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権力者が勝手に憲法を変えるのはなぜ危険なのか – ロシアの事例

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ロシアで驚きのニュースが入ってきた。メドベージェフ首相がなんの前触れもなく退任したのだ。それに伴って全閣僚が辞任した。このニュースは全く背景がわからない。少し関連する記事を読んでみたのだが「権力者が憲法改正をほのめかすような政治土壌は危険だな」と思った。なんでもありになってしまうからである。

まず事実関係だが次のようになる。

  • メドベージェフ首相がプーチン大統領と会談した後で突然退任を表明し全閣僚も辞任した。
  • プーチン大統領は全閣僚と個別に面談するという。(CNN)
  • プーチン大統領の任期は2024年までである。現行憲法制約上次は立候補できない。
  • プーチン大統領は大統領の権限を弱め、議会とアドバイザリーボードの権限を強める憲法改正案を提案している。(日経新聞)
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自分が大統領であり任期もあと4年残っているのに「権限を弱める」とは奇妙な気がする。誰も「自分の任期を弱めるために提案している」とは思っていない。日経新聞は後継者たちが自分を脅かす権力を持てないようにしようとしているのではないかと考えているようだ。つまり、プーチン大統領はアドバイザリーボードを使って院政を敷こうとしているというのだ。あとになってBBCの日本語版が出たがやはり院政の布石か?と書いている。

日経新聞は「連続」二期規定も外そうとしていると伝える。メドベージェフは大統領として2008年から2012年まで大統領をやっていた経験がある。プーチン大統領が連続二期大統領をしていたので再挑戦ができなかったので「代わりに一期だけ」メドベージェフに代わってもらっていたのだ。これをタンデム体制というそうだ。つまり通算で二期しかできなくなると次の大統領がタンデム方式を採用することができなくなる。最初からプーチンはメドヴェージェフを後釜にする気などなかったのだ。

プーチン大統領は連続三選禁止の規定を回避するためにメドヴェージェフを替え玉にし、そのあとで大統領任期を4年から6年にしている。それだけ「大統領の地位にこだわっている」ことになる。ところが今回はそれは目指さないという。議会や評議会の権限を強めようとしているところから意図を読み取るしかないが、改憲提案の内容からおそらく議会か評議会の重鎮として権限が弱まった大統領や首相をコントロールしようとしているのではないかと推測されているようだ。

BBCの記事はかなり恐ろしいことを書いている。

If he is sticking around, perhaps he needs to make that palatable to people given all the social and economic problems he had to list once again in his annual address to the nation. If Mr Putin were to blame for their woes, Russians might well wonder why they should swallow him staying on, post-2024. Dmitry Medvedev – so often useful to Mr Putin – for now looks like a handy scapegoat.

Russian government resigns as Vladimir Putin plans future

ロシアには内政的な問題があり必ずしも国民は満足していないようだ。この状態で大統領が地位にしがみつけば国内で反対運動が起こる可能性がある。すでに4年後を考えているということはレームダック化も恐れているのかもしれない。

これらを防ぐためには議会の権限を強化し「みんなのために大統領権限を弱めてあげた」と言えばよく、さらに国内問題を誰かのせいにすればいい。Dmitry Medvedev – so often useful to Mr Putin – for now looks like a handy scapegoat.とはつまりメドベージェフ氏がスケープゴートだということである。恩人でも利用価値がなくなればスケープゴートにする。ロシアはそんな政治土壌だということである。憲法も協力者も利用して権力を我が物にしようとしている。そうしないと生き残れないのだ。

いくつかの記事を読むとロシアでも憲法改正はそれほど簡単ではないようだ。またプーチンといえども独裁者ではなく国内で人気を得るために国民に対して様々な懐柔策を準備しなければならないようだ。

すでに4年後に備えて布石を打っているような政治家からみれば日本の北方領土交渉など取るに足らないものだったのだろうなという気がする。だが、これは日本の政治家が「是が非でも成果が必要」というところまでは追い詰められていないことを意味する。せいぜい育休を取って人気が上がるか上がらないかという程度の話でしかない。憲法の制約が効いている上に文化的に抜け駆けを縛りあう土壌があるからだろう。

ロシアはソビエト時代から熾烈な権力闘争の歴史がある。一方、日本人は責任を嫌い物事を曖昧にしたがるから日本の権力闘争は「死ぬか生きるか」というところまでエスカレートしない。おそらく日本の政治家が好き勝手に憲法が変えられるようなれば権力闘争に慣れていないのに権力から抜けられなくなるという最悪の事態を招くだろう。これが国民のためになることはおそらくないわけで、権力者由来の憲法改正提案は厳密には違法ではないかもしれないが、決してやるべきではないという気がする。

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