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予算の「緊急事態条項」が選挙のために悪用されそうだ

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たまたま時事通信の「【点描・永田町】通常国会召集日と「年明け解散」」コラムを読んだ。特定の目的の補正予算は年度をまたいでもいいというルールがあるそうだ。これを財政の繰越制度というそうだ。主に災害対応などを念頭に作られたそうで平成22年(2010年)に発出されたという。要するに選挙スケジュールの都合で予算の単年度主義を破壊しようとしているという話である。これはいわば予算上の「緊急事態条項」であり、国会に報告しなくても良いのである。いかにも安倍菅政権らしい危険な使い方だなと思った。

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日本の財政は単年度制を採用している。予算と決算を一年単位にすることで無駄な予算がないかがチェックできる仕組みになっている。日本の国家予算は複式簿記ではなくこの単年度主義で規律を守っている。正確には複式簿記も取り入れつつ完全複式簿記にはなっていないという状況にあるそうだ。特に国会への報告は単式簿記的(つまり昔のまま)になっているという。つまり新しいチェックの仕組みを作らずに単年度主義を破壊することは財政規律を破壊することになる。これを対した議論なしに進めてしまおうとするところに菅政権を支える自民党の危うさがある。

この単年度主義の原則は国債の発行によって形骸化している。東京オリンピック後に冷え込んだ税収を補うための特例だった。その後「毎年が特例」ということになり現在まで続いている。だがそれでも単年度予算という原則は守られてきた。

この単年度予算の国会審議という名目を崩したのが10兆円予備費である。国会の事前決済が必要のない予備費を「コロナ対策」という名目で確保しても実際には選挙目当てでバラまけるという仕組みである。緊急事態だからこそ通った巨額の予備費が国民のために使われるという保証はない。

菅政権は早晩支持をなくすだろうから早めに選挙をやりたい。ベストタイミングは年始くらいだろう。だったら単年度予算の原則を曲げて選挙を優先させてしまおうというのだ。2012年のトラウマから議席を減らすことに対して強い恐怖心を持つようになった自民党は予算原則を曲げてまで自分たちの椅子に執着するようになった。

これまでも自民党は憲法草案を通じて基本的人権に対する理解がないことを示し、解釈改憲によって集団的自衛権を拡張させ、さらに新型コロナ対策という名目で予備費10兆円予算を通した。つまり国会の審議なしに内閣が独断で使える予算枠を増やした。

予め「目的付き予備費」という名目で予算を確保すれば国会審議にも単年度主義にも縛られない予算編成ができる。あとは政治的判断をしながら自分たちの選挙に有利になるように自民党・公明党で分配すればいいということになる。効果もよくわからない予算が執行されたりされなかったりする不安定さはGoTo系予算を見ているとよくわかる。

ところがこれまでのところこのアイディアを反対する人は誰もいない。国民は「自分たちの医療と年金が確保されていればあとはどうでもいい」と考えている。生産年齢の人たちは「どうせ税金は取られたら関係のない金になる」と考える。おそらくマスコミも「意見をいえば誰かから攻撃されるから黙っておこう」と思っているのだろう。

誰かがなんとかしてくれるに違いないという集団思考がある。

さらに野党もこの単年度主義の破壊は攻撃しにくいだろうなと思った。コラムを読み財政の繰越制度を調べた時には「安倍政権がやったんだろうな」と思っていたのだが実は2010年だった。つまり民主党政権が決めたことなのだ。

旧民主党出身者はなぜ財政の繰越制度を採用したのか、それが悪用される可能性を考慮しなかったのかを国民・有権者に説明する責任があるのではないかと思った。一度成功事例ができてしまえば「緊急事態」を名目に予算の健全化が根底から破壊される可能性がある。大げさに言えば「補正予算」は予算上の緊急事態条項であり国民主権を根幹から崩しかねない暴挙なのである。

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