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金正恩重病説と安倍政権の北朝鮮政策の行き詰まり

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「金正恩が重病である」という説がCNN経由で流れた。どうやら間違いらしいが、金正恩後について人々がいろいろ憶測しているらしいということはわかった。冷静に考えてみるとアメリカが金正恩の動静を見失っていることなのだろう。安倍総理の対北朝鮮政策は完全に行き詰ったと考えていいだろう。考えをまとめるためにいくつか記事を読んでみたのだが、東アジア人の権威主義者が行き着く理想像が少し見えた気がする。

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画像は韓国のものです。悪しからず。

まず、朝鮮民主主義人民共和国は憲法を改正してキム王朝体制構築を目指しているらしい。2019年7月の記事である。これは面白いなと思った。東アジア人にかかると社会主義も王朝化するのである。

北朝鮮は最初はソ連に倣って共産主義の国になったはずである。ソ連が金日成伝説を利用して自分の影響下にある軍人を送り込んだといわれている。

ところが、そのあとに内部粛正が起こり、ソ連と中国との関係は保ちつつ独自の体制を整えて行くことになる。これをチュチェ(主体)思想と言っている。マルクス・レーニン主義の民族化である。朝鮮は早くからアメリカファーストならぬコリアファーストの国を作ったのだ。

チュチェ思想の発案者の黄長燁はのちに韓国に亡命する。金正日の時代になり先軍思想という軍国化した思想に転換したためである。こうして世代を重ねるごとに王は祭り上げられていった。金日成が亡くなっても金正日が亡くなっても国は崩壊せず、金正恩が姿を見せなくなった今も国は通常どうりに動いている。

憲法改正によりチュチェ思想も先軍思想も「偉大な金日成・金正日主義」という個人名を冠した名前に変わったらしい。さらに金正恩が務める国務委員長が国家元首ということになったそうだ。高英起の文章を読むと、妹である金与正の政治的地位も上がっているそうだ。党第1副部長というポジションについたそうである。後継者の息子がまだ幼いので中継ぎに女王を立てるというのは日本にも実例がある。表向きは極めて強い王権が作られているように見える。

北朝鮮は長い時間をかけて特権階級が作られている。金正日の死後は北朝鮮は集団指導体制になるのではないかと言われていたのだが表向きはそうはならずキム王朝の神格化が進んできた。しかしおそらくは集団指導の体制ができつつあるのではないかと思われる。権力と権威が分離するあり方は極めて東アジア的である。空白の中心は日本だけの文化だと思ったのだが、どうやらそうではなかったようだ。

だが、彼ら特権階級も安穏としているわけには行かない。これが日本と大陸の違いである。権力闘争と縛りあいが極めて激しいのである。表向きの調和とは裏腹に特権階級は常に粛清の危険にさらされる。

BBCによると北朝鮮から脱北したいと考える外交官はいるようだ。だが実際には家族が人質になっていて出てくるのはとても大変らしい。家族が惨殺される可能性もあるという。実際に逃れてくるのは労働者や無職の人たちで女性のほうが多いそうだ。しがらみがない人は逃げて来やすいがそうでない人はなかなか国を捨てるという気持ちにはなれないのだろう。

貴族階級が形成されるなか北朝鮮の人民の生活は苦しい。BBCは2019年の旱魃の様子を伝える。貴族階級は自分たちの生活が支えられるだけの余力があれば良い。だから経済を成長させるために投資を行うなどということは考えないのだろう。足元では軍と農民の間で米の争奪戦が起きているそうだ。だが、北朝鮮は民主化の経験が一切ない。大韓帝国から日本に占領され、そのあとはキム王朝支配を経験しているだけだからである。民衆にはお互いに協力して革命を起こそうという発想はないのだろう。

中国政府に訴えても脱北はさせてもらえないのだから中国は追い詰められた人たちにとっては極めて分厚い壁になっている。中国にとって北朝鮮の安定は極めて重要である。北朝鮮は経済に困るとアメリカや日本にふらふらと近づいて援助を求める。このため中国は2018年に10兆円規模の支援策を提案しているそうである。中国にとって北朝鮮はアメリカとの緩衝帯になっており、朝鮮半島統一はアメリカの勢力圏拡大につながる悪夢だろう。国連の決議が中国にとって足かせになっている。朝日新聞によると2019年になっても中国は人道支援目的で援助を継続しているそうである。

シリアなどの中東地域を見ると各国が介入したせいで内戦が長引いている。だが北朝鮮には外国が介入するような反体制勢力がいない。おそらく中国経由で武器を持ち込むのはほぼ不可能だろう。ソ連と中国の間でバランスをとり独自の道を歩んだ北朝鮮は今や世界でもっとも奇妙な独裁国家になった。ソ連と中国の空白に生まれたエアポケットは中国とアメリカの間で奇妙に安定している。

今回の重病説からアメリカが北朝鮮との連絡通路を失っていることがわかった。交渉相手が見えないので「重病説」という石を投げてみたのだろう。利用されたのはトランプ大統領がフェイクニュースと言って敵視するCNNである。だが、このことはアメリカに依存する安倍政権の拉致問題が完全に暗礁に乗り上げたことを意味している。そればかりでなく北朝鮮は今や核保有国である。

日本にも西洋式の民主主義が退潮する中で「独自の道」を探したい人たちがいる。北朝鮮の現状というのは東洋式の独裁がどこに向かうのかを探るヒントになる。

  • 民主主義のような題目は「日本流の民主主義」という名前に変えられて形骸化する。
  • その中心には強力で神格化された無力な存在が置かれる。おそらく日本ではそれは「国体」という名前になるだろう。
  • 実際には集団的指導体制である。つまり権力と権威は分断される。権力者にとって権威は共有財産である。
  • 王朝のもとで国力は衰退する。

なぜ、北朝鮮のような集団独裁体制が国力を衰退させるのかというのは興味のある課題である。彼らは計画を立て失敗を認めず国民のやる気を削ぎ経済を衰退させた。安倍政権も同じような道をたどりつつあるのだが、西側世界のゆるやかな監視のもとである程度の情報が確保されており最悪の事態には陥らずに済んでいる。

日本でGHQのもと貴族的な意識を持った人たちも北朝鮮のような状態を指向していると思いたくなるのだが日本は北朝鮮のような緩衝地帯にはない。おそらくアメリカがとっておきたいのは沖縄くらいのものだろう。これが日本が北朝鮮化しないおそらく唯一の理由であるのかもしれない。

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