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令和の10万円強奪事件 – 菅(すが)はどこにいった?

安倍総理大臣が明らかに迷走している。迷走の理由は二つある。党をまとめきれず、側近の思いつきに振り回されている。新型コロナ対応はよく戦時中に例えられるのだが、もう一つ面白い例えができる。それが平安貴族の没落である。自民党には貴族階級と武士階級が生じつつあるのである。

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まず、党内をまとめきれていない点だ。岸田文雄政調会長に補正予算をまとめさせた。権力禅譲を前提に岸田政調会長に花をもたせるつもりだったのだという。ところが自民党内部から一律給付を求める声が出て二階幹事長がそれに乗った。兼ねてから一律給付を求めていたという公明党がこれに慌てて総理にねじ込み結局折れる形で一律給付が決まった。

どういうわけか公明党が焦っているのだが、なぜ公明党が焦ったのかが実はよくわからない。

もう一つは総理側近の暴走である。官邸には総理お気に入りのちょいワル官僚がいていろいろと吹き込んでくる。まずは一斉休校という予期せぬサプライズがあり、次にアベノマスクと呼ばれるようになった不良品マスクの配布があった。さらに星野源とのコラボも炎上した。最近では「朝日新聞が高価なマスクを売ってぼろ儲けしている」と吹き込んだ人がいるらしい。実際には泉大津市の有志が作った地方創生を狙ったのマスクだったということがわかっている。

このうち、アベノマスクと星野源コラボは佐伯耕三という経産省の官僚の発案だと囁かれているそうだ。週刊文春と週刊新潮が伝えている。子供じみた対決心と子供だましでその場の思いつきに過ぎない起死回生策に振り回されるリーダーの周りにはこういう人がいるのだろうなあと納得させられる。佐伯さんは灘高・東大・通産省というエリートキャリアの持ち主である。これまで正規の国会論議ではスピーチライターであった彼の理屈(ご飯論法)を論破する必要があったがいったん世間にさらされると噂だけで嘲笑されることになる。安倍総理はもはや尊敬される総理大臣ではなく世間からずれていることをイジられるピエロのような存在になっている。フェイズが変わったのだ。

安倍政権・官邸は空中分解しかけていて「コロナって怖いなあ」と思ってしまう。ところがこの背景にちょっと違う状況がある。そういえば「例のあの人」がいないのである。それが菅官房長官だ。

実は菅官房長官は今年の最初の頃ちょっと難しい状態に置かれていた。まだ「武漢で怪しい肺炎が」などと言われていた2月3日の記事では辞任説が囁かれていた。この辺りの事情をなぜかポストセブンだけが伝えている。

ことの発端は河井杏里参議院議員である。夫の河井克行元法務大臣がかなり派手に岸田文雄さんのお膝元を荒らしていたらしい。これが公職選挙法違反疑惑になった。こうなれば菅官房長官の責任問題になってしまう。この機会をとらえて菅官房長官を引き摺り下ろそうとした人がいるようだ。

この記事を読んでもなぜ菅官房長官が遠ざけられるのかがよくわからない。鍵になるのはここに出てくる麻生財務大臣と岸田文雄政調会長だろう。麻生太郎は吉田茂の孫なのだが、岸田文雄も政治家の三代目である。祖父は岸田正記というそうだ。岸田家は宮澤家と姻戚関係にあり宮沢喜一元首相の弟で元広島県知事の宮澤弘の妻が岸田正記の娘さんなのだそうである。安倍晋三も安倍家というよりは岸信介の孫というのがアイデンティティになっている。つまり、こうした一家は姻戚関係で結びつき日本の新興貴族階層を作りつつある。GHQ体制で作られたのだからGHQ貴族と言ってもいいし昭和貴族と言ってもいい。

昭和GHQ貴族なのだから総理大臣の地位を自分たちで回し合うのは当たり前のことだ。また、国民から預かったお金という意識はなく、国民から取り立てた年貢であるという意識を持ってもそれは当たり前である。

菅義偉は秋田の農家の生まれであり「骨品が劣る」と考えられているのだろう。安倍総理はこの血統の問題で彼を軽蔑しつつも便利だからという理由で彼を重用してきた。だが内心では苦々しく思っていたようだ。この安倍総理の本心が2019年にいくつかの事件を引き起こした。党内勢力拡大を図り「無派閥という派閥」を形成した菅派が、福岡では麻生派とぶつかり広島では岸田派とぶつかっていた。自民党の派閥は小選挙区制の元で昭和GHQ貴族が一般国会議員を支配する装置に変質ていた。そこに入れないあるいは入りたくない人たちとの軋轢が生じていたのである。

この昭和貴族は青山繁晴率いる日本の尊厳と国益を守る会とも潜在的に対立している。彼らも早くから消費税引き下げや直接給付を主張していた。青山らにとって安倍総理は単なるお神輿であり安倍総理が既得権益側についてしまった時点で存在価値がなくなるのである。

安倍総理は結局昭和貴族側についた。門番である菅を放逐してしまっていたことで別の問題が起こる。それが公明党とのパイプである。公明党もGHQ貴族とは関係がない。2016年にはこんな記事があった。「菅官房長官に党内の不満は強くとも代わりがおらず総理も従う」という記事である。菅さんは公明党ではなく創価学会にパイプがあるようだ。今回公明党が総理に怒鳴り込んできた背景には「二階さんと安倍総理がどう握っているのかわからない」という不安があったわけだが、おそらく創価学会は「菅官房長官経由で情報をもらえないと総理が何を考えているのかわからない」という状態に置かれていたのではないかと思う。そこで、連立離脱まで持ち出して閣議決定されたものをひっくり返すという心理的パニックに陥ったのではないかと考えられる。

今回の10万円支給事件は民衆が幕府の金蔵に押しかけて門を壊したという事件である。新型コロナという危機に人々は恐怖心を抱いた。金はいくらでも幕府の金蔵にあるわけだからそこを叩いて怖そうとしたわけだ。今までは身分が卑しい下層階級の菅さんに「民衆対策」を任せていたわけだがその菅さんはいない。そこで昭和貴族は民衆に恐れをなして金蔵を開けてしまったことになる。昭和貴族は自分たちの金蔵を守ることができなかったのだ。

実は昭和貴族は彼らが下賤と考えていた人たちに守られていただけであった。それはネトウヨであったり菅さんのような農民出身の実力派議員である。この先どういう展開になるかはわからないが、おそらく令和の自民党史を考える上で10万円強奪事件はかなり重要なポイントになるのではないかと思う。つまり戦後からの自民党の血脈が一旦途切れることになる。彼らはまた別の王様(例えばプリンス・小泉など)をいただくことになるのかもしれないが、王様が指導力を発揮することはなくなるだろう。

そもそも安倍総理が「カゴの中のプリンス」だったわけで、彼が長期政権の中で自らのポジションを錯誤していったことが今回の騒ぎの原因と言えるのかもしれない。

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