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元首論 – なぜアメリカと中国は分かり合えないのか

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アメリカ側から中国のことを見ることはあるが中国の側からアメリカを見ることは少ない。Quoraでそう言う機会に恵まれた。ここからなぜアメリカと中国は分かり合えないのかを考えた。

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世界には国家元首(国王や大統領)と内政を担当する首相が別れている国が多い。

この中国の人の目標はおそらく中国は「独裁国家ではなく普通の国である」と証明することだったと思う。日本人の中に「中国は独裁国家だ」と中国を批判する人が多く辟易としているのだろう。ところが説明すればするほど中国の特殊性が浮かび上がってしまうことになる。

中国がアメリカと同じ民主主義国家だと証明することはできないし、証明できたとしてもアメリカが普通でない以上「普通の国だ」と言えない。おそらく藪の中を進んでいる感覚になるに違いない。

原因は中国の歴史的特異性にある。中国は皇帝権威を共産党に置き換えたが、歴史的背景に議会制民主主義の発展がなかった。このためヨーロッパや日本など普通の先進国が辿るべき道を辿れなかったのである。さらにここで民主主義国としてアメリカをリファレンスしたところが悲劇的だ。実はアメリカも普通の民主主義国ではない。

習近平国家主席は形式上は儀礼的な役割を果たしており議会に対して独裁的に振舞うことはないそうだ。つまり、中国議会には「一定の民主主義の権利が担保されている」という。

ここで「習近平は天皇のような者だがたまたま法定与党の党首である」と説明したところから話がおかしくなった。ちなみに法定与党とはこの人の作った言葉であって、実際には憲法にそう規定してある。中国の民主主義は限定的でありこの枠を出られない。戦前の日本が民本主義と言っていたのとほぼ同じことになる。実は中国共産党とは明治維新を成し遂げた主体と同じ役割を果たしている。それが君主制の形をとっているかあるいは共産主義なのかと言う違いでしかない。どちらも議会制民主主義が発達する前の未成熟な形態なのである。

戦前の日本の場合天皇は側近に祭り上げられた存在であり法的には独裁者として振舞うことができたとしても実際にそれは難しかっただろう。かといって議会もそれほど頼もしい存在ではなかった。だから最終的に軍部が暴走することになる。現在の中国がどうなっているのかはよくわからないが習近平や共産党のごくかぎられた人たちが独断で国を動かせる訳ではないと思う。何しろ巨大で複雑な集団の集まりだからである。おそらく同じ理由で誰かが暴走すれば止められなくなるに違いない。

ここで問題になるのが「党首」と言う言葉である。ヨーロッパでは普通に聞く概念だが、実はアメリカにはない概念だ。実際に聞いてみたところアメリカ政治は政党の存在を前提にしていないそうだ。例えば民主党には党務・行政(大統領)・立法(下院議長)という三人の責任者がいるそうである。つまり、アメリカは一人の人間が議会の上に立たないように細心の注意を払っている。この回答を書いた人は別のコメントで「やる気になればかなり権限があるので予算措置を巡って議会と交渉できる」と書いてきた。いずれにせよ交渉が必要になる訳でアメリカは王様が出現することを恐れる国なのである。

イギリスはローマ教皇の権威から離脱しさらにアメリカはイギリス国王の権利から離脱したと言う歴史がある。そこでアメリカはPoeple(民衆・人民)の上に権威をいただかない仕組みになっている。この歴史的経緯からアメリカ人は特に民主的議会の上に「別の権威」が君臨することを嫌う。この体制をとっている中華人民共和国とイラン・イスラム共和国が本能的に嫌われるのはそのためだ。

ここからアメリカ合衆国もまた、日本やヨーロッパなどの立憲君主国や元立憲君主国と比べると普通でないことがわかる。王のように振舞うトランプ大統領が許せないアメリカ人が多いのはそのためだろう。

中国は統治には権威と序列が必要だと考えているようだ。おそらく敵に囲まれていて多民族国家であるところからある種の序列が必要であるという集団主義の伝統があるのだろう。一方、英語のlaw and orderは個人が守るべき規範である。だから残念ながらAutorityと言う言葉は政治用語としては否定的な含みしか持たず権威主義というのはそのまま独裁体制のことである。ヨーロッパが長い歴史をかけて教皇権威から離脱し個人主義を獲得した名残なのだ。

日本人は中国は民主主義ではないからと言う理由で中国人に心ない言葉をかけることがある。ところが、日本人はアメリカや中国の民主主義をあまり理解していない。そもそも日本の民主主義体制がどのようなものなのかをわかっていない人が多いように思える。

今回の話の中では、アメリカが日本の天皇を理解できなかった話なども書いた。アメリカ人は君主と言うものの存在がよくわからなかったようだ。Wikipediaによるとマッカーサーは次のように整理しようとしたようだ。この時点では天皇に政治的機能があることがわかる。国民に対して責任があると言っている。

Emperor is at the head of the state. His succession is dynastic.His duties and powers will be exercised in accordance with the Constitution and responsive to the basic will of the people as provided therein.

さらにGHQはこう整理した。政治的権能がないのに責任は取れない。そこで現行憲法は内閣が議会に対して責任があるという整理になっている。

The Emperor shall be the symbol of the State and of the Unity of the People, deriving his position from the sovereign will of the People, and from no other source.

日本人が厳かな初日の出をありがたがるのに理由はない。とにかく見れば厳かな気持ちになる。普通の日本人はなぜ天皇がありがたいのかを考えない。アメリカ人はこれが理解できないので「初日の出がありがたいのはみんながそう思っているからでありその権威は見る人に由来する」と解釈した。これを心情的に受け入れられる日本人はほとんどいないと思うが、これが天皇に関して憲法に書いてあることである。

だが「ヨーロッパ人にいうと理解してもらえることがある」という別の人が現れた。ヨーロッパでは党首が議会代表になり国王や大統領に結果を奏上する。その意味では、先進国の中では日本やヨーロッパが最も「普通」なのかもしれないと思う。

この話の面白いところはSNSの登場によって数時間のうちに多国間の政治文化の違いが考察できてしまうということである。かつては留学でもしなければそんな経験はできなかった。便利な時代になったものだと思った。

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