よく新聞に「求心力を失う」と書いていあるのだがどういうことだかわからない。だが、最近の一連のニュースを見ていて「安倍総理は求心力を失ったのだな」と思うことが二つあった。面白いことに表面上は何も変化は起きていない。周辺のニュースに載って伝わってくるだけである。背景にあるのは「自民党の支配階層」の没落である。戦後政治家の子孫による支配が終わりつつあるようだ。
第一の出来事は石原・塩崎・根本の三人が首相に税収を増やすことを考えるように提言したというNHKのニュースである。そのまえにこの三人に安倍総理を加えた四人が会食している。総理大臣の激励が目的だったと産経新聞が伝える。
なぜこの三人がどういう立場でこういう動きに出たのかがわからない。例によって国民への説明が全くないからだ。
もしかしたら会食のときに「国債の大幅発行や消費税減税」を旗頭にした総選挙が行われそうだと危機感を感じたのかもしれない。あるいは安倍総理から「党内の減税勢力が増しているのでカウンターの動きを出して欲しい」と頼まれたのかもしれない。この辺りの状況はわからないままだろう。
いずれにせよ伝統型の自民党の人たちが考える「許容範囲」から逸脱した勢力が出始めていることがわかる。消費税減税提案やMMTなどは自民党のポピュリスト化である。安倍総理はおそらく党内闘争に勝つために彼らを利用したつもりでいたのだろうが最近の動きを見ているとそれらを抑えられていないことは明白である。
安倍総理は麻生副総理・財務大臣とともに「岸田総理」を計画しているようだ。これまで自民党の右派にシンパシーを感じているとされてきた(つまりアベ政治とは右翼政治だと思われていた)のだが実はそうではなかったということである。だが、総理はもう自民党右派を抑えられない。「岸田総理」を押す人たちはこれを恐れているのだろう。保守本流と呼ばれる人たちがポピュリストに承認されて今後数年間の政策を縛られるというのはもう悪夢でしかない。
もう一つの動きは習近平国家主席の訪日中止要請である。おそらくこれも自民党の右派から出てきた動きだろう。こちらは意外な展開を見せている。
二階幹事長がこれに反発していると書いた記事に右派の小野田紀美議員などは「月曜日の平場の議論で誰が何を言うか注目だ」と書いた。だれが日和見で誰が本物の政治家なのか見極めようということなのだろう。保守本流とポピュリストの選別である。対立を表面化させずにこれをどう収めるのか、あるいは収められないのかは「月曜日のお楽しみ」ということになった。
だがおそらくポイントはそこにはないのではないだろうか。
野党は安倍総理は議会運営を実質的に支配しており「立法府の長」として振舞っていると総理を非難してきた。確かに対野党や文書の隠蔽などでは自民党は一枚岩で結束しているように見えた。悪いことをしてそれをみんなで隠すというのは小学生的な結束の仕方である。その裏でどこかからくすねてきた飴玉をみんなで頬張っているのだ。
だが、二階幹事長は安倍総理ではなく岸田政調会長に自民党を管理せよと言っている。安倍総裁の頭越しになっていることがわかる。公明党に秋に選挙をしたいと持ちかけたのは麻生副総理である。それぞれの重鎮がバラバラに動き始めているのである。かつてあった「ボーイズクラブ的」な一体感はない。
少なくともそれぞれが次に向けて色めき立っているなかで、安倍総理が何かを決めることは不可能だろう。仮に統治意欲も失っているとしたらこれは悲劇以外の何物でもない。
これまでも自民党政治はパイロットがいない状況の飛行だと書いてきた。しばらくはそのまま飛び続けるだろうということである。だが、ほんの数ヶ月で状況が大きく変わってしまった。おそらくしばらくの間は誰も何も決められない状態が続くのではないかと思う。
新型コロナウイルスは東京を中心として再拡散が始まっているようである。さらに熊本では水害も起きた。夏から秋にかけての「災害の季節」が今年も始まったのだ。日本政治はかなり危険なフェイズに入ったのではないかと思う。何もないことを祈りたい。