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中国に対抗して軍事費を増強するオーストラリアに日本も追随すべきか

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オーストラリアが軍事費増強を決めた。背景にあるのは中国の台頭である。だが、このニュースは日本人も関係があるように思える。状況が極めて似ている。オーストラリアは中国の台頭だけでなく「アメリカが絶対的覇権国でなくなっている」ことも問題視している。

オーストラリアの軍事費について書こうと思ったのは自民党の外交安全保障批判というよりは野党支持者に読んでもらいたいと思ったからである。現在立憲民主・国民民主・社会民主で合流構想があるそうだ。消費税が焦点になっているようだが実際の問題は国防・安全保障だろう。オーストラリアは40%支出を増やすが「人口が少ないのでこれでも不十分だ」と言っている。

おそらく日本人が一番恐れているのは、中国の台頭を認めることが出費(すなわち増税だ)につながることではないか。そのため右派はアメリカを持ち出し左派は憲法を持ち出す。だが、どちらも議論を始めないための安全毛布のようなもので実際の脅威には対応できない。

東アジアの環境は大きく変わりつつあるが、日本は加えて朝鮮民主主義人民共和国の核の脅威もある。アメリカのミサイル防衛システムも役に立ちそうにないし憲法第9条にこだわるならこれまで以上の外交努力が必要である。人材の育成にも活動にも費用がかかるだろう。

一方でこのニュースは評価が難しい点もある。オーストラリアの与野党対立が絡んでいるようだ。オーストラリアにはあまり関心が向けられておらず、したがってまとまった知見が日本語で読めない。だから、日本からこのニュースを完全な形で評価することは難しい。

ターンブル首相は中国寄りの姿勢だった。だが、中国の企業家がオーストラリアで政治勢力と結びつく。これがなぜなのかがわからないのが中国の怖いところである。全体でなんとなく押し寄せてくるのだが、これといった司令塔が見えない。決して他と混じり合わない中国人はホスト国を警戒させる。

  • 中国は南シナ海問題で地域から孤立している。おそらくは体面を重んじる(つまり見栄っ張りな)外交姿勢を持ち、近辺に中国を支持してくれる国を探したのかもしれない。
  • 単に母国でやっていた政治家への働きかけをオーストラリアでも展開しているのかもしれない。つまり悪気なく賄賂を贈る人が多い国だということになる。

「価値観を共有しない国」と付き合うのは難しい。価値観というより常識が違いすぎる。

ロイターが大紀元の報道をそのまま流している。おそらく反共産党的なポジションなのだろうが「全面浸透」と書かれている。個人主義的なオーストラリア人は政治に中国共産党の影があると感じれば当然反発するだろう。「工作員」と書かれているが、もしかしたら中国ではお世話になった企業へのお礼くらいにしか考えていないかもしれない。これが「価値観を共有しない国」の怖さである。おそらく中国の常識で考えている人には何を反発されているのかすらわからないのではないかと思う。中国からのサイバー攻撃が起きているという報告もあるようだ。

もともとオーストラリアの政治はそれほど安定してはいなかったようだ。ターンブル前首相の親中国的な姿勢が与党内から挑戦を受けた。ピーター・ダットン前内相が首相降ろしに走ったのである。この結果総選挙が行われるのだが漁夫の利でモリソンが首相になった。党内にある反中国的な感情と野党議員への中国の浸透を背景にして、モリソン首相の選択肢は反中国しかなくなったのではないかと思える。中国への強い姿勢は国内で支持を受けているようだ。

だが、モリソン首相は具体的に40%軍事費を増やすと言っている。その背景として中国だけでなくアメリカの絶対的覇権も終わったという点を分析している。つまりオーストラリアは言葉で中国の脅威を煽るだけでなく実際の出費も増やそうとしている。行動が伴っているのである。

軍事費を増やしたくない日本の有権者は中国蔑視の気持ちから「中国の台頭」を批判することはあってもアメリカの退潮には触れたがらない。これがそのまま軍事費の増額に結びつくからである。だから、行き詰まりがあるとすぐに憲法問題と結びつけ「先制攻撃ができれば問題は解決する」などと言い出す。安倍政権のやり方は極めて稚拙でずさんとしか言いようがない。

一方で中国と民主主義国が折り合うことができないのも確かである。おそらく日本の市場をオーストラリアのように解放していれば日本でも同じ問題が起きたことだろう。野党は現実的な脅威にどうやって対抗するのかという具体策を提示しなければならない。

オーストラリアの事例はもちろん誰か一人の分析を鵜呑みにすることはできない。残念ながら中国という国は「経済で緊密に結びつけばそのまま仲良しになれる」という存在ではなさそうだ。

中国は近隣の国と全てぶつかりつつある。インド・オーストラリア・東南アジア・日本である。おそらく概念的な議論の時間は終わった。もう具体的な議論を始まるべき時期に来ているようだ。域内に米軍基地を抱える日本は、アメリカの影響を受けつつもアメリカの協力なしで近隣国の議論をまとめなければならない。これはかなりの難事業になるのではないだろうか。

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