トランプ大統領が負けを認めるか認めないのかということが話題になっている。この議論を聞いていると「多くの人がドナルド・トランプという人のことを理解していない」と思う。おそらく大統領は大統領職そのものへの執着はないだろう。彼にとって重要なのは有能な人間として注目を集め続けることだからである。
よくトランプ大統領は「サイコパス」とか「社会性の人格障害」と言われる。これは決めつけになることが多く安易に使うべきではないと思う。だがドナルド・トランプという人を分析するにはこの言葉が避けて通れない。
トランプ大統領の姪の「暴露本」にも「社会病質人格障害者」という言葉が出てくる。どうやら「臨床心理学者のメアリー・トランプ」さんと紹介されており心理学の専門家らしい。おそらくフレッド・トランプ・ジュニアさんというドナルド・トランプさんの兄の娘だと思うのだが、フレッド・トランプ・ジュニアさんは父親の後を継がずに42才という若さでアルコール依存症で亡くなっているそうだ。娘のメアリーさんが心理学を勉強するようになった裏には切実な事情があるのかもしれない。
サイコパスについて書かれた「平気でうそをつく人たち」という名著がある。この中には成功するサイコパスとそうでない人たちが描かれている。知能が高ければ高いほど成功する確率が増え、乱暴である人は社会規範とぶつかって破綻する可能性が高い。
だがドナルド・トランプさんの場合は環境にも恵まれた。アメリカのテレビはビジネスの都合を優先し政治にわかりやすさと爽快感を求めた。これに応えたのがトランプ候補である。彼はリアリティーショーのホストから政治のスターになった。そして、ネタを求め続けるYouTuberに格好の話題を提供した。
ではエンターティンメント世代のスターはどうやって生まれたのだろうか。
家庭環境の問題から条件付きの愛しか与えられなかったドナルド・トランプさんは父親との間に「有能であることによって受け入れてもらうという」取引をしたようだ。この逆側にいたのが父親の後を継がず最終的にアルコール依存症に陥って亡くなったフレッド・トランプ・ジュニアさんなのだろう。
おそらくドナルド・トランプの人生の目標は「常に有能な人であることで他人から認められ続けること」である。視聴率のためならなんでもやる生まれながらのタレントでありエンターティナーだ。大統領というのはそのための道具の一つに過ぎない。条件付きなので常に有能である必要がある。一方で、降板の理由さえ見つかれば大統領職を手放すことは特に問題にならない。
仮にドナルド・トランプが大統領であることを求めているのなら選挙戦で負けが確定した時にゴルフなどせずホワイトハウスに張り付いて大統領令を乱発しているはずである。だがドナルド・トランプさんは今後も注目を集め続けるためにはどうしたらいいのかということを考え続けているのだろう。
有能であることさえ担保できれば負けたこと自体は問題にならないのだからなんらかの不正があったから負けたということにしてしまえばいい。バイデンが勝った。面倒な大統領という仕事はバイデンにやってしまえばいい。だが負けたのは選挙の不正のためであってトランプ大統領時代の4年間が否定されたわけではないというわけである。
ドナルド・トランプのメインの仕事はなんだったのか。彼はプロのTwitterプレイヤーである。SNSは社会的病質者にとってはとても魅惑的な役割だ。何かするたび「いいね」の数が増えてゆく。それが純粋に好きでありTwitterこそが彼の人生の全てである。ドナルド・トランプの朝はとても遅いことで知られているそうだ。
記事によると、トランプ氏は午前8時~午前11時の間に大統領執務室で過ごす時間を「エグゼクティブ・タイム」と呼んでいるが、実際にはこの間、居宅でテレビを見たり、電話をかけたり、ツイートをしたりしているのだという。
トランプ氏の1日の時間割 オバマ氏やブッシュ氏と比べると
ドナルド・トランプさんにとってTweetをしてその反応をテレビで見ることこそが最も優先順位の高い仕事だったことになる。
ドナルド・トランプさんは注目を浴び続けることができるならばその舞台はトランプTVでもよいし法廷闘争でもいい。自分が訴えてもいいだろうが証拠がなければ「訴えられても」構わないということになる。これもおそらく常人の考える範疇を超えているのではないだろうか。
周囲がドナルド・トランプに引き寄せられる理由もわかる。彼の目的は有能な人間として他人に認められ続けることである。そのためには全力で支持者たちの欲求に応え続ける。つまりトランプ大統領の支持者たちは条件付きの愛しか受け入れられない父親と同じなのである。
テレビが作り出しSNSの「いいね」が育てた怪物がトランプ大統領なのである。
こういう話をQuoraに書いたところ、この現象をイエス・キリストに例える人がいた。支持者たちはドナルド・トランプさんが被害者になれば喜んで彼をサポートするだろうというのである。信者たちはトランプ大統領を闇の政府に迫害された被害者と捉えることになるだろう。さらにイエス・キリストの例でいえば「最悪の結末」が一番盛り上がる。キリスト教徒たちは今でも十字架に磔になったイエス・キリストを崇めている。
長い間アメリカの「負け組」の人たちは自分たちの違和感を説明してくれる何かを求めていた。もともとアル・ゴア時代の民主党は共和党を「どこか知的に遅れている人たち」と軽蔑していたとテレビのワイドショーが言っていた。アル・ゴア候補はテレビ討論会でブッシュ候補にあからさまなため息をつきこれが離反の原因になったそうだ。
おそらくトランプ・バイデンの交代劇が平穏なもので終わればドナルド・トランプさんは新しいショーの舞台を探すだろう。だが、その結末が悲劇的であればあるほどドナルド・トランプの神格化が起こるはずだ。
彼らはドナルド・トランプという例を見て「自分たちが成功できないのは闇の政府が自分たちを邪魔しているからだ」という信念を確信に変えてしまうことになる。おそらくこの被害者意識はアメリカの政治を根底から変えてしまう。成功者の国ではなくなってしまうからである。