ざっくり解説 時々深掘り

安いバナナの代償 – アメリカ合衆国に移民がやってくる理由はヨーロッパとは異なる

先日はヨーロッパとアフリカの関係を見た。ヨーロッパの豊かさが波及し人口が増えて教育程度も上がるのだが社会の中にそれを吸収することができない。そこに気象変動や疫病などが広がると難民の動きがでる。動きができるとやがて貧しいところから豊かなところに向かうという図式である。で

はアメリカにもそういう事情があるのだろうかと思って調べてみた。だが、アメリカは少し事情が変わっているようだ。単純化すると安い食料供給と労働力のために混乱しているのである。応分の分配のない民主主義は持続性に問題が出ることがわかる。

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トランプ大統領のアメリカでは不法移民の子供が親と引き離されることが増えているという記事が出回ったことがある。それが2018年頃である。国際的な批判がありその政策は撤回されたようだが表向きは撤回されたもののまだ続いているという2019年の報道もあった。だが実は最近になっても問題は解決していないそうだ。最近2020年のニューヨークタイムズの報道でもメキシコに追放される子供もいるという。

U.S. Expels Migrant Children From Other Countries to Mexico
Children from Central America are being sent across the border to Mexico, where they may not have any family. An internal email said the transfers violated the government’s own policies.

U.S. Expels Migrant Children From Other Countries to Mexico

アメリカは移民して来た子供を他の国からメキシコに追放する

中央アメリカから家族がいないかもしれないメキシコ国境に送られている。内部メールが移送は政府自身の政策に違反していると言っている。

大統領令で「引き裂かれた親子」がいないと仮定するとおそらく「子供だけでも先に送り込んでおこう」という親がいるのだろうかと思う。だが、文章の中には別の記述もある。2017年以前に引き裂かれている子供の中に親に会えなかった子も500名以上はいるというのである。

A report to the courts this month revealed that the parents of 545 such children currently in the United States, some of them separated from their families as long ago as 2017, still have not been located.

U.S. Expels Migrant Children From Other Countries to Mexico

2017年以前の政策の問題なのかもしれないし「家族がいればアメリカ合衆国に迎え入れてもらえる」ことを期待して子供だけを送り出す親がいるのかもしれない。そう考えてさらに調べてみると「このままでは将来がない」という親が子供だけをブローカーに引き渡すこともあったようだ。これは2014年の話なのでトランプ政権以前の話になる。オバマ大統領はこれに有効な対策を打ち出さなかった。実は問題はトランプ政権以前から始まっていることになる。意外と複雑なのである。

いずれにせよ、最終的に犠牲になっているのは子供達だ。

ではこの子供達はどこから来たのか。彼らは実はメキシコのさらに南からやってきている。それがホンジュラス、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバトルである。この域内では人の移動が自由なのだそうだ。この地域はアメリカにフルーツやコーヒーを供給する食料基地になっている。ユナイテッドフルーツが利権を持っていてアメリカの介入などもあった。軍とアメリカを背景にした押さえ込みがありそれに反発して左派政権ができるというようなことを繰り返している。このため政情が安定せず中間所得層の人たちが国を捨てて逃げ出してしまう。

ではなぜこの地域は貧しいのか。それはスペイン領だった地域の行政区の区割りに原因があるようだ。旧スペイン領はメキシコとコロンビアが中心地になっていてどちらから見てもこの地域は僻地にあたるという。

この中に二つ特異な国がある。コスタリカとホンジュラスだ。

コスタリカは軍をなくし政府が管理できる警察力を強くすることで不安定要素をなくし所得水準としては中進国化している。一方、悲惨なのがホンジュラスである。ホンジュラスについての記事を翻訳したことがある。もともとスペイン(中心地はコロンビアだった)から見てもメキシコから見ても最果てだったこの地に関心を持つ人はいなかった。他の国は左派勢力が世情を混乱させるのだがホンジュラスはカトリック教会が「寄り添ってしまい」ホンジュラスの人たちは現状を受け入れてしまったそうである。

アメリカは自国に安い食べ物を供給するためにこの中央アメリカの国々を犠牲にした。この国でまともな教育を受けたとしてもまともな仕事はない。そこでこういう人たちがアメリカに流れ込む。このために国内で産業が育成されず人々は貧しく治安は安定しない。さらに一旦内戦を経験した人たちは平和になってもやることがない。このため政情が安定しないのだ。ついにたまりかねた人たちが国を逃げ出す。ほんの一部がメキシコを超えてアメリカ合衆国を目指すのである。そして移民政策が厳しくなると「子供だけでも助けてもらおう」という親が現れる。こうして問題が徐々に複雑化したのが現在の姿である。

最近では飛行機に乗れないなら歩いて渡ろうという人たちも現れている。キャラバンという。東洋経済によるとキャラバンが発生したのはホンジュラスだがSNSに乗って拡大しているようだ。だがその人数はたかだか7,000人程度であり多くの移民は飛行機に乗って合法的にアメリカに入国しその後ビザが切れたような人たちである。アメリカ合衆国にも低賃金労働者がいないと成り立たない産業はあり、そうした産業が実は彼らの受け入れ先になっている。

ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグアはC-4と呼ばれていて4,600万人は域内移動が自由なのだそうだ。60%が貧困層で40%が食糧難にあえいでいる。これはアメリカ合衆国だけのせいではないのだが、原因の一因になっているのは間違いがない。

結局アメリカ合衆国の政情不安の原因の一つはアメリカそのものが作り出している。この地域は安い食料の供給基地になっておりアメリカに安い労働者(不法とは言えその労働者に依存するアメリカ人もいる)の供給源にもなっている。

ユナイテッドフルーツ(現チキータ・ブランド)がこの地域を支配していたのは有名な話である。こうした不法移民の扱いはトランプ大統領が躍進するきっかけになっている。メキシコに壁を作ろうというのがそれである。またオバマ政権も抜本的な解決策は見出せなかったわけで、バイデン候補が新しい大統領になってもこの問題を解決することはできないだろう。南部の国境を接する州の不満は収まらない。結局のところアメリカ人の暮らしを支えるために分割管理されていた人たちがアメリカの治安を揺るがしている最初の原因になったことがわかる。

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