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もう何年も会話がない同居離婚夫婦の口論に似てきた日本学術会議の議論

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日本学術会議をめぐる問題についてQuoraで書いている。コメントをもらうのだが「これは深刻だなあ」と思うことが多い。橋下徹さんがテレビでインテリいじめを展開していることもありあまりワイドショーを見なくなった。見ていてしんどいのだ。

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問題そのものは政治村と学術村の叙任権をめぐる戦いにすぎない。さらに菅総理が「自分は見ていない」と置いたので、一気に菅政権の内部統制は大丈夫なのか?という問題になった。申請書類がいつの間にか改竄されており申請者が申請したものを総理は見ていないという。

となると起案者(もう名前もわかっている)が勝手に改竄したということになってしまう。政府に出した申請は「中で都合が良いように改竄されてもしかたがない」と諦めざるを得なくなる。国民が自民党を選択したとはいえ、流石に書類の改竄をやってもいいですよという許可を出した覚えはない。だからテレビは大騒ぎしている。

だが、そんなテレビも政権批判は受けないことを知っている。だから橋下徹さんを引っ張り出してきて他者をいじめさせているのである。その期待に応えようと橋下徹さんはテレビで受けるインテリいじめを続けている。

おそらく橋下さんにもこれが無理筋の議論だということはわかっているのだろう。ワイドショーで申請書改竄問題が触れられた途端に「もう時間がないんじゃないですかね」と国山ハセンアナに目で訴えていた。その様子はまるでコントのようだったが視聴者はそれほど誰かを叩きたくて仕方がないのだ。

外から見ているとこんなバカバカしい話はない。QUoraの法務の専門家も呆れているようで「どう落とし所を作るのか」ということが関心事になっている。だが、この議論に乗ってしまう人たちがいる。普段から思うところがあったようである。これがしんどい。

まず第一に学術界の人が三浦瑠璃を褒めているのを見た。例の「餅は餅屋に任せておけ」という議論である。三浦瑠璃さんはおそらく学術界を知っていて「あの人たちは面倒くさいから関わらないほうがいい」と思っているのだろう。脳科学者の茂木健一郎さんも「面倒臭い人たち」と言っている。だが学術のことは学術の自治に任せるべきだという点が気に入ってしまったようだ。

この方が前段で「日本は何でもかんでも経済を優先にしたという時代がありその時代に学術軽視の姿勢が形作られてしまった」と主張されていた。つまり、もともと実業にはあまりいい印象を持っていなかったようである。だから学術界は学術界で好きにやりたい。

今回の問題で学術界が支持を得られない理由の一つは学術界が持っている一種の被害者意識と引きこもり姿勢だろう。学者たちには「あるべき理想の社会」というものがある。そして、それがなんらかの理由で実現できていないと考えている。だから学術界と実業界はタッグを組めない。実業は卑しい金儲けにすぎない。この姿勢が学術は「実業に貢献できていない」という一般の理解につながる。だから「そんな学術界に10億円も」という理解になってしまうのである。

次に、実際に大学の先生をしている人たちの中にもある種の被害者感情があるようである。ある人は地方のあまり名前の知れていない大学の先生の文章を引き合いに出していた。このネットの有名人が学術界にルサンチマンを抱えていることは明らかである。ネットでは有名だがおそらく学術の世界ではあまり相手にされていないのだろう。そこで彼は日本学術会議は共産党の巣窟なので菅総理はこの共産党潰しのための秘策を練っているのだろうという文章を展開していた。こういう文章はネットでは売れるだろうなと思う。

アメリカではQアノンという現象が問題になっている。アメリカにはdeep throatと呼ばれる人たちがいてアメリカをめちゃくちゃにしようとしているという陰謀論である。このdeep throatたちに立ち向かうQという人物がいてそれがトランプ大統領かもしれないというお話が出来上がっている。共産党は日本版のdeep throatなのだろう。

複雑な状況を理解できなくなった人たちは最後に陰謀論に頼る。そしてそれを信奉するのは頭の悪い人たちではない。ある程度のリテラシーを持っていて社会の第一線で活躍しているような人たちなのである。一生懸命に頑張っている人ほど「踏みとどまっていて」こうした陰謀論に依存してしまうのである。

ところがまた別のコメントがあった。こちらは改行なしにぎっちりと書いてあるのでおそらくは高齢者の文章だと思われる。スマホに慣れた人はこんな文章は打ち込まないからである。この文章は次のような構成になっている。

  • 戦前の日本の科学技術は世界先端だった。それを支えたのが国と一体になった学術界だった。
  • アメリカが言論統制を行いGHQが兵器研究を放棄させる目的で日本学術会議を作った。日本学術会議はそのしがらみを抱えている。
  • そもそも民生品と軍用品の区別は基礎研究の段階では区別がつかない。
  • こうしたGHQのしがらみを抱える日本学術会議は解散させられるべきである。
  • 10億円は若手の研究費用に回すべきであって、日本学術会議は財団法人として政治から独立させるべきだ。

もちろん、この主張の中には政治的主張として考察しても構わないようなものが含まれているのだが根幹は共産党がGHQになっただけである。

どの人も日本の科学技術がなんらかの問題を抱えていてそのために成長ができなくなっているということは認めているようである。共通認識があるのだから話し合いがあっても良さそうなものだ。だが日本人には超えられない二つの壁がある。自らを壁に閉じ込めていると言っても良い。

  • 集団としての自分たちを反省できないし失敗も認められない。
  • 権威を批判するのが怖い。

GHQ陰謀論にせよ共産党陰謀論にせよ重要なことを忘れている。高度経済成長期の日本の科学技術力はそこそこ優れていた。世界から尊敬されておりアメリカ人は脅威に感じてもいた。もし日本の科学技術が戦後すぐに<去勢されていた>としたらおそらくは戦後の復興も高度経済成長もなかったはずである。もともとはできていたことができなくなったわけだからなんらかの原因があるはずなのである。だがだれもこの二つの壁を超えられないので「誰かに罪をなすりつける」しかなくなる。その行き着く先が陰謀論なのである。

日本の学術と実業は昔から同居離婚状態だったのだろうが、欧米の先進事例をそのまま持ってきて研究していたのでその破綻が明らかにならなかった。いよいよモデルがなくなり問題が表面化したのだがいまさら別居するわけにもいかない。もちろん話し合いもできない。そこでお互いに罵り合うことなく愛犬に向かってお互いの悪口を言い合っていた。おそらくそんな状態だったのだろう。

その意味では安倍晋三という装置は実に偉大だった。中心に巨大な虚があったおかげで誰も内省せずに済んでいた。それぞれが安倍晋三をたたえ、安倍晋三を非難していればよかったのである。

この日本学術会議をめぐる中核議論は実に簡単だ。一部の政治家がわがままを通すために誰かが書類を改竄させた。ただそれだけなのだろう。だが日本人がそこに行き着くことはない。どうしても日本の衰退を直しなければならなくなってしまうからだ。成功モデルが消え愛犬もいなくなった。あとは孤独な空間で独り言のように相手を非難し続ける。菅政権というのはそういう時代なのかも知れない。

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