茂木経済産業大臣が「景気は上がり続けておりいざなぎ景気を超えた」と言っていたのだがこれを内閣府の委員会が追認したというニュースがあった。日経新聞の日付を見ると2018年12月だった。これが2019年1月まで続けば「戦後最長」ということになるそうであり、実際に今回の国会はこのストーリーで押し切る構えのようだ。
この輝かしい好景気は安倍首相が民主党から政権を奪還してからずっと続いているということになるそうだ。安倍首相は偉大な首相なので、帝国陸軍のように不敗の宰相ということになる。安倍政権支持者たちは大満足だろう。
ところダイヤモンド・オンラインには別の記事が載っていた。ダイヤモンドオンラインは会員登録が必要なのだが、今の所ASCIIで読むことができる。この記事は少し読むのが大変だが、2014年に消費税が8%に上がったときに景気の山の頂きが一つあり、2016年から新しい山が始まり2017年の終わり頃に山の頂きがあるという見立てになっている。つまり、今は景気後退側面であると同時にもともと2つの景気の波を一つにまとめただけのようなのである。
この記事を見ていて一番驚きだったのが、そもそも景気という言葉にはどうやら明確な定義がないらしいという点である。もともと、なんか最近みんな調子がいいなという実感をデータで再説明したのが景気なのだろう。企業はたくさん物が売れて忙しくなるわけだから、当然給料も上がっているわけである。だから実感なき景気回復など元々ありえないのである。最初から嘘なのだ。
ダイヤモンドオンラインは在庫と生産という指標から景気を説明しようとしている。しかし、政府が言っている景気が何を示しているのかというのは日経新聞の記事からは伝わってこない。つまり、政府はなんらか別の目的があって景気が良いと言っているのである。まあそれは選挙対策なのだろう。
朝日新聞が伝えるところによると、野党の独自調査では実質賃金は2018年の大半の時期で下がっているという。そして、もはや完全にやる気を失っている厚生労働省もこれを認めたらしい。景気後退側面だったと考えると整合性が取れる話である。つまり民間企業は去年の初め頃には「あれ、なんか売れなくなってきているな」ということに気がついていたということになる。だが、すでに「いやこれはアベノミクスが失敗したせいだ」とか「最初から隠していたのだろう」というような大騒ぎが始まっており、本当のことが知りたいだけなんだけどというような要請に応えてくれるメディアはない。基本的に政府の広報機関になっていて独自調査をしないからである。
ダイヤモンド・オンラインの筆者が指摘するように、アベノミクスが大成功していないと消費税増税ができないというわけではない。だが、安倍首相はネトウヨの思考方式はそれを許さないのだろう。ネトウヨの思考方式とはまず結論を決めてからそれに都合が良い情報をピックアップしてゆくというものである。選挙で「アベノミクスは大大大成功しているから、消費税をあげても大丈夫なのだ」と言いたいとすると、それに合わせた情報をピックアップしようとするはずだ。外ではいい顔をしたいが、いい顔をするためには自分の所有物には無理をさせるというのは、ある意味DV気質と同じである。
しかし、官僚は耐性を持ち始めているようだ。彼らはもはや何も隠さない。かといって進んで真実を導こうという気もない。政治家に言われたら言われた通りに情報を出し、それが嘘だということが伝わると何もなかったかのようにやり直してみせる。関係は切れないので感情を切って現実から遊離してみせるのだ。
今回の、厚生労働省の偽装問題も、総務省の統計委員会の指摘で発覚する(東京新聞)わけだが、この時は大した騒ぎにはならなかった。この発覚したからくりも後から考えると「これは誰が見てもわかるだろう」というものである。
問題となっているのは、厚労省が、サンプル企業からのヒアリングをもとに毎月発表する「毎月勤労統計調査」。今年一月、世の中の実態に合わせるとして大企業の比率を増やし中小企業を減らす形のデータ補正をしたにもかかわらず、その影響を考慮せずに伸び率を算出した。企業規模が大きくなった分、賃金が伸びるという「からくり」だ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201809/CK2018092902000129.html
つまり、厚生労働省は「ああ、こんなことやったらバレるだろうなあ」ということをやって、バレたら「調査します」といってお手盛りの調査をし、お手盛りではないかと言われたら「そうですよね、やり直します」といってやり直す。厚生労働省は内心を消すことによって「自分が考えているやらなければならないこと」と「実際にやっていること」の間にある心理的軋轢を消す道を選んだのだろう。
いずれにせよ大日本帝国陸軍のように安倍政権が負けることは絶対にない。さらに悪いことに戦争のような終わりもない。これからも大本営発表による景気は良くなり続けるのだろうが、多分誰も景気判断そのものを信じなくなるだろう。そして兵士たちは見捨てられやる気を失ってゆく。厚生労働省の担当者たちには調査に必要なボールペンすら満足に支給されなかったという話があるそうだ。
私たちはバブルの崩壊から一向に抜け出せないことに焦っていた。そこで自民党がいけないということになり民主党政権が生まれるのだが、これが大失敗してしまう。すると今度はもう政治には期待できないということになる。最初は中国と韓国を下に見て楽しんできたのだがそれもできなくなり、ついには自分たちの国の景気がどうなっているのかということがわからなくなりつつあるようだ。こんな中で消費税を上げる・上げない・いや凍結という虚しい議論が続くことになるのだろうが、そんな議論をしていても我々の暮らしは全く上向かない。そんな中景気回復という嘘だけが虚しく、勇しく響くことになる。