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政府の新型コロナ一律支給システムを夢想してみる – 世帯単位と個人単位

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特に決まったことがあるわけではないのだが新型コロナ一律支給にたった一度だけ使われる予定の一律支給システムを夢想してみることにした。こういうシステムになることはないだろうが、情報が入ってきたら「ああ、ここはこうするのか」ということがわかるだろう。すでに、世帯主がまとめて申請して一つの口座に振り込むことになるという報道がある。つまり、識別はマイナンバーではなく住基番号になるのではないかと思う。最後にちょっとだけ歳入庁の話が出てくる。

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まず、支給に必要なものは、住民識別番号・口座情報・出納記録・申し込み情報・住所(お知らせ郵送用)である。この仕組みは新しく作らなければならない。世帯にまとめて現金を配るというオペーレーションは存在しないからだ。

実はかなりの部分で既存のシステムが使える。年金支給のために口座情報を持っている(年金受給が始まってなくても管理する仕組みはあるわけだ)し、マイナンバーポータルを使えばここに申請モジュールを追加すればそのまま申請窓口として使える。さらに銀行はマイナンバーを持っているので銀行からマイナンバー情報を持ってきて突合すればデータを作ること自体はできる。

ところがこれが使えない。第一の理由は先に述べた「世帯一律方式」である。おそらく振り込み手数料や事務の手間などを考えているのだろうが、日本の行政は個人主義と世帯主義の間で無意味に揺れている。マイナンバーは個人単位でありキーが揃わない。

ただ、今回のシステムに使えるパーツ自体はいろいろなところに分散している。配布の仕組みは年金事務所が持っているし、電子申請はマイナポータルでやっている。また税務署の仕組みも使えるかもしれない。そして住基ネットには住民票コード・氏名・住所・生年月日・一部の収入(税金の対象にならな人は市区町村に届ける)・マイナンバーが登録されている。

ただ、これがいちいち不便なのだ。

例えばマイナンバーポータルを使おうと思ったのだが「ICカードリーダーを入れてくれ」と言われた。スマホでも使えるそうだが手持ちのiPhoneではダメだった。おそらく非接触型のICチップが必要なのであろう。これは感染症対策のところでも見たが日本人は村を作ってしまうので外から新しい知識が入ってこない。このために古いテクノロジーを利用した不便なシステムができてしまうのだろう。それが現実を制約することになる。

この村意識は官民だけでなく官僚組織同士でも存在する。「年金は厚生労働省の既得権益だから財務省に渡したくない」のである。だからそもそも情報をまとめようという気持ちになれない。住基ネットは自治体を指導する総務省の管轄なのではないかと思われる。

ところが国民の側にも「情報を統合してくれ」という要望はない。歳入庁構想というものがある。国家がお金を取り立てやすくするために情報を統合しようという「目論見」である。政府に対する反対材料を常に探している野党は「政府が国民の情報を監視することになる」と不信感を煽り立てる。特に社会党が国民総背番号制と言って長年反対している。

マイナンバー制度も民主党時代にようやく形になったという歴史がある。閣議決定したのは野田政権だそうだ。だが完全には統合しきれず住基ネットの番号とマイナンバーは別立てになってしまった。

仮に今回の支給で「国はいざという時にお金をくれるんだ」ということがわかれば喜んで口座番号を提供する国民が増えるだろう。もとはといえば日本政府がケチだから歳入庁構想が前に進まないのである。消費税で税金を広く薄く取ろうとするが決して広く浅くは再分配しないというのは残念ながら事実である。

例えば税金の還付を税務署から直接受けられるようにすればいいのだが、例えば年末調整は企業単位で行われている。これは税金の徴収管理が面倒だった頃の名残なのだろう。今回の構想が出てくる前にNRI(野村総研)が子育て支援などの振り込みにマイナンバーを使えという提言を出している。これも歳入だけでなく出納管理を個人単位でやるべきという構想である。

ちなみにどんなシステム屋さんに聞いても「究極の個人情報である口座情報が数千万の単位で入ってくるシステムを全く間違いなく作ってください」などと言えば断られるだろう。総理大臣は全国民向けに演説して「オンラインによる三ヶ月以内の支給を目指している」みたいなことをおっしゃった。どんなシステムが作られるのか今から楽しみだ。これがうまくできれば、おそらく歳入庁構想は一気に前進するだろう。

リーマンショックのとき、全国民一律に配付した定額給付金の際には、皆さんに案内をお送りする作業だけで3か月もの時間を要しました。そのため、今回はスピードを重視するとともに、申請する人が殺到して感染リスクが高まることを避ける観点から、手続については市町村の窓口ではなく、郵送やオンラインによることにしたいと考えています。

新型コロナウイルス感染症に関する安倍内閣総理大臣記者会見

だが、PCRテストに関する厚生労働省の振る舞いを見ているとおそらく今の日本政府には無理ではないかと思う。さらに野党もこの問題には切り込んでいないので問題を分析する能力を失っているものと思われる。今後の成り行きが楽しみではある。

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