Facebookがリブラという仮想通貨を始めるそうだ。2020年発行を目指すという。
日本語では概ね好意的な報道が流れている。日経ビジネスが伝えるように「あのFacebookが安心できる通貨を始めるらしい」という論調だ。別の記事はリブラはステーブルコインであり投機目的の仮想通貨とは違っていると言っている。背後に実体通貨バスケットの裏打ちがあり、乱高下しないという。
このニュースを聞いたときに「日本円が崩れた時の逃避先に使えたらいいな」と思った。アメリカの銀行口座を持っていたのだが、横行するマネーロンダリングの規制が厳しくなり外国在住の人は口座が持ちにくくなりつつある。
MMT理論なども平然と主張されるようになり、どうやら日本が財政破綻する可能性は高まっているようだ。しかし、これまで大企業でなければ資金逃避(分散投資)はできなかった。都市銀は国債から逃避しているようだが地銀はまだ国債を保有している。このことから規模の小さい企業と個人は否応なく円に縛り付けられてしまうということがわかる。リブラがどれくらいの資金を蓄積できるかはわからないのだが、逃避先としては使えそうである。
ところが、これに水をさす動きもある。アメリカの下院では早くも反対意見が出ているそうである。表向きの反対理由は「Facebookは個人情報保護が信頼できない」というものが。だが、この「個人情報云々」は単なる口実に過ぎない可能性もある。
アメリカには銀行口座を持てない人たちが大勢いる。彼らはUnderbankedとかUnbankedなどと言われる。アメリカでは25%程度がこのカテゴリーに当たるという記事もある。彼らは口座に入れるお金がなく、彼ら貧困層が住んでいる地域には支店すらない。Facebookはあくまでも途上国対策としているのだが、実際にはUnderbankedの人たちもターゲットになる可能性があることになる。
アメリカの銀行が困窮者を無視できるのは銀行などの既存金融機関に代わる手段がなく独占状態にあるからである。もし、中間層がFacebookに流れれば、今度は非効率的な金融機関が打撃を受けることになるだろう。このほかに、現行の国際送金のネットワークが影響を受けるかもしれないという観測もある。
Facebookには別の懸念もある。とにかく信頼されていないのである。
例えばPaypalは決済・移動サービスだがブロックチェーンは使っていないしその必要もない。ギズモードの記事は同じようなサービスはどこもブロックチェーンを使っていないのに、なぜFacebookはブロックチェーンを強調するのかが疑問だと言っている。
さらに「あまり儲かりそうにないものにザックが手を出すはずはない」という懸念もある。トランザクションデータを手に入れればそれを加工して売ることもできるわけで「形としては会社を切り離しているがそれは嘘なのでは?」という疑念がどうしてもついて回るのだ。
イアン・ブレマーは、リブラによってFacebookがますます政府から狙われやすくなるというリスクがあるが、うまく行けば銀行にアクセスできない人に手軽な支払いの代替手段を提供できるようになるかもしれないと言っている。
アフリカのように既存の資本主義インフラが使えない地域では同じようなスマホベースのサービスが爆発的に伸びており、Facebookがここに参入したいと考えてもなんら不思議ではないし、Facebookはこれをうまくこなすだろう。その一方でFacebookが単なる慈善事業としてリブラを始めるとも思えない。
いずれにせよ、「銀行」や「通貨」というかつて我々が当たり前だと思っていたものが崩れつつある。好むと好まざるに関わらず我々は急激な変化に直面しているのである。