ざっくり解説 時々深掘り

安倍政権の統計的欺瞞の崩壊

安倍政権が民主党を悪夢呼ばわりするときに「求人倍率の数字が向上した」という言葉を使うことが多かった。とにかく議論に勝てれば社会がどうなっても構わないというネトウヨ性に満ちた言葉である。だが、新型コロナウイルスの蔓延によりこれが欺瞞であるということが無視できなくなりつつある。

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まず安倍政権の政策を肯定的に見た記事を読んでネトウヨ性の源泉を観察してみたい。アベノミクスへの辛口評価は根拠なし、景気実感は実は改善しているという記事である。指標も実感も上がっていて自殺率も減っていますよと書いている「ファクトベース」の記事だ。

実際には慢性的な人手不足と仕事がない状態が混在しているだけなのだが、これを「平均値」で薄めようとしている。政策を統計だけで決めようとするとこうした雑駁な議論になる。問題解決を図るつもりがないが議論としては成立してしまい、問題解決どころかなかなか「論破」ができない。

これをあぶりだしたのが皮肉なことにコロナウイルスなのである。

実は人手不足は政府が仕事を作り出した結果ではない。人口動態の変化によって偶然起こったものである。民主党政権時代から始まっていて安倍政権の動きはこれを継承したものに過ぎない。

もちろん、民主党政権の手柄でもない。単に団塊の世代が抜けて正社員の成り手もいなくなっているから人が足りないのだ。

バブル崩壊以降、企業は自社で人材育成をせず即戦力を欲しがるようになった。だが教育機関も特に企業の要請に答えるつもりがない。結果的に誰も戦力を育てる人がいなくなってしまった結果慢性的な人材不足が起こってる。

安倍政権は働き方改革に取り組むと言っていたが経済界からの圧力に押され厚生労働省に統計を「調理」させた。国会議論は紛糾し国民に十分なメッセージは伝わらなかった。そのあとは生産性向上とかITを取り入れた施策だという言葉が踊るだけになった。

新型コロナウイルスは実はここを直撃した。雇用の調整弁だった女性に自殺者が増えた。新型コロナウイルスで非正規雇用切りが起こり「もう死ぬしかない」という人が生まれている。比較的に感染症対策はうまくいっていたので10月は自殺者の方が新型コロナの死者より多かったそうだ。「三浦春馬さんの自殺によって影響を受けた人が多いのでは」という観測もあり、実際にその影響は無視できないようだが、11月にもそのトレンドは続いていたという。新型コロナの影響は明らかである。

景気が上向いたことで自殺者が減ったという事実もあるので「安倍政権はよくやったのではないか」と思いたい人の気持ちもわかるのだが、その日暮らしの生活をしている人が多く数ヶ月も持ちこたえられずに統計に出てしまうという脆弱な構造に転換しただけだったことがわかる。議論で論破したところでこの現実が消え去るわけではない。政権と政権の擁護者はおそらく自分の地位や暮らしを守るためにこうした不都合な事実を黙殺している。

さらに「もう続けられない」企業が希望退職を募る動きもでているそうである。日経新聞が伝えている。巣篭もりでアパレル需要が減ったと言っているが業界転換に失敗した既存型のアパレル産業は構造転換を先送りしたツケを結局社員に向けようとしている。

労働環境が悪化する一方で、人手不足感も解消していない。日本学術会議の問題でもわかるように学術界は政治と「戦争中」である。予算を減らされたという恨みがあり、とても人材開発のために手を携えましょうという雰囲気ではない。ある意味冷たい内戦状態になっているのだ。

この内戦を俯瞰すると「企業構造も産業構造も自然に転換することないんだろうな」と思える。武器の使用はないもののエチオピアの部族闘争と同じような状態で、政府・経済界は、労働者、学術界、医学会と戦争している。経済のためなら多少の感染者拡大はやむを得ないというGoToトラベルなどはその象徴であろう。その後にはおそらく広告代理店救済のためにオリンピックキャンペーンがやってくる。スポンサーに追加費用を出させた手前「撤退する」とはいえない。

菅政権はある意味コロナウイルスと一緒に前政権の後始末に取り残されてしまったことになる。有権者も変化を望んでいるわけではないので低い支持率を背景にしつつ後継政権もできないという悲惨な状態になるのではないだろうか。

おそらく最も厄介なのは日本の困窮者が黙って死んでゆくところだろう。テレビが取り上げるとしても「運の悪い他人」扱いで、かわいそうな人を見て「私じゃなくてよかった」程度の話にしかならない。社会的に可視化されないのである。

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