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大阪都構想が否決で浮かびあがある新しい保守層の姿

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大阪都構想が否決された。

落ち目になった企業が次々と社長が入れ替わえ組織改編を繰り返すことがある。大抵こうした企業はどんどん落ちてゆく。社員が何を改めなければならないのかがわからなくなるからである。にも関わらず社長が組織改編を繰り返すのは彼らが経営の専門家ではないからだろう。マネージメントの知識がないので「形が変われば結果的に何かが変わるだろう」と思い込んでしまうからだ。これが政治の世界で行われたのが大阪都構想騒動だった。

外から見て「あれはなんだったんだ」と感じられるのはそのためである。

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大阪都構想が否決されたら松井大阪市長と吉村知事はどうするのだろうと思っていた。どうやら松井さんは政界を引退するという。だが任期はまだ2年も残っている。吉村知事がどうされるのかということはまだよくわかっていないが、おそらくのこの人は最初からあまり都構想には乗り気ではなかったのではないかと思う。とにかく、大阪維新はどうやら吉村さんを中心に出直すようだ。橋下・松井に続く三代目藩主ということになるが、求心力を維持するための大阪都構想に変わる新しいビジョンを作る必要がある。

よくわからない構想だったにも関わらず、投票率は高かった。争点のない地方選挙は3割4割というのは珍しくない。しかし、今回は事前の投票も好調であり最終的な投票率も6割を超えたそうだ。朝日新聞は「反対多数」と伝えたが実際はかなり僅差だったという。わずか17,000票差ということで都構想に賛成した人も多かったのだ。

もともとこの都構想はバブル崩壊期に取りざたされた日本再生プランの生き残りである。最初に言い出したのは平成維新の大前研一さんだろう。連邦制のアメリカ合衆国を模倣して地方の競争を促し脱工業国化を目指したものと考えられる。アメリカはこのやり方で最近までうまく行っていた。橋下徹さんに伝言される頃にはオリジナルのアイディアが失われており、さらに松井さんに引き継がれた時には「大阪が都になれば東京並みになる」というような代物に変質していた。元々の理論的背景が全く失われていたにも関わらずここまで投票率が高かったのは、政治家の熱量によるものだろう。言い換えれば政治家の熱量に住民が翻弄されたことになる。

最初、大阪維新は貧しい大阪南部に支えられていると考えていた。あまり政治リテラシーがない人たちが維新を応援していると思っていたのである。だが、実際の選挙結果を見ると北部の方ほど賛成率が高かったようである。これを南北格差といって収入の違いによって説明する人もいる。

だが、これについて前回と今回の投票を分析した日経新聞は「若い人が多いほど賛成に回る傾向がある」と分析している。正確には若くて大阪に新しく移って来た人が多いほど改革志向が強いのである。年収や教育レベルはあまり関係がなさそうだ。

この大阪都構想で得られた一番の洞察はおそらく都市に流入してくる若い人たちが持っている新しい保守思想である。おそらく彼らは正解や正統性にこだわる文化は持っているが、現状の閉塞感を打破してほしいという気持ちが強いのだろう。「錦の御旗願望」である。これは昭和の認識とはかなり異なる。昭和には伝統を打破するような新しいものが改革であるという理解が一般的だった。彼らは革新勢力と呼ばれたが「大きな一度の変化」ではなく漸進を求めていた。

現在は新型コロナの感染拡大が広がり経済の見通しが立たない。こんな中、普通ならば「今ある枠組みの中で安心感が得たい」と考えても当然だろう。実際に旧市民が多く暮らす南部はそう考えた。

実際に維新が「5年後にはコロナの影響などないだろう」と楽観的な見通しを語る一方で、自民党は新型コロナで使えるような資金は大阪市が分解されると少なくなるというようなことを訴えたようである。

日経新聞は次のように伝える。

これに対し、反対派の北野妙子・自民党市議団幹事長は「コロナ(の影響)は実業に及んでいる。都市の形を変えることにエネルギーを使うことなく、じっと耐えて(経済を)復元させることが大事だ」と反論した。

大阪都構想、新型コロナ影響や福祉巡り討論 賛否両派

日本人は不確実性ではなく安定性を求めるはずである。だが大阪ではこの意見に耳を傾けない人が相当数いたことになる。大阪には近隣から多くの若者が流れ込む。その意味では大阪市北部は他の地域とは顕著に異なっている。

事前に読んだものに「大阪自民と共産党はパブリックエネミー」と書いてあるものがあった。大阪都構想が僅差で否決されたとはいえ現在の政治は右も左も何も変えられないと考えている人がいるようだ。おそらく破壊的な維新に期待する人は大阪に残り続ける。大阪の問題は何一つ解決していないし不満を抱えた層も残ったままである。

おそらく日本の右傾化はさらに進むことになる。現在の「ほどほどで穏やかな」政治を望む人たちはどんどん消えてゆき「自分たちが望む改革は実現してこない」という不満を持った人たちがどんどん増えてゆくからである。

ここから予想されるのは錦の御旗を持った人が現れて世の中を上からごそっと変えてくれるという救世主願望の渦巻く次世代の日本である。昭和の盛大が持っていた暮らしは日々良くなるという認識は不健全な形で破壊願望として引き継がれた。

都市に政策をベースとした話し合いの文化は生まれなかったようだ。生まれたのはラディカルな破壊者を待ち望む、考えもまとめられない人たちの群れだったのである。

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