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日米安保条約破棄とシーレーン独自防衛

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アメリカのトランプ大統領が「日本と中国はシーレーンのタンカーは独自で守るべきだ」と発言した。そしてそのあとで「トランプ大統領が日米同盟破棄を仄めかした」と重ねた。さらにFOXテレビでも日米同盟は片務的だと今度は大統領自らが発言したようだ。G20直前であること、2020年選挙キャンペーンが始まったこと、イラン情勢の悪化などを含め様々なフレーミングで憶測することが可能である。

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このニュースからわかるのはトランプ大統領が総合的な戦略を持っておらず、個別のディールをつまみ食いする「その日暮らしの」大統領だということである。日米同盟をネタに日本を恫喝すればある程度のベネフィットを得ることはできるだろうが、アメリカの中東でのプレゼンスがリスクにさらされる。沖縄の基地は中東の後方支援基地の役割を果たしているからだ。これで喜ぶのは中国だ。アメリカがグアムに「後退」すれば自由度が増すからである。日米同盟支持の識者たちは困惑気味である。

次にわかるのはトランプ大統領がたくさんの「オトモダチ」に勝手にしゃべられせているということである。Bloombergの記事は3人の「匿名の人々」がネタ元になっている。同じことは中東でも起きており、娘婿クシュナー氏のパレスティナ「救済」ディールをポンペオ国務長官が「うまく行くはずがない」と揶揄して問題になった。このためなのかイスラエルもパレスティナもクシュナーの登場する集まりには参加しなかったようだ。

話を本題に戻して、シーレーン防衛について確認する。

一方、トランプ氏はツイッターへの投稿で「(ホルムズ)海峡から中国は原油の91%、日本は62%、他の多くの国も同じように輸入している」と指摘した。「なぜ米国が他国のために無報酬で航路を守っているのか。こうした国々がいつも危険な旅をしている自国の船舶を守るべきだ」と不満を漏らした。「米国は世界最大のエネルギー生産国になった。そこにいる必要すらない」と米軍展開に消極姿勢を示した。

「タンカーは自国で防衛を」 トランプ氏、日中に要求 

この62%というのは間違った数字のようだ。細かく刻むことで「ああ、この人知っているな」という印象にはなるが、実際には8割を依存しているそうである。しかし、発言自体は合理的だ。

ホルムズ海峡はアメリカには関係がない。さらに日本は安全保障をアメリカに依存しているという弱みがある。さらにアメリカ民主党が支配する下院は予算を下ろしてくれそうにない。そうなると議会を説得するよりも日本を恫喝した方が「お財布」が得られる可能性は高い。トランプ大統領としてはイランにプレッシャーを与えられれば、そのお財布がどこにあってもよいのだろう。こうしていろいろなところに働きかけをして結果的に「何か当たればいいな」というのがトランプ流といえる。そして成果だけを強調して話すことには自己催眠的な効果も持っている。信念が周囲からの拍手で強化されてしまうのだ。

ただ、これをあれこれ詮索してもあまり意味はないだろう。専門家の情報をいろいろ読んでみたが、そもそも一貫した戦略を分析するのを諦めているようだ。「その場その場で呟いているのだろう」という分析になっているものが多い。大切なのは話を裏読みすることではなく、トランプ大統領も日米同盟ももはや信頼できないということを知ることだけなのかもしれない。

こうなると日本は日本の国益を守るために早速与野党を超えて話し合いを始めた方が良いように思える。日米同盟破棄を通告されたりイランに宣戦布告されたら大パニックが起こるだろうから、今のうちに話し合っておいた方がいい。そのためには争点になるような議論は一時休戦すべきだろう。

例えば、仮にイランの海域で戦争が起こった場合、日本は戦争状態の海域でタンカーを守ることになる。これは専守防衛で片付けられるかもしれない。一方、立憲民主党は「周辺海域の専守防衛」を唄っているのだがこの説明は転換せざるをえないだろう。

我が国周辺の安全保障環境を直視し、専守防衛のための自衛力を着実に整備して国民の生命・財産、領土・領海・領空を守ります。領域警備法の制定、周辺事態対処の強化などにより、主権を守るため現実的な安全保障政策を推進します。

立憲民主党 – 外交・安全保障

しかし、そのためには立憲民主党の顔も立ててやる必要がある。ところが安倍総理大臣は国会総括で会見を開き「悪夢の民主党政権説」をもう一度披瀝し(彼は自民党総裁ではなく日本の首相として会見しているにもかかわらずである)憲法改正に意欲を見せてしまった。安倍首相は国際情勢が変わりゆく中、自ら話を複雑にしてしまっていることに全く気がついていない。

例えば、安倍首相がアメリカの顔色を伺ってイラン封じ込めに参加したとする。日本のタンカーはイランに狙われることになる。さらに集団的自衛の枠組みと専守防衛の枠組みが混乱する。集団的自衛の枠組みでは日本の自衛隊は敵地に近づけないが、個別自衛の枠組みではタンカーを守る必要があるというような具合である。しかし、ここで仲間割れしてしまえばその隙に中国がやってくる。この海路は中国に取っても重要で、なおかつ中国にはアメリカと対抗したい意欲がある。

石油が止まれば原子力という話になるだろう。すると護憲派と反原発が結びつきさらに厄介になる。「テーブルに着いたら負け」という空気が生まれれば、野党支持者は確実に支持を失うだろう。お腹が空いているのに全く妥協しない人たち人たちという印象がつくからである。ところが、自民党は強行採決で押し切ることを余儀なくされ。政治的なリソースは消費され決定は遅れ、したがって国民生活に大きな影響が出るだろう。

潮目は全く変わってしまったことは明白なのだが、当事者たちだけがそれに気がついていない。悲劇のように見えるし喜劇のようにも見える。これが喜劇であることを望みたい。

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