トランプ大統領が新型コロナウィルスに感染した。わかったのは金曜日だったが「簡易テストで陽性判定が出たあとに口止めをしていた」という疑惑もあるそうだ。このニュースは日本語で見ていた人と英語で見ていた人で印象が異なっていたように思える。ある単語の翻訳が問題になっている。
英語でニュースを見ているととにかく曖昧で不確かであるという点が際立って見える。「今は酸素吸入を受けていない」ことと「この先48時間がcriticalになるだろう」ということはわかったが、そもそもどんな状態で入院したのかがわからない。当初かなり劇的な症状が出ていたが救命措置を受けて急速に回復したものと類推されている。
さらにトランプ大統領が受けたとされる実験的な治療の中には向精神的な作用を持った薬が入っていて大統領の精神状態が正常でないであろうこともわかっている。トランプ大統領は大文字の短いTweetを繰り返しており、この憶測が正しいことが伺えるのだ。ここから大統領は選挙キャンペーンの遅れに焦りを感じウィルスをばらまくリスクを犯しつつ自分だけは特別扱いしてキャンペーンに戻ったんだろうなという印象が得られる。とにかくめちゃくちゃなのだ。
アメリカではこれがかなり批判的に報道されている。普通だったら隔離措置が取られるのが普通だがトランプ大統領は選挙キャンペーンを優先しこれを破った。つまり今後しばらくはウイルスをばらまく可能性があるということだ。日本ではクラスターと表現されるのだが英語ではhotspotと言われている。トランプ大統領は安全な病院からホットスポットに舞い戻ったのである。
一方で、日本の放送局はこのcriticalという言葉を様々な表現で伝えた。例えば「次の48時間がヤマになる」とか「これから48時間が正念場だ」などという表現が見られた。確かにcriticalにはそのような意味もあるのだがこの単語だけが一人歩きし48時間の危機的な状況を脱したからもう大丈夫なのだと捉える人が出てもおかしくない翻訳になっている。
さらにトランプ大統領自身が次の48時間がthe real testであると言っている。日経新聞が試金石と訳しているがNewsweekはこれも「正念場」と訳している。日本語で試金石というとちゃんとしたことを言っているように思えるのだが原語の「リアルテスト」の意味がよくわからない。試金石とか正念場という言葉からはその曖昧さが伝わってこないのだ。
さらに48時間という言葉を調べていて面白いものを見つけた。シリアの状況を語る時に次の48時間で重大な検討をすると言っている記事を見つけた。ところが具体的には行動はなかったようである。48時間という言葉はトランプ大統領にアイディアがない時に使われる言葉である可能性がある。
今回トランプ大統領が最初の簡易検査のことを隠した時「次の数日で結果がわかるから今は慌てるな」と側近に口止めしたという話が残っている。明らかな時間稼ぎだがこれを「48時間」と具体的な時間にしてみせるとなんとなく「具体的な考えがある」ように聞こえてしまう。これがリアリティーショーで鍛えられたトランプ・マジックである。意図的ではないのだろがそういうレトリックを使ってしまう人なのである。
英語で聞いていると「どこか曖昧で危うい」退院だったことがわかるうえに今後数日はウイルスを撒き散らすかもしれない。この程度の人がアメリカの新型コロナ対策を指揮しているわけでかなり深刻な事態になっている。逆に「言葉の確かさ」からトランプ大統領を進行している人たちもいる。彼らは大統領の復活劇を見て拍手喝采だろう。だが、日本語で聞いていると「正念場を通り越して回復したんだな」というような印象だけを持った人も多いのではないだろうか。きれいな言葉で翻訳されるとそれっぽく聞こえてしまうのである。