東出昌大の不倫騒動が話題になっている。子供が三人もいるのに若い女性と三年間も不倫をしていたそうだ。ここで注目されたのが東出の「経済的損出」である。ドラマの主役はそのままやるようだがCMを降板させられたと話題になった。CMのギャラの範囲内ではあるが賠償金請求もされるそうだ。なぜ人々は東出の賠償責任に興味があるのだろうか。
テレビでは東出を擁護することは許されていないというような雰囲気がある。三浦瑠麗さんらが擁護論を出したようだがこれに対する反発もある。主婦層を相手にするワイドショーではそもそも不倫擁護論は展開しにくいだろう。
ところがマスコミが懲罰感情一色になるとやはり「これは大げさなのではないか」という声が出てくる。アメリカでもCM降板などがあるのか?という質問をQuoraで見かけた。アメリカの事情を見ると日本の特異性がわかる。
そもそもアメリカではCMタレントの格があまり高くない。日本でいうとチラシのモデルのような扱いで私生活が晒されることはないように思える。日本ではCMタレントのイメージにライドして商品を心情的に訴えるのでどうしても「タレントに裏切られた」という感覚ができてしまう。その意味ではこうしたCMを量産し続けていた広告代理店の罪は重いといえるだろう。CMのプランニングを頼むと商品特性もろくに聞かずにタレントのリストを持ってくる営業マンは多い。タレントを断ると集団で踊りましょうなどと提案してくる。日本の広告代理店はクライアントの製品特性にさほど興味がない。心の中ではどれも似たようなものだと思っているのかもしれない。
アメリカでももちろん浮気を非難する声はある。英語でcheating(ずる・だまし)というそうだが、芸能人のcheatingの話題はよく出てくる。その度に高いお金が話題になる。実はそのお金の種類が日本とは違っているのである。
アメリカでは芸能人が不倫をすると「離婚をするのにいくらお金が必要なのか」ということが話題になる。コスモポリタンは50組の不倫と離婚騒ぎについての特集をしていることから関心が高いテーマであることもわかる。だが、不倫はあくまでも当事者間の問題だとされていて第三者がとやかく言うことではない。また、日本では不倫相手に慰謝料を請求することがあるそうだが欧米では一般的ではないそうだ。このことからも夫婦当事者間の問題であるという意識が徹底されている。
結婚していた人は「結婚していれば自分のものであるべきだった夫・妻の収入」の半分をもらう権利がある。結婚は契約なのだから契約書があるのが当たり前という感覚である。婚前契約で慰謝料や財産分与などの取り分を決めておくこともできる。このように司法制度上も意識の上でも結婚はかなり強く守られている。養育費もかなり重い負担になるようだ。不倫した側が無傷で放免されることはない。
このことから、逆に日本は不倫された相手(たいていは妻の側だが)があまり守られていないことがわかる。
第一に離婚してしまうと女性は補助的な労働者かキャリアを中断した中途半端な労働者と見なされることが多く安易に離婚できない。
次に女性は「お嫁にもらってもらう」という意識があるので婚前契約などという週間はまず定着しない。
さらに離婚して慰謝料や養育費を勝ち取ったとしても支払われないケースがかなりあるという。これは社会的に大きな問題になっているという。
厚生労働省の統計を見ると養育費の取り決めをしているのは38.8%の離婚家庭だけだそうだ。養育費を現在ももらっている人は19.0%だけだそうだ。NHKは3/4が養育費が受け取れていないと報道している。強制徴収などの制度はないので明石市では名前を公開して辱めるという制度を導入したそうだ。理由は書いていないが、養育費をもらえない人が生活保護に行き着くことになっては困るが取り立てまでは面倒を見切れないからなのかもしれない。取り立てが面倒なので諦めたという人もいればそもそも夫と関わり続けるのが面倒だから話はしないという人たちも多いという。
日本では社会が離婚家庭(特に母子家庭)を欠落した家庭と考える傾向が強く社会的な支援もあまりなくその中で諦めてしまう人も多いのだろう。あるいは夫が不倫をしても言い出せないという人もいるかもしれない。そうすると「正解としての結婚」にしがみつく人が出てくる。既得権益なのでそもそも結婚できないという人が増え子供も作りにくくなる。
「たかが不倫」のニュースなのだが興味を持って見ると、日本社会と政府が結婚という正解にしがみつき思考停止に陥っているという実態が見えてくる。
今回は当事者の杏さんがあまり経済的に困っておらず沈黙を貫いている。このままでは面白い見世物にならないので「東出さんはこれだけCMの収入がなくなりましたよ」と報道して溜飲を下げたい人たちがたくさんいるのだろう。でも東出さんが困ったのを見たところで社会的な問題が解決するわけではない。
日本で不倫がことさらに悪く言われるようになったのは男性の経済的地位が下がり複数の家庭を維持することができなくなったことと女性の側が不安と不満を抱えていることが背景にあるのだろう。結局は経済問題だ。その意味で東出さんに向けられた非難は視聴者の経済的不安を表している。ゆえにこれを「やりすぎだ」という人が視聴者を説得することはできない。実は東出さんの話をしているわけではないからだ。
かつては男の不倫は芸の肥やしなどと言われたものだが、そのようなある種の鷹揚さを許容できる余裕はなくなっている。結婚という制度にしがみつかざるをえない人たちが多く、今の日本社会は不倫を許容することができないのだ。