ざっくり解説 時々深掘り

集団主義の国の意思決定プロセスと専門家会議の廃止

日本型の意思決定を見ていると、誰が何を決めているのかよくわからないと思うことがある。そういう組織が「状況が刻々と変わる上に専門性が強い」事象に対応するとどうなるのだろうかという疑問がある。新型コロナウイルスへの対応を見ているとその様子がよくわかる。

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この物語を見るといろいろな事情がわかる。経緯があまりにも細かすぎるので概要だけを先に示しておく。

  • プロジェクト管理能力も現場把握意欲もないという無能で意識が変わらない中心(安倍総理)
  • 民意から切り離されて意識が変わらない政治家(岸田文雄と自民党の族議員たち)
  • あまりにも話が伝わらないことに苛立ちトーンを強めて自己発信する専門家(尾身茂・西浦博)
  • リーダーシップを発揮しようとして派手なことを一人で決めたがる独断政治家(小池百合子・西村康稔)
  • 細かいことを理解せずマスコミから得た情報を鵜呑みにするTwitter有権者とその声に影響を受けやすい人たち(山口那津男・二階俊博)

少なくともこうした要素がありそれぞれが響き合って場当たり的に状況が変わってゆく。つまり日本は漂流を続けている。漂流しているのだがそれぞれが保守的に動くので最終的には破滅しないという状況になっている。

新型コロナウイルスが大変な病気だぞとわかったとき政治家も官僚も批判に晒された。やり方がちぐはぐだったからである。これで非難されたのが橋本岳厚生労働省副大臣のダイヤモンドプリンセス号対応だった。クリーンエリアとそうでないエリアがテープで仕切られているという失敗が可視化された。

専門家会議は横浜港への帰港したのと同じ時期に設置されている。おそらく最初は本当に「諮問機関」だったのだろう。そのうち政府の対応が遅いことに危機感を募らせた専門家会議が独自に「この一二週間が山場が山場である」という見解を出した。これがマスコミを通じて民意に響いてしまう。

そして、そこから数日して総理大臣が突然学校の一斉休校を言い出して政府全体を慌てさせた。「一二週間が山場」というのの始まりがいつなのかという議論も起きたが、総理大臣はこの中で「専門家がそう言っているから」と繰り返した。実際には「民意が騒いでいるから」という意味だったのだろう。

この一連の流れが二月の中旬から二月の下旬ごろにかけて立て続けに起きている。横浜のクルーズ船が日本の将来像として提示される中少ない情報に不安を覚えた有権者が結果的に専門家の指摘を丸呑みして起きた出来事である。安倍総理はこれを追認し続けたのだが、政府・自民党を調整した形跡はない。独断型リーダーの末路である。

そしてこの一斉休校の結果「政府が何か要請するなら補償がセットになるべきである」という声が上がり、そこから事後的に休校によって休業した労働者には補償をするという流れがなんとかくできてくる。これもテレビに誘導されたTwitter型世論で形成された。

次に状況がエスカレートしたのは小池百合子東京都知事のロックダウン発言である。欧米に新型コロナウイルスが上陸し強制的に動きを止めるロックダウンが起きた。これが連日テレビ報道され人々が不安を覚えた。人々は何が起きているのかはわからないもの「なんだか大変なことになっている」と感じたことだろう。マスコミは実は失敗しない独断型リーダーが好きなのだ。わかりやすい絵を量産してくれるからだろう。これが能力の限界まできて機能不全に陥る。

危機感を演出したい小池百合子東京都知事が「感染拡大の重大局面」というパネルを掲げ、ロックダウンという言葉をほのめかして緊急事態であるというような雰囲気を演出した。3月25日のことだそうだ。実際には日本で緊急事態宣言を出してもロックダウンはできない。マスコミの耳目が自分に集まると小池さんは即座に路線転換をし「法律でできることとできないことがある」と言い換えはじめた。

ちょうど国会が会期末に当たる時期だった。予算を期限通りに出したい政府は補正予算審議には一切応じなかった。そんな中で危機感だけが演出されてゆく。

本予算が通って補正予算の審議が始まる。民意が色めき立つのとは裏腹に自民党の意識は変わらない。岸田政調会長が自民党の声を取りまとめを始めたがが自民党からは和牛券だ観光対策だという利益誘導が始まる。

ところが巷では30万円の給付ではなく全員に10万円づつ配れという声が出て、公明党や二階幹事長の圧力により岸田政調会長のメンツは丸つぶれになった。公明党は支持者とのパイプがあり、おそらく二階幹事長も地方の実情を吸い上げていたのだろう。結局彼らもまた横紙破りで状況を混乱させた。

背景には「本予算を期限通りに通したい」とか岸田政調会長に花を持たせて安倍総理の後継に据えたいという思惑があったのだろう。だが同時にこうした人たちの耳には地元からの切実な情報は入ってきていないのだということがわかる。結局、緊急事態宣言が出されたのは4月7日だった。

ところがここでまた問題が起こる。総理大臣は8割接触削減は無理だと思ったのだろう。目標を勝手に調整して発言してしまう。そこで西村博教授が4月15日に記者会見を行い「このままでは42万人が死にますよ」と発表する。西村さんはのちに8割おじさんと呼ばれるようになった。西浦さんはおそらく善意で発言したのだろうが「騒ぎすぎだ」と評価している人も多いのではないかと思う。

政府の関係者、特に政治家は数値目標が提示されるとそれを交渉するのが仕事だと考えているようである。8割を「6割くらいでなんとかならないか」というのはその典型であろう。

こうしたせめぎ合いが現れているのが経済の再開である。緊急事態宣言は4月7日に出されてゴールデンウイークまでをカバーすることになっていたのだが、それでは収まらずさらに延長される。それを政治力でなんとかしようという経済界の人が出てきた。緊急事態宣言が解除されることがわかってから「経済の専門家を入れる」調整が始まった。

さらにポスト安倍に向けての後継レースが始まっている。河野太郎防衛大臣や西村「コロナ対策大臣」がスタンドプレーを始めている。西村さんはおそらく会議を力強く主導して経済再建の道筋を自分が主導しているという絵を作りたいのだろう。総理の出身派閥である細田派は現在三つに分裂しているようだ。西村さんは総理の後を狙ううちの一人である。ところが今度は西村さんが「党に話を通していない」と攻撃されている。

西村さんはいきなり会議を「廃止」して見せた。専門家たちは「政治家に責任を取ってもらいたい」とは思っていただろうが「会議を廃止してほしい」とは思っていなかったはずである。尾身茂副座長らは「廃止という話は聞いていない」と発言してしまいのちに軌道修正と説明をさせられた。これで世間は落ち着くはずだったのだがそうはならなかった。足元の自民党から「そんな話は相談がなかった」という異論が出ているそうだ。おそらく本当に聞いていないと不安に思う人もいるのだろうが、西村さんのスタンドプレーが面白くないという人もいるのではないか。自民党の中にはおそらくまだ頭の切り替わっていない人が大勢いるのだろう。自分たちを無視するなといい続けているのだ。だが彼らを入れたところで「第二の和牛券」くらいのアイディアしか出てこないことは目に見えている。

次の変化は東京である。地方では封じ込め政策の効果もあり徐々に沈静化してゆく。ところが東京には新たな事情が生まれた。それが都知事選挙である。小池百合子都知事はおそらく選挙の前に「自分がコロナ対策に成功した」という絵を作りたかったのであろう。危機を醸成し東京アラートという言葉を使った。そしてそれが徐々に沈静化してゆくと当時にレインボーブリッジが赤からレインボーに変わるという絵を作り出した。マスコミも喜んでこれに協力した。ところが東京アラートが解除され「東京の経済が回復する」というステップを進む最中、また感染者が増え始めた。最初は夜の街クラスターなどといって特殊な扱いをしていたが、家庭内感染も増えている。これが6月の状態である。自分の前にカメラを集めるために危機感を煽りそれを修復してみせるというショーにマスコミは喜んで協力した。

西浦さんのような善意の問題提起も小池さんのような「私を見て」という発言も外から見ている分には区別がつかない。日本で問題の提起者が「騒ぎすぎ」と黙殺されるのはおそらく政治的に騒ぐ人と根拠があって騒いでいる人たちの区別がつかないからだろう。その意味で小池百合子都知事の発言には問題があるといえるのだが、実際にこう言う人が注目されてしまうようにできているのである。

誰も専門家の言うことを真面目に理解しようとは思わない。さらにTwitterでも議論が起こり反応にびっくりした総理が衝動的な意思決定をする。さらにスタンドプレーが大好きな政治家がいて状況を混乱されせている。今回は書かなかったがこれでに不効率な行政システムと私物化中抜きを狙う取り巻きの企業という要素もあり誰も責任を取らないままなんとなく物事が進んでゆく。

この様子を見ていると何か問題提起をした人が「うるさい・考えすぎだ」と黙殺されるのも無理からぬことだと思う。全体像がさっぱり見えないので皆疲れてしまうのだろう。関わらないほうが無難だと誰もが感じてしまうのである。

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