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大分県姫島村の選挙 – 首長選挙はない方がいいという人たち

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大阪都構想の影に隠れて全く注目されなかったが、大分県姫島村で村長選挙があった。投票率は8割を超えたそうだ。姫島村では前回2016年以前には選挙がなかったことで知られている。前回の村長選挙の時も村長が「狭い村では首長選挙はない方がいい」と語ったという。選挙は島を二分するだけで分断を引き起こすだけだというのである。ではなぜ選挙は政策競争にならず単に島を二分するのだろうか。

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前回2016年の選挙は父親から村長を引き継いだ現職と教育長の70代対決だった。同じ藤本という名前だが親戚関係にはないという。

なぜ姫島村では選挙が行われてこなかったのだろうか。前回(1957年)の選挙戦を知っている人は記事の中でこう言っている。

「まさに村は真っ二つ。すごい選挙だった。金も双方飛び交ったと思うよ。陣営の締め付けもすごかった。漁師同士もケンカしよった。太鼓叩いて、運動会の応援団みたいなことをしおった。自分の商売を懸けて、社運を懸けて応援するんじゃからな。必ずしこりが残るよ。今でも残っているかもしれん。選挙はないほうがいい。無投票というのは、地域で信頼されているということなんだ」

「首長選挙はないほうがいい」― 村長が公言する「姫島」のいま

こうなるには理由がある。大分県の県民性は熱し易く冷め易いことで知られている。山形県立米沢女子短期大学紀要に「大分県における公明選挙運動」というPDFが掲載されている。こんな文章がある。

他当時、大分県は熊本県とともに政争県として有名で、憲政政友両政党の医者が村々にあり、敵同志の縁組はご法度、政党の勢力転換とともに駐在巡査はもちろん教員や穀物検査員まで、首のすげかえが行われる状態だった。

大分県における公明選挙運動(亀ヶ谷雅彦

実は大分県は選挙に熱くなりやすい県民性を持っていてそれは戦前から続いていた。戦前の二大政党制が劇場化する理由について書いている本でも読んだことがあるので、おそらく本当なのだろう。

大分県は小さな藩に別れていてまとまりがなかった。と同時におそらく仲間を作ってお互いに競い合うという気風があるのだろう。つまり大分県は集団主義が強い地域なのではないかと思う。個人主義では個人の考えが政策になりそれが政策論争になる。ところが集団主義が強ければ強いほど、どっちの集団が社会を支配するのかということになる。普段はなんとなく住み分けがあるわけだが「白黒はっきりさせよう」ということになると容易に分断してしまうのである。

では実際の選挙はどうなるのか。政策ベースの社会では危険思想が広まりかねない。ところが集団主義が強い文化では抱き込みが起こる。要は買収合戦に発展するのである。戦後に行われた大野町の選挙の様子である。札束が飛び交っているのがわかる。民主主義は危険思想ではなくなったがこれではとても戸別訪問の再解禁などできそうにない。

27日の記事には、候補者が地区推薦のためその地区の人々が指導者の指図によって半ば強制的に順番に運動員として出動して、戸別訪問が全く無制限に法規の持外において行われたことや、「全部落運動員」という状態で町の産業であるタバコの管理が低下し1000万円を下らない損失が予想されること、買収のための宴会が聞かれたり、小さな会合に候補者から酒が運び込まれたり、助役になるのを条件に何十票かを売り込んだ情報があるといった事例が挙げられている (7月27日)。

大分県における公明選挙運動(亀ヶ谷雅彦

大分県はまた保守的な傾向でも知られる。この場合の保守は普通一般に言われるそれとは異なる。唯一55年体制の名残が残っており社会党が強い地域があるのだ。沖縄県と占冠村にも社会党の強い地域があるそうだが沖縄県は基地問題をめぐる国との対立構造がある。古い構造が唯一残るという意味では九州の中でも特殊な地域だ。

どうも日本の政治的地図にはあまり意味がないようである。たまたま有力な政治家が出ると利権が作られそこにムラができるようなのだ。多くの地域では新しい住民が入り込みそのムラが消えるのだがなぜか大分県にはそれが残っている。社会党が強い地域はその典型である。55年体制がなぜか大分県にだけ残っているのだ。

姫島村もまたその典型である。自民党副総裁まで上り詰めた人がこの島の出身であり高度成長期にエビ養殖場の利権が持ち込まれたようだ。村長はその財政を基盤に村の仕事を分け与えることで人口流出を防いだ。

このワークシェアリング政策に関しては匿名ブログの記事によくまとまっているものがあった。

  • 昭和40年代の高度経済成長期に考案された。
  • 過疎ではあるが限界集落は発生していない。
  • 代わりに村役場職員の給与はとても低く、島全体の所得水準も低い。
  • 経済基盤は自民党の実力者とコネのあった現在の村長の父が誘致した。大分県は社会党が強いことで知られるがこの島は例外的に保守の島であり続けている。

今回の姫島村の選挙の結果はかなり高い投票率だったようだ。村流の官民一体政策のおかげでさぞかし現職が強いのではと思ったのだが実際には現職の得票は1000票以下だった。意外と不満が溜まっているのかもしれない。

確定得票は昭夫氏927票、敏和氏594票。投票率は86・21%(2016年は88・13%)。

大分姫島村長が10選 「選挙は島二分」村民の胸中複雑

この村にも実は変化の兆しがあるようだが、おそらく変化を望む人たちが多数派になることはない。こうなるといつまでも不満を抱える少数派が残り続けることになる。実は日本の典型的な姿がこの姫島村にはある。

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