世界中で新型コロナウイルスが再流行の兆しを見せている。東京でも「夜の街」を中心に感染が拡大しているようである。中でも目立っているのがホストクラブとガールズバーだ。
日曜討論でも新型コロナは夜の街の病気であるというような印象付けが行われていた。だがこの夜の街はおそらく東京の影のようなもので我々の生活からは切り離すことができないだろう。とも感じた。
ホストクラブがどんなところかはわかっている。男性が女性を接客するところである。どうやらここでは濃厚接触が欠かせないらしい。男性たちの接客で疲れた女性たちが癒しを求めて集まるのだという。だが、ガールズバーがわからなかった。Quoraで調べたところ、女性に話を聞いてもらえるというのがウリのようである。そんな商売があるんだと思った。
昭和の接客を伴う夜の街といえば銀座のバーだった。女性に接客をしてもらうのだがかなり高い料金を請求されるようだ。昭和の企業では接待と称してこういう店に遊びに行くことはビジネスとして許容されていた。これが次第に六本木のキャバクラになる。これも男性が女性に話を聞いてもらうという接待の場所である。立派な大人が子供返りするのを見ながら「異様な光景だな」とは思ったが、このあたりまでは「接待」としてビジネスに組み込まれていた。
だが最近はそうではないようだ。ビジネス環境が厳しくなり接待費・交際費が削られた。すると夜の街は風俗的色彩を強めて行く。赤坂で遊んでいた政治家たちが夜の街の規制に乗り出すということは考えにくいが風俗化した夜の街は関係ない。
最終的に行き着いた形がガールズバーである。風俗業としての飲食ではなく飲食業の店員が「たまたまガールである」という形態のようだ。同じような形にメイド喫茶がある。これも風俗業ではなく喫茶店の従業員がたまたまメイド服を着ているだけという店である。風俗への規制が厳しくなって生まれた形態だという。
背景を詳しく調べたわけではないが飲食業と風俗業の隙間を埋めるような業態が出てきたことで自粛要請が難しくなってきていたことがわかる。風俗と飲食の境目が曖昧になってしまっているのだ。おそらく性風俗・接待飲食・普通飲食の境が曖昧になっているのだろう。夜の街はこれを一緒くたにしてしまっている。
ではこうした接待飲食は何を目標にしているのだろうか。つまり夜の街のニーズはどこにあるのか。
日本の風俗はセックスの期待をゴールにしているように語られることがある。だが、接待飲食は男性の「かまって欲しい・褒めて欲しい」という欲求がその需要の源泉になっているように思える。日本の男性は個人という意識を育てない。だから昼間は女性秘書に構ってもらい夜は銀座のホステスに褒めてもらうことが出世の目的になる。
例えば日本の会社の社長待遇といえば車の送迎付きで秘書がつくことだが、米系外資では自動車出勤がステータスだったりする。つまり日本人は偉くなればなるほどお母さんに世話をしてもらうことが目的になるのである。
おそらく大したお金もないのに構って欲しいという男性たちに疲れた女性が行き着くのがホストクラブなのだろう。普通に働いている女性が「男性にかまってもらいたい」というだけの理由で大金を払えるとは思えない。
そう考えるとホストクラブというのは極めて厳しい世界なのではないかと思われる。そもそも女性の共感を求める気持ちは男性より複雑な上、お客は「プロ」でありおざなりな接待では満足してくれないだろう
男性は承認を求め、それに疲れた女性が男性に癒しを求めるという連鎖ができているのだろう。実はみんなが子供扱いしてもらいたいというのが日本社会であり、そこだけは濃厚接触を捨てられないのである。
個人を全く認めず集団で行動し思考する日本人にとって「個人としての自己承認」というのは極めて厄介な問題である。だがよく考えてみると個人の自己承認を得られる場所というのは滅多にない。さらに面倒なことに男性も女性も「お金を払っているからこそ安心して自己承認が求められる」という厄介な状態になっていることがわかる。日本人が経済的支配力にこだわるのはこれといった芸がない自覚があるのに構って欲しいと思っているからだ。
SNSで毎日政治を語りたがるオトナを相手にしていると、「政治の持論について語って褒めてもらいたい」オトナが大勢いるのがわかる。彼らは無料のSNSでも自分たちは芸なしで誰かにかまってもらえると思っている。そして彼らの行っていることは案の定大して面白くない。こういう大人たちが作っているのが今の日本なのだ。
その意味では個人の自己承認が得られる夜の街は個人としての社会承認が得られない日本人にとってはある種の廃棄処分場のようになっているのだろう。ある種「エッセンシャルワーカー」といえるわけで、これを風俗として一斉に取り締まったり「夜の街」として一括りにすることはおそらく無駄なのだろうと思う。新型コロナウイルスはそういう隠れた部分を容赦なくあぶり出すのだなとも思った。