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交渉したがる政治家と事実を受け入れられない日本人

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西浦博北海道大学教授が政府との交渉について書いている。数字は嘘をつかないと考える科学者と数字が出たらまずネゴしてみるべきだと考える政治家の違いがわかって面白い。日本でこのままCOVID-19の被害が広がらなければ「面白い」ですむかもしれないし、そうでなければ悲劇として語られることになるだろう。いずれにせよ日本のコロナ対策は面白い踊り場にさしかかった。

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西浦教授は80%削減で15日+15日の待機期間が必要になり65%だと90日+15日の待機期間が必要になると言っているだけである。どうすべきかということは政治判断だと認めている。日曜討論では尾身茂さんが同じ主張をしていた。

ただ、この情報は受け手に波紋を広げたようである。80%抑制などできそうにないからだ。そこで政治家は西浦さんに交渉を始めた。西浦さんから言えば「俺に言わずにウイルスと交渉してくれよ」という感じではなかっただろうか。

今回は結果が我々の生活に直結する形で出てくる。ウイルスには感情がなく(呼吸すらしていないそうだ)計算結果がそのまま表示される。ただ、同じようなことは様々な政府統計でも行われていたんだろうなと思う。

よく隠蔽体質などというが、政府には隠蔽体質が染み込んでいる。日本人は正解にこだわるので自分たちの正解に合わせて問題を書き換えたがるのである。ウイルスとは交渉できないので数字を出している人と交渉し「この人がこう言っているから」と嘘をつきたがる。これまでも散々見てきた風景だがまた同じことが繰り返されようとしている。

まず記事から西浦さんの行動を追ってゆく。まず既存の情報から60%程度減らすべきだという数字を出した。一人の患者がどれくらいの人に感染させるかという数字(再生産数)を元にした数字だそうだ。ところが日本は要請ベースであり強制はできない。おそらく性風俗と医療には介入できないだろうと考えて新しい数字を細かく出した。それが79%だった。

ところがここに最初の介入が入る。大臣や緊急事態を担当する部署(西浦さんは書いていないがつまり内閣府ということだろう)から6割ではダメですかと言われたという。専門家の意見というのはつまり「箔付け」のために添付されるものだ。だがそんなレポートを出せば怒られてしまうと考えたのだろう。科学者の試算を変えようとした。

そこで西浦さんは80%だと収束に15日かかり予備観察期間の15日を足して一ヶ月になるが、65%だと収束に90日かかり予備観察期間の15日を入れると105日かかりますよと伝えたという。西浦さんは担当の仕事をやった。あとは政府判断である。

するとあとで資料が書き換えられていたことが分かったという。説得してもダメだったらそういったことにしてしまえという圧力が働いたことになる。政府の中に隠蔽体質が根付いていることがわかる。もともとそうだったのか、それとも安倍政権下で変質したのかはわからない。

さらにモーニーニングショーのコメンテータ(Twitterでは田崎史郎さんが名指しされているのだが)が西浦さんの名前をだして西村厚生労働大臣経由で「専門家は6割でいいと言っている」という情報を出したそうだ西浦さんが「自分でマスコミに伝えないと自分がいったことにされてしまう」と危惧したのはこのあたりからだったようである。

財務省近畿財務局で自殺に追い込まれた赤木俊夫さんは「このままでは私一人の責任にされてしまう」と考えて自殺に追い込まれるわけだが、無償で働いている科学者も「マスコミに悪者にされる」と自己防衛を図らなければならないという嫌な世の中なんだなということがわかる。Buzzfeedでは落ち着いた調子になっているが、Twitterを見ると当時の西浦さんはかなり色めき立っていたようだ。

政治が自分たちの都合に合わせて「事実を調理する」という事実である。彼らは日常的に嘘をついていてウイルスに対しても嘘をつこうとしているということになる。日本人の中にある「ネトウヨ的病」では歴史的事実も改竄されてしまうが彼らはウイルスの振る舞いも改竄しようとしてしまうということだ。田崎史郎さんをテレビで放置するということは官邸の嘘を是認するということであり、おそらくそれは我々の命を危険にさらしかねない。

ただ、この交渉方法そのものは政治の世界ではよく行われているらしい。あるいは西浦さんは最初「90%くらいの数字を言って政治家にディスカウントさせるべき」だったのかもしれない。

政治家的交渉術は今補償を巡る争いになっている。東京都は自前でも感染を止めたかった。だが財政が苦しい神奈川と埼玉は自前ではできないので国に基準を作ってもらいたかった。そこで交渉が始まった。

麻生財務大臣は「俺の金(税金なのだが彼にとっては自分のお金である)」は一切補償には使わないという立場のようで「東京以外に何ができるか高みの見物と行こうや」という構えのようだ。そこで西村厚生労働大臣は「国は補償しないが当道府県が交付金をどう使うかは勝手」という立場で交渉しようとしている。極めてわかりにくいが日曜討論では「実質的な休業補償」という表現を使っていた。おそらくNHKはこうした本音と建前の使い分け(二重思考)を普段から扱っていて慣れているのだろう。

上からは「金は使うな」と言われているが、下(都道府県のことだ)からは国が金を出さないから休業要請ができなかったとは言われたくない。NHKは息をするようにその事情を組んでしまうのだ。西村さんは大臣なので麻生財務大臣とは同格のはずだが「財務省は上」という意識があり、中央と同格のはずの都道府県が下になっている。おそらくこんな言論環境で目的ベースの意思決定など無理だろう。

さらに森田千葉知事に至っては今何が起こっているのかよくわかっていないようだ。休業要請はしないと言っていた。おそらくなぜ緊急事態宣言が出たのかもよくわかっていないのだろう。だが千葉市長にせっつかれてようやく休業要請に踏み切った。しかし千葉県は「お金は出さない」と言っている。「そんなことできるわけないだろう」といういいぶりである。市内に感染源になりそうな繁華街を抱える千葉市長はかなり苛立っていたようである。

と、ここまでは政府の対策がうまくいっていないという前提で論を進めてきた。だが、ニューヨークの数字と東京の数字を見比べると何かがおかしい。東京にはくだらない論争やネゴをする時間がありすぎるのだ。

ニューヨークでは感染者数が一週間の間に数千人の単位に膨らみ外出禁止が出てもおさまらなかった。外出禁止令の効果がではじめたのが二週間+αくらいたってからである。一方「このままでは東京もニューヨークになる」と言われるようになってから、すでに二週間くらい経過している。とっくにニューヨーク化してもおかしくない。だがそうはなっていない。

幸いなことにまだ東京以外では感染爆発というような事態には至っていない。「二週間でニューヨークみたいになるのでは?」という予測は外れつつある。だが、なぜ東京で感染爆発が起こっていないのかという議論はあまり聞かれない。

おそらくこのまま「気を緩めるとニューヨークみたいになるのでは?」という恐怖心を抱えたままで原因究明せずだらだらと自粛状態が続くのではないかと思われる。

日曜討論では「普通の仕事はしてもいいが歓楽街は100%閉じるべきだ」というようなことを言っていた。政府とマスコミは科学者を抑えるのに失敗したので「夜のクラスター」にしわ寄せをして数字を調理しようと試みているようだ。

東京にはなぜか独特の余裕があり「夜のクラスター」を封じ込めればなんとかなるのではという空気が生まれそうだ。法律では規制できないので警察官が夜の街を巡回して威圧し始めたそうである。あるいは政治対応はCOVID-19にプラスの効果もマイナスの効果も産んでいないのかもしれない。そのままじりじりと夜の歓楽街とエンターティンメント業界を絞め殺しつつこのままの状態で進むのかもしれないと思う。

日本の政治はバブル崩壊後の構造改革もせず非正規雇用にも救いの手も差し伸べなかった。なんとなく統計をごまかし事実から目をそらしたが「なんとかなってきた」という歴史がある。その意味ではこの列島はなぜか不思議な停滞感に守られているという気もする。どんどんつまらない国になってゆくがそれでも潰れるようなことはないのである。

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