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印欧語族の広がりとチェルノーゼム

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前回は中国と農業について調べた。中国の北部には豊かな土壌があるが気候の関係で農地には向かない。だが南部では治水対策さえすれば工夫次第で収量拡大が見込めるコメという柵持ちがあった。一方、同緯度のウクライナにはチェルノーゼムという土壌があり今でも肥料なしで小麦が栽培できるそうだ。チェルノーゼムがインドヨーロッパ語族の繁栄に繋がったのではないかと考えて調べてみたのだがそう書いてある記事は見つからなかった。だがおそらく彼らの気質には大きな影響を与えているものと思われる。

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インドヨーロッパ語族がどこから来たのかという問いには答えが出ていない。アナトリアから8000年前に出て来たというアナトリア仮説と4500年前に出てきたというステップ仮説があるそうである。遺伝子の研究からはこの二説を統合するように、ヨーロッパへの移民の波は二回あり現在のインド・ヨーロッパ語族の人たちは4500年前にでてきた人たちの子孫であると考えられているという。だがこれも単純な「移民」ではなく現地の女性と東から来た兵士たちの子孫なのではないかという説もあるそうだ。

民族移動というと「強い国が侵略して来て現地人を席巻する」というイメージがある。だがおそらく当時の拡散には国家は関係がなさそうだ。さらに不毛の地に住んでいるバイキングが農地を求めて拡散したというイメージもあるのだがどうやら最初の拡散はそのような感じではなかったようである。

まずボスポラス海峡ができたことで気候が変わる。それまで狩猟採集で暮らすことができていた人たちが食料を得られなくなり周囲に拡散したという説があるそうである。彼らはおそらく狩猟採集民族であり「国家を作って組織的に収奪をした」ということはなさそうである。

それから数千年経ってウクライナにいた人たちも寒冷化や乾燥といった気候変動で周囲に拡散していったものと思われる。ある人々は西を目指してヨーロッパ人になった。そして別の集団はイラン人を形成しのちにインドまで進出した。その間にはいったんイラン化したあとで西を目指した人たちと混成した人たちもいる。これが現在のスラブ系だと考えられているのだという。こちらはまとまった集団を作って移住した可能性がある。

まとまった文字の記録がある最初の人たちはスキタイ人と呼ばれる。ギリシャ人が文字による記録を残しているそうである。スキタイには農民もいれば騎馬系の人たちもいる。スキタイはまた優れた金銀の工芸品を残していている。ギリシャ人が残した伝説は概ね考古学的に考証されているそうである。このスキタイ人の伝説によるとスキタイにはいくつかの部族があったようだ。遊牧のスキタイもいれば農業を営み穀物を輸出したスキタイもいたという。

この地域の農業は地中海東岸(レバント地方)から始まったようである。チグリス・ユーフラテス川には豊かな土地が広がっており狩猟採集でも十分に食料が得られた。ところがその周辺域にあったレバんントはおそらくそれよりも条件が劣っている。そこで土地を改良する「農業」という新しい形態の植物栽培が始まった。

もともと人類はコウリャンやタカキビと呼ばれる穀物を粥にして食べていたそうだが、そのうち地中海東岸でコムギ、オオムギ、ライムギなどが取れるようになる。さらにパンが発明されるとグルテンが豊富なコムギが重用されるようになり現在のような農業が生まれたという順番らしい。

まとまった研究はないものの組織的な農地開発をしなくてもある程度の収量が見込める土壌は「まとまった政治体を持たなくても社会が維持できる」人々を生み出したのだろう。これが河川対策が必要だったであろうエジプトやチグリス・ユーフラテス沿岸と違っている。

彼らは豊かな土壌からそうではない土壌に広がっていったわけだから農地を求めて出ていったわけではなさそうだ。ウクライナの北にはライ麦しか生産できない寒い地域がありポドゾルという栄養成分のない土が広がっている。つまり豊かな土地はある程度社会を発展させる。狩猟採集のまままとまりのない社会は国家の前段階にすら到達できないことになる。

ウクライナ周辺から広がったと考えられるインドヨーロッパ語族だがその後でテュルク系の人たちが西進して来て領域を分断してしまった。現在、インドヨーロッパ語族の故地の東側にはトルキスタン、ウズベキスタン、カザフスタンなどの国がありテュルク系の人々が暮らしている。

治水という大規模な国家事業を必要とした地域(中東や中国)とそうでなかった地域の差は歴然としている。前者では国家主義や集団主義の文化が発展したが、ヨーロッパは個人主義の世界になり、それが民主主義へとつながってゆくことになるのである。

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