゆく。
気長にワクチンを待とうとしている人には関係ない話だろうが、家族に持病があるのにワクチンが受けられないという人もいる。家族に病気をうつさないために自分だけでも接種しておきたいが自分は優先枠ではないという人はこうした混乱をただ不安な気持ちで眺めているしかないのである。
こうした事例がある一方で「高齢者枠のおこぼれで接種できた」という人もいれば、墨田区のように「夜間にも接種枠を作って現役世代にも積極的に展開している」というところもある。東京はずるいと思ってしまうが新宿区では高齢者と基礎疾患を持っている人たちの全量は確保したが「8月以降のスケジュールが未確定」と書いている。自治体によって対応はバラバラになっている。こうなるとやる気がない自治体がサボっているのでは?と思ってしまう。どうしても誰が悪いという話に収斂して言ってしまうわけである。
スタートダッシュが早かったところにはVRSによる優先枠がある。これがおそらく明石市長が言っている「利権」の正体だろう。つまり早くやったところにはインセンティブがあるのだ。一方、出遅れたところは「ワクチンの割り当てがなく中止せざるを得ない」というところも出てきているようだ。抑えていた会場が使われないという経済的損出も出ているようである。
この話は全体を整理して抑制的に書いた。不安に思う人がいるだろう体。
まずワクチンの種類と接種会場の種類を整理した上で、その後河野大臣の発言がどう変遷したのかを抑えて書かないと容易に迷子になってしまう。さらにシステムの混乱という全く別の問題がかぶさる。最後に「早く対応したところに褒賞を与えてオリンピックに間に合わせたい」という中途半端な菅総理の野心があり状況がさらに混乱している。
要約するとそもそも実力がない政府が実力以上のことをやろうとして混乱を加速させているということになる。批判する方も何が起きているかがわからないので「とりあえずあれこれ騒いでみる」ことになる。情報が氾濫して単に不安になる人が出てくるのである。