経産省若手官僚コロナ支給金詐取事件について調べた。「慶応高校の学友とはいうが一人が申請して一人が使っていた」のだからこの二人は本当の意味では友達ではないのではないのではないかという指摘がQuoraにあり「それはそうだな」と思ったからだ。一人は慶応高校から東大に進み司法試験に通ったというエリートのようである。「この人ってどんな人なんだろうか」と思って調べてみたところなぜかやまもといちろうさんの文章が検索結果に出ていた。
記事では仮想通貨での「問題」が指摘されていて「別件逮捕されたのかなあ」というようなことがほのめかすように書かれている。これを引き合いに出してあれこれ分析すると「実は違っていた」ということになったときに困りそうなので引用するのはやめておくことにする。
だが、高級マンションとか高級車が500万円程度の詐取では賄えないというのもおそらく事実であろう。テレビでは「別件もあるのでは?」というほのめかしがあるものの別件が何なのかについて解説する人はいない。そもそも「別件」を調べていて形式犯として捕まえられる今回の件でとりあえず捕捉したという見方も出ている。
Quoraでも聞いて見たがこの件はあまり知れ渡っていないようで「あなたは何を言っているのですか?」扱いだった。
それでもこの指摘を取り上げたのは、官僚のコントロールは今後ますます難しくなるだろうなあと思ったからである。おそらくこの若手の感覚は昭和生まれの人たちとは全く違っているからである。労働経済を生きているのではなくゲーム経済を生きているのではないかと思う。ゲームは仮想世界なのでそこに善悪の入り込む隙間がない。特定のルールのもとで「勝つか負けるか」だけが重要な世界である。
最初には便宜的に「性善説」と「性悪説」というフレームを使った。これは国家とは労働からなりたっていてその労働者を守るためにはエリートによる善導が必要であるというかなり古い価値観に基づいたイデオロギーである。
ところがゲーム世代にはこの手法は通用しない。ルールがあってそのルールの中でいかに上手く立ち回れるのかというのが「ゲーム世代」の倫理観でありそこには性善説も性悪説もない。いいルールも悪いルールもない。ルール通りにやってバレなければ彼らの勝ちなのだから「彼らは今回ゲームに負けた」ということになってしまうのだが、でもそれだけの話なのである。
ゲーム世代の人は、今回の件を反省するかもしれないが「悪いことをした」とは思わないだろう。「なぜもっと上手くやれなかったのか」と考えるはずだ。
会社を設立したということが問題になっている。兼職禁止規定という決まりとしては禁止されているそうだがあまりチェックはされなかったんだなと思っていたのだが、実際には選考前に作った会社だったそうだ。おそらく選考の段階で経産省が調べようと思えば調べられたはずである。だが経産省はそれをやらなかったし当事者達も「バレたら大変なことになるから解散しておこう」とも考えなかったようである。徹底して結果が注目されていて「善悪」がない。
ルールはあっても監視されずに罰せられないのなら従わなくてもいい。安倍政権が培ってきた「新しい価値観」だ。だが彼らにはまだ後ろ暗さがあった。だから情報を隠す。ところがその政権のもとで育った人たちにはもはや後ろ暗さはない。それが当たり前の世界を生きているからである。「なぜ隠さなかったのか、恥ずかしくなかったのか」と倫理観のある人は考えるが倫理観のない人はそう思わない。
そう考えると色々な疑問に答えが出てくる。経済産業省はどうしてこの二人を見抜けなかったのかと考えた。当初は安倍・菅政権の作り出した良識や士気の低下が無関心体質を作り出し「二人の不心得者を生み出した」と考えた。だがそうではないかもしれない。
ゲーム性の高い仮想通貨は既存の経済学では理解ができない。だから、経済産業省はこれを理解できる若手を採用した。ところが「理解できない範囲」は予想を超えていた。
一度経済産業省に入れてしまった人を弾くのは難しい。公務員は身分が保証されているからである。今回は稚拙なルール破りで捕まったがおそらくそれを超えてくる人は出てくるだろう。官僚組織というのは一種のゲーム空間でしかないのだから「国に尽くす善意」のような勧善懲悪的な世界観では管理することはできない。もっといえば官邸が人事というルールを持ち出すならそれを利用して勝てばいい。恫喝される必要もなければ恐る必要もない。それは単なるルールだからである。
自民党の政治家たちがこうした官僚を管理できるのかという問題が出てくる。仮想通貨はおろかITですら管理できないのだから「おそらくマネジメントはできない」と考えた方が良さそうである。管理どころか理解さえ不能かもしれない。
Twitterではこのやまもとさんの記事を小西洋之参議院議員にご注進した人がいるようだ。当然政権の不正を暴いて点数を稼ぎたい野党には「格好の話題」だろう。では小西さんが全容を解明できるのかというとおそらくそれも難しいのではないかと思う。「官僚が国に忠誠を尽くすべきだなど」と訴えてみたところでもはや若手官僚の意識はそんなふうにはできていないからである。さらに小西さんが追求するのは経産省ではなく与党になるだろうが、おそらく理解できていないのだから説明も反省もできない。経産省の新世代は無知に守られていると言える。
仮に官僚組織が盤石で高い倫理観に守られているのであればこうした不心得者の例外者を排除することはそれほど難しくなかったのかもしれない。もはや今の官僚組織にはそんな倫理観は残っていない。それは安倍政権が完全に破壊してしまったからだ。そして日本の有権者はそれを受け入れてしまった。つまり、我々はこうした新世代から自分たちの身を守る術を持っていないのである。
安倍政権の官邸主導は単に倫理観を根底から欠いた排除不能な官僚を生み出して終わった。彼らが反省しようが退陣しようが一度できてしまったものがなくなることはないだろう。