今日は仁藤夢乃さんという人のTweetについて扱うのだが扱い方にはちょっと悩んだ。場合によっては「仁藤さんを利用している」と言われかねないからである。いろいろ考えて「男性社会への敵意」という切り方にした。男性側は「自分はたいして優遇されている」と思ってはいないが、これが問題を地下化させ時々ぎょっとする形で噴出してくる。
朝にTwitterを確認すると仁藤夢乃さんという人のTweetが頻繁にRetweetされていた。だが、一部しか表示されないので何が起こったのかはわからない。
スレッドを見て驚いた。仁藤さんの活動を見に来た自民党国会議員の一団からセクハラされたというのである。
どうやら関与しているのは馳浩元文部科学大臣のようだ。プロレスラー出身で身長は183cmある。これが今回の問題の一つの鍵になっている。
一昨日、自民党議員から、バスカフェに国会議員で視察に行きたいと連絡がありました。若年女性の置かれた現状を知ってもらえるならと、5人までなら受け入れられることを伝えていました。
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) April 22, 2020
当然ここから自民党の無神経ぶりを糾弾する記事が作りたいのだが「まてよ」と思った。おそらく告発した人たちの思いとは別の方向に議論が進むんだろうなと思ったのだ。
仁藤さんの活動について紹介したウェブサイトを見たのだが、仁藤さんはTBSのモーニングサンデーでコメンテータをしているそうだ。当然近づいた側には「仁藤さんを若者代表として祭り上げて」若い女性支持者を獲得したいという狙いがあるのだろう。だが、仁藤さん側はあまりこの活動を大々的に宣伝してもらいたいとは思っていない。居心地がいい空間を作るのが目的であり、仁藤さんが名前を売りたいわけではないからである。
おそらく馳浩さん側(大柄な彼が引き連れてきた血気盛んそうな一群だったそうである)それがわかっていない。
仁藤さんは「仲間たちと活動している」と思われたい。割と民主的で共生的な世界像がある。ある種のイデオロギーなのだが、個人が主張することをよしとしない日本では「イデオロギー」という言葉には拒絶反応があるだろう。参加者たちも「自発的に活動している」と思われたい。
だが、体育会生まれ自民党育ちという権威主義の世界を生きる議員団は「仁藤さんに組織されている」と考えていてその考えを変えるつもりがない。これも一種のイデオロギーなのだが社会に主流の考え方なので議員側にもそんな考えはないだろう。このイデオロギーのぶつかりが「大柄な男達が土足で踏み込んできた」という印象を与えている。
日本人は選択的なイデオロギーが並立するという考えを持たない。あるべき正解は一つと考える。仁藤さんのTweetは私たちが考える正解が理解されていないという主張になっている。社会全体の正解ではないので仁藤さんは自分たちの仲間うちを社会から隠さなければならない。これは例えばオタクの人がコミケという区切られた世界を作ってそこに閉じこもるのと同じ原理である。
オタクの世界にメインストリームの人たちが踏み込んできたらどうなるかと考えるとわかりやすい。踏み込んで来たというより蹂躙されたと考えるだろう。あるいは星野源の世界(作品へのリスペクトと理解がありそこに自分の芸を加えるのが良いとされる世界)に土足で踏み込んでくる安倍首相のようなものである。他人は排除するかあるいは飲み込まれるかというどちらかの選択肢しか日本人には持ちようがない。
彼女たちは男性や男性が支配する社会に対して潜在的な恐怖心を持っている。Tsubomi Cafeのウェブサイトを見ると普段から男性のアクセスを断っていることがわかる。潜在的に彼女たちを売り物にしたいと考えて品定めをしにくる男性の目線にさらされているからなのだそうだ。おそらく家庭や社会で男性の暴力にあったことがある人もいるのだろう。
実はこうしたズレは様々なところで軋轢を生んでいる。最近#世帯主ではなく個人に給付してというタグをつけたTweetをよく見かける。社会に居場所がなくなった男性が家庭内に君臨しているという家庭が多いのだろう。世帯主という言葉に対してこれほどまでに敵意を持った人がいるのかと痛感させられる。小島慶子さんの言葉にその気持ちが集約されている。
世帯主が暴力や暴言で家族を支配している家庭もたくさんあります。配偶者や子どもは、世帯主の持ち物ではありません。一人一人の命に届くようにして下さい。 #世帯主ではなく個人に給付して
— 小島慶子 (@account_kkojima) April 21, 2020
この状態ではこうした女性が行政に頼るのは難しいだろうなと思った。行政はそもそも不親切である上にほとんどの相談者は男性だろう。男性は男性の暴力性には気がつかないし、女性としての経験もないので女性の生きにくさは経験していない。彼女たちが求めている共感は得られない。さらに女性たちは男性に潜在的な不信感を抱いていてさらに相談を難しくしている。女三界に家なしというが行政も男性が支配する家庭の延長になっていると考える女性も意外と多いのかもしれない。#世帯主ではなく個人に給付してというのは給付の問題ではない。女性からの「自立した存在として扱ってほしい」という叫びだと考えたほうがいいだろう。
そんな被害者意識を持っている人たちから見れば183cmのプロレスラー上がりの男性に引き連れられてやってきた一群というのは恐怖以外の何物でもなかっただろう。
こともあろうに、国会議員がセクハラしてきたと指摘されている。もともと体罰が当たり前という教師出身者の側から見ると「ちょっとした冗談」くらいなんだろうなあと思う。意識の開きは絶望的に大きい。
さらに、設営中、10代のメンバーの後ろを通った男性国会議員が、「ちょっと退いて」と言いながら、10代のメンバーの腰を触りました。セクハラです。性暴力です。
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) April 22, 2020
彼女は、性暴力被害に遭ったこともあり、精神的なショックを受けています。
この問題は馳浩元文部科学大臣の謝罪で終わらせるべきだろう。おそらく馳浩さんが本質的ん彼女達を理解するのは無理だ。あまり広げすぎると彼女達が与野党対立の渦中に置かれてしまう。すでに国民民主党や立憲民主党からアプローチがあるようだ。
他党のことではありますが、私の方からも、自民党の女性政策関連を担当されている議員に昨夜のことをお伝えし、確認させていただいてもよろしいでしょうか。
— 矢田わか子(国民民主党 比例区参議院議員) (@wako0501) April 22, 2020
議員は個人の活動にはさほど興味を持たない。彼らが狙っているのは「その背後にいるリーチしにくい」有権者の集まりである。そのため、こうした騒ぎは本人たちの意識とは全く関係なく集団化してゆくことになるはずだ。
おそらく民主党系・自民党系の争いになった時点でアンチが湧いてくるに違いない。集団の争いになった時点で、女性たちが持っている潜在的な男性社会への恐怖感という感情はもっと大きな何かに飲み込まれてゆくだろう。
安倍政権が沈没してゆくのは誰の目にも明らかだが、安倍政権に自分を重ねてきた人たちはいつになく苛立っている。自分たちの無力さをご飯論法で偽装して万能感に浸っていた彼らはこれから嫌という程その無能さを突きつけられることになるからである。それだけに彼らは急進化してしまうのである。そうなる前のこの騒動が決着することを望みたい。馳浩元文部科学大臣は謝り方をタレント出身の奥さんによくレクチャーしてもらったほうがいい。