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マイナンバーカードによる申請の設計をした人は市中引き回しの上、磔獄門の刑に処してもいいのではないか?

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定額給付金の申請が始まった。マイナンバーカードによる申請が極めて面倒なようで市区町村は大いに迷惑しているという。このシステムの設計者と責任者は磔獄門の刑に処してもいいのではないかと思った。開発した会社の名前を公開すべきだろう。「そのインターフェイスを変えてクレームが入ったらあなたその費用を払えるの?」という教育を受けてきたのでさらに腹がたつ。

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まず経緯をおさらいしよう。安倍総理大臣が「オンライン申請窓口を作る」といった時には嫌な予感がした。総理大臣が突発的に発言したことですんなりいかなくなるケースがとても多いからだ。ところが数日のうちに西村担当大臣が「マイナポータルに受付窓口だけ作る」と発言し「あ、これで問題は起きないだろうな」と思った。普通に考えて問題が起こるような複雑さがないからだ。

だが、今回の件では「今の政府はこれすら作れないのだ」ということがわかってしまった。役所は大混乱しており「オンライン申請の方が却って遅くなる」という事態も起きているそうである。では問題点はどこにあるのか。

記入項目追加=コストという意識の欠如

問題は大きく分けて二つありそうである。一つは「10万円給付金、オンライン申請の意外な落とし穴『パスワード英大文字』『姓名の空白』に注意!」という記事にその一端が垣間見える。なぜか姓名を入れさせているがスペースを空けなければならない仕様になっているらしい。総務省のページを見てみたが、住所や性別も入れさせているようだ。

システムエンジニア教育を受けている人であれば「ユーザーに情報入力させる」のには極めて慎重になるはずだ。間違いをシステム側で弾かないと運用で弾くことになるからである。運用で弾く=オペレータのコストなのだ。さらに間違いで受付できない場合には事務手数料もかかる。

これを防ぐために、民間では運用側と開発側でレビューが行われる。情報システム部門では開発が花形ということになっているのだが、この時ばかりは運用の方が力が大きくなる。なぜならばそれ以降の事務手続きのコストを支払うのは運用側なので、運用の承認がないと先に進めないからだ。おそらく今回この手続きがなかったのは中央が「地方にくれてやる」か「地方に命じてやらせる」という意識を持っているからだろう。

開発担当者にはコスト意識が全くない。国はこうしたコストを全て地方自治体に丸投げすればいい。国の持ち出しではないから「関係ない」と言えてしまう。だが、納税者にとってみれば「国への税金だろうが地方への税金だろうが自分たちの税金」なわけだ。コスト意識のない政治家と官僚がこの国を疲弊させている。

例えば性別などは明らかに入れなくてもいい情報である。男性だからといって定額給付金の額が変わることはない。さらに住所や名前もいらない。こうした情報は番号を見れば後で引き当てができるからである。「常識的に考えると名前を入れさせないのはありえない」と思ってしまうかもしれないが「これを入れさせることで事務手数料がいくらかかるのか」と問われればおそらく入れられないはずである。特にベンダーは運用側に「あんた払えるの?」と言われたら終わりである。

ただし、名前を入れさせた理由はなんとなくわかる。マイナンバーシステムは法律でガチガチに縛られていて情報を出力させられないそうだ。つまり数字だけもらってモニター上で突き合せることができないと考えたのかもしれない。そもそも、マイナンバーシステムなど使うべきではなかったと言えるのかもしれない。

個人単位と世帯単位のずれ

それでもあえてマイナンバーシステムを使ってみたのだが、さらに決定的な問題が起きた。マイナンバーシステムには世帯情報がないのだ。このため世帯情報をユーザーに入力させてさらに問題が複雑化したようである。朝日新聞によると次のような問題があるそうだ。

  • 世帯主が世帯構成員の情報を入れ間違える
  • 世帯主でない人が申請する
  • 一人で何回も申請できるので誰が何回申請したのかがわからない

おそらくこれはUI設計の失敗ではない。システムとしてそもそも間違っている。

何回も申請できてしまうということは申請履歴が残らないということだ。つまり「後になって申請項目に間違いがあるとわかっても修正ができない」ということになる。おそらくこんな勘定系(お金のやり取り)システムを作ったら責任者はクビになるはずだ。

総理大臣が「こうしたい」と思っても行政がそれについてこない。日本の総理大臣が「独裁」に走りたくなる気持ちはわかる。だが、おそらく総理大臣の敵は民主主義ではなく官僚の自己防衛意識だ。これまでなんども分析してきたがおそらく人事介入してもたてこもりが強化されるだけで問題は解決しないだろう。自民党はおそらく長い間かけて官僚組織のマネージメント能力をなくしてしまったのだろう。

国の担当者にはおそらく当事者意識がない

このようにシステム設計や入力画面の設計はボロボロなのだが、なりすまし対策にだけはとても熱心だ。電子証明書のインストールや紐付けにはとても厳しいようだ。オンラインを信用していないこともありパスワードが5回間違えるとロックされるそうである。バランスが極めて悪い。

Quoraで実際にやった人の感想が入っていたがアプリとブラウザーのシステム連携がうまく行かなかったそうである。履歴をたぐってブラウザーの当該箇所に戻ったそうだが「おそらく担当者は自分でやってみなかったのではないか?」と言っていた。

松戸市役所では逮捕者も出たそうだが、国のやる気のなさがついに犯罪者まで作ってしまったことになる。いたたまれない話である。

よく台湾のIT大臣が優秀だという話が話題になる。確かに日本のIT担当大臣はボロボロなのだが、問題の本質はトップの資質や年齢ではない。政治主導という掛け声とは裏腹に政治はリーダーシップを失っているのである。

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