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SNSとトランプ大統領によって破壊されるアメリカの民主主義

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政治を語るときには人格とトピックは分けて考えるべきだと言われることがある。確かに冷静な議論を行う上では重要なことなのだが、最近のアメリカはこれが当てはまらない。集団で狂気に駆られているようにしか見えないからである。その中心にいるのがトランプ大統領である。とにかく自分の失敗を認めたくないために24時間的を作って戦っている。この問題はかなり深刻なところまで来ているようだ。ついに軍隊の離反が始まったのである。

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事の始まりはトランプ大統領が「選挙に負けたら平和的に政権を移譲するのか」と記者に聞かれたことだった。この質問にYes以外の回答はない。だから、普通「そうする」と答えるべきなのだがトランプ大統領はそのお約束を破った。

トランプ大統領の理屈はこうである。民主党は郵便選挙を強行しようとしている。郵便投票を行うと外国人が不正な投票を行う。公正が担保できないのだからこの投票の企ては無効でありそれを推進することは法秩序に対する犯罪行為である。だから許されないというのである。

とにかく選挙に負けたくないトランプ大統領は選挙さえなければ負けることはないと思い始めているのだろう。現実を受け止めたくない、受け入れられないというのは政治課題の問題ではなく人格の問題である。

例えて言えば、「テストを受けるのがいやだから学校が燃えてしまえばいい」と思っているようなものだ。普通の大人はそんなことを思っても口にはしないのだが、トランプ大統領はそれを言ってしまう。いうばかりではなく色々と画策もしているようだ。Twitterで郵便投票はインチキだと主張してみたり、自分の支援者を郵便公社のトップに据えて郵便ポストを撤去しようとした。ありとあらゆる手段をとって負けを回避しようとしている。彼にとって負けとは学習の機会ではない。単なる敗北であり人生の終わりなのである。

この郵便投票論争はアメリカでは大きな騒ぎになっているのだが、BLM運動に軍隊の導入がほのめかされるようになると冗談ではすまなくなってしまった。軍のOBがバイデン候補への支持を表明した。これはアメリカの歴史上異例なことなのだそうである。ロイターは軍は大統領ではなく憲法に忠誠を尽くすと書いている。またペンタゴンも権力移譲には関与しないと表明した。もしトランプ大統領が自分が持った権限により軍に出動を命じても軍隊は出動しないということになる。軍隊は自らの意思でそうするのであり立派な政治介入である。つまりアメリカ軍はそこまで追い込まれている。

BLM運動への対応がまだ人々の記憶に残っている。トランプ大統領はこの抗議運動を暴動と捉え軍を投入して押さえ込もうとした。実際にトランプ大統領にはその権限がある。「反乱法」というそうだ。トランプ大統領はBLM運動を反乱とみなそうとしたのである。

CNNの記事を読むと、選挙で負けた瞬間から(勝利宣言がなくても)政権は移行期間に入る。このため大統領の職務は制限されることになるとされている。また、憲法や法律は大統領選挙と政権移行において軍隊が関与することは想定していないとしている。BLM運動押さえ込みのためにトランプ大統領がしでかしたことが選挙後にも起こるのではないかと人々は恐れている。軍は巻き込まれた瞬間から人民の敵になってしまうだろう。

この文章だけを読むとトランプ大統領の落選が決まっているというように読めるのだが、実際にはそうではないというのが恐ろしいところである。接戦州ではトランプ大統領はバイデン候補を追い上げており、もしか勝利する可能性もある。

背景にあるのはトランプ大統領を応援する白人層が持っている被害妄想に彩られた危機意識である。TBSがミリシアを取材している番組を見た。彼らはアンティファ、BLM、共産主義者などを仮想敵にしており、彼らがアメリカの治安を揺るがしていると本気で信じているようである。実際に軍事訓練を繰り広げているところからおそらくその危機意識は本物なのだろう。

トランプ大統領が持っている人格的な欠陥はトランプ家の特殊な家庭環境・教育環境にありそうだ。相続をめぐり親類(姉と姪)から遺産詐取の疑いで訴えられたりしている。だが、それだけでこうした問題を抱えている人が大統領になるはずはない。おそらく背景には被害者意識に彩られ「自分が当然得るはずだったプリビレッジ(特権)を盗まれている」と考える人が大勢いるのだろう。そういう人たちが武器を持って軍事訓練をするというところまできていることになる。

背景にあるのはSNSの台頭だ。Facebookは商品価値を高めるために社会的評価を得られる仕組み「いいね」を作り出した。いいねには中毒性があり利用時間が増えることで広告プラットフォームとしての価値が高められると計算したのだろう。だが実際にユーザーが共有したのは「自分たちの特権が誰かによって奪われる」という被害者意識だった。

この被害者意識はFacebookの商品価値を破壊しかねないほど拡大している。ついにボイコット騒ぎに発展しヘイトスピーチの基準づくりに向けて広告主と協議することになったという。「AIが暴走する」という安手のSF映画のようだ。現実に暴走したのはAIではなく人間の被害者意識だったことになる。SNSの登場で孤立したままの人々がつながることが可能になってしまったのである。

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