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なぜ菅・バイデン日米首脳会談は失敗に終わったと行って差し支えないのか

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緊急事態宣言発出が視野に入った緊迫したコロナ対策を放り出してまで行った菅総理の初のメジャーな外交は失敗に終わった。菅・バイデン首脳会談である。今日はなぜこれが失敗に終わったのかを考える。背景には日米間の期待のズレがあるようだ。

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第一に菅総理はバイデン大統領からワクチンに対しての調整を断られたようだ。なぜバイデン大統領が仲介しなかったかの理由は表に出てくることはないだろうが、ファイザーは従来通り「今年中にはなんとかする」とだけ電話越しに伝えたそうである。河野大臣が菅総理のとりなしで9月までのスケジュールが確定したと宣伝しているが、オリンピックには間に合いそうにない。このことをロイター通信に聞かれた菅総理は何も答えなかったそうである。

バイデン政権にとって日本は脱中国のサプライチェーンを構築するためのコマに過ぎない。日本はその立場を利用して上手く立ち回るべきだった。だが、シナリオライティングは一方的にバイデン政権側が握り続けていたようである。

日本テレビの報道によると菅総理は最後までバイデン大統領との晩餐会にこだわりを見せていたそうである。成果があげられないのだからせめて「仲良しアピール」はしたかったのだろう。

菅総理は「よほどお腹が空いた人」だと思われたに違いない。短いミーティングにハンバーガーが出たというが菅総理は手をつけなかったそうだ。アメリカ人の気遣いのなさを感じる。手の汚れるハンバーガーではなくサンドウィッチにすべきだったし、おにぎりでもよかったかもしれない。

具体的な成果を上げられるはずもない菅総理の訪米の目的は、バイデン大統領と菅総理の間に「ジョー・ヨシ」関係を構築しそれを国内にアピールすることに絞られてゆく。NHKはこれを前提に「覇権主義に取り憑かれた先生国家中国」の台頭を「本来的には平和を願っている穏やかな日米両首脳」が憂慮しているという紹介の仕方をしていた。日米は首脳同士が個人的な信頼関係を勝ち得たのだから「これで関係が盤石になった」わけだし、その目的は世界施福を企む悪の中国を思いとどまらせる崇高なものである、というわけだ。

アメリカ側が単なる戦略の一環として日本を捉えている一方で、日本人はどこまでも関係にこだわりすがり続けている。それは総理大臣だけではない。国中がそうなっているのだ。

日本側は二つの点で大変意識が低いことがわかる。狭い視野でしか物事を考えられない今の政権には相手を見る余裕はない。

  1. アメリカの政治家が「自分が国民に言っていることと自分たちの行動を一貫させなければならないと感じている」ことが理解できていない。
  2. 二階幹事長の会食騒ぎでもわかるように、日本の政府首脳は自分たちが自国民に対して会食を制限していることの意味を理解していない。つまり日本政府は自国民に対する共感がない。

では、こうして結んだ「個人的信頼関係」にはどれほどの価値があるのだろうか。

「日米首脳会談で台湾について言及されたのは佐藤・ニクソン会談以来だった」と報道された。佐藤・ニクソン会談が行われた当時はベトナム戦争を背景に資本主義陣営の緊密な連携が重要課題だった。朝鮮・台湾・ベトナムというラインがありそれを共同支援するというのが当時の日米首脳会談の趣旨だったようである。

今回のニュースを聞いて「あれ?」と思った人は多かったはずである。ニクソン大統領はその後1971年に電撃的に中国を訪問する。いわゆるニクソンショックだ。つまり、大統領は中国と対立していてもアメリカとの国益にならないと考えて突如方針を転換してしまったのである。日本も慌ててこの方針に追随して中華民国と断交した。

ニクソン大統領はベトナム戦争を終結させることには成功したが政権は維持できなかった。ライバルの民主党を監視するための盗聴行為が露見してしまい罷免される前に自らが辞めてしまったからだ。こうした国内の禁句がなければベトナム戦争撤退という思い切った動きはなかったかもしれないし、台湾が断行されていたこともないのかもしれない。

つまり、前回は「おそらくはアメリカ内政の事情のために台湾は梯子を外された」のである。当然NHKがそれを伝えることはないわけだが誰でも知っている話である。

首脳同士の個人的な関係構築などアメリカはそれほど重要視しない。今回もトランプ旋風の大きさに恐怖心を感じているバイデン政権が内政のために脱中国化を図っているだけであり事情が変わればアメリカは方針を転換するだろう。

最後までチグハグな会見だなあと思ったがNHKは上手に記事をまとめて上手なアナウンサーが上手にプレゼンしていた。また日曜討論では聞かれてもいない専門家が「前回台湾が扱われた事情についてあれこれ考察しても仕方がないわけですが」と取り繕っていた。

おそらく知識のない人ほど「ああよかった」「ちゃんとしていた」と安心できたのではないかと思う。そうまでして成功を演出しないと正視できない。事情がわかっている人ほど「追い込まれ感」を持った訪米だったのではないかと思う。

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