高齢者を中心にワクチンパニックが起きている。電話回線が塞がれ、大阪では徹夜で密がつくられた。西尾市ではスギ薬品の会長夫妻が副市長に特別の便宜を図ってもらおうとしたことが問題になっている。蜘蛛の糸に群がろうとする人々の浅ましさという気がする。兵庫県の神河町では町長が「危機管理」として自分がワクチンを接種してもらったそうだ。だが、これだけではなかった。
隙あれば抜け駆けしたいと考えるのが日本人なのである。これに呼応して生まれたのが抜け駆けを禁止する文化だ。
日本人はもともとスパイト(いじわる)行動気質がある。お互いに足を引っ張り合い協力を嫌う。これは昔から知られている。もともと知られてた行動だが中国人と比べてもこうした意地悪気質があるのだそうだ。
加谷珪一さんがNewsweekで紹介している。記事には詳しく書かれていないが、抜け駆けがあると短期利益を度外視してフリーライダーを罰する文化がある。ゲーム理論的には合理的でない行動なのだが、フリーライドを抑止することから長期的に利益が得られる場合もあるということが知られている。これをスパイト行動という。
これはもともとリソースを持っている人たちが公共財の出し惜しみをしないための戦略だと考えられる。自分だけが勝とうとする人たちを「利益度外視」で罰するという「一見経済合理的でない傾向」が長期的なフリーライドを防いでいる。集団で監視しているから抜け駆けをしないということは、つまりパニックになると皆が抜け駆けをするということである。
この気質はメンバーが固定的でありリソースの総量が決まっている社会で日本人が学び取った生存戦略なのだろう。だが加谷さんが指摘するように日本の成長を阻害する要因になっている。協力文化が不在なので公共インフラが整備されず、新しい産業が育たないのだ。また、新しいビジネス提案があればまず否定する。さらに成功体験も他人に開示しない。成功体験が知れ渡ると叩かれてしまうからである。
特に高齢者はこの傾向が顕著だ。戦後の人口爆発期に生まれており競争が多い上に物がなかった時代に育っている。「公共」という考え方が発達せず社会の支援を受けられなかった人たちである。このため「自分だけが何かをもらえなくなる」という可能性に極めて敏感である。災害の時にパンを買い占めるのはこの人たちだが、災害=食べ物がなくなるという刷り込みがあるのではないかと思われる。
政府は慌てなくてもワクチンはあるといっている。だが実際にはワクチンは足りていない。それを一番よく知っているのが市長や町長たちだ。だから抜け駆けして自分達だけが接種するのである。
テレビをつけるとワクチンはやがて潤沢に受けられるようになるといっているのだが、高齢者はそんな言葉を信頼しない。でもそれは高齢者にリテラシーが足りないからではない。彼らは常に監視し続けていないと抜け駆けされるという「安心できない社会」に住んでいるのだ。誰も助けてくれないという了解があるからこそ貯蓄を溜め込み消費を落ち込ませている。
他人は助けたくないし公共など信じないが自分だけは助かりたいという傾向を持った高齢者たちが支えているのが現在の自民党政権である。皮肉なことに彼らはやたらと公共の福祉ということを語りたがる。彼らのいっている公共の福祉とはすなわち自分たちの利益のことだろう。これが自民党の憲法改正案によく現れている。
このワクチンパニックは日本が停滞している理由をよく示している。やはり高齢化による弊害が大きいのではないかと思う。とにかく自分たちだけが助かりたいと考える人が多いのだ。