先日、国会で残酷な議論を見た。小泉進次郎厚生労働部会長が根本匠厚生労働大臣に質問をしていたのだが、これが質問になっていないのだ。ニュースでどう丸められたのかまでは見ていないのだが、この生の議論を見ていると根本さんが議論について行けていないということが丸わかりになってしまう。
小泉さんのミッションは単純である。この議論を厚生労働省のガバナンスの問題にした上で給付金追加支給の話に落とし込みたい。日本人は不確実性を嫌うので、プロセスが不明確だと選挙の火種になることがわかっているからだろう。時事通信社のタイトルは「自民、沈静化へ小泉氏投入」となっていた。その通りだ。
だが、これに根本さんがついて来ていなかった。そこで質問をしているはずの小泉さんが「大臣これはそういう意味なんですよね」といい、そして根本さんが「うんうん」と頷いているような体裁になってしまっていた。このことは小泉さんが「沈静化策」を理解できているということを意味していると同時に肝心の大臣がよくわかっていないということも露呈している。小泉さんは「国民が何を不安に思っていて、それをどう対応しようとしている」ということが理解できているのだが、安倍政権は行政運営より選挙を優先しているので、小泉さんは行政に関わることができないのである。
これは実に残酷だ。安倍首相は行政には興味がないので知識がなく、部下の失敗をカバーできない。だから部下は失敗ができない。失敗すると日本人は全て「結果減点」にしてしまう。小泉さんは自民党側の人なので「私絶対に失敗しない」人である。だから選挙では有利なのだが、これは小泉さんに行政運営を学ぶ機会が与えられないことを意味している。この結果生き残るのは「私失敗しない=私学んでいない」人なので、いきなり首相になり何もできないことが露呈してしまう。つまり、理解力があり失敗できる人が失敗させてもらえず、マネジメントができない人が大臣になるという状況には構造的なものがあるのだ。
根本さんは最初は「何が悪いかわかっていないのでは?」と思っていたのだが、どうやら「統計というものがどういうもので、それが何に影響するのか」ということすら理解できていないのではないかと思う。これが彼の生育歴によるのか、また年代的なものなのかはわからない。少なくとも頭が悪いからではなさそうである。根本さんは東大を出ており建設官僚というキャリアを持っているそうだ。調べてみてとても驚いた。とても東大を出た人の答弁とは思えない。
ただ、根本さんはテクニカルなことが暗記できなくなっているのかもしれないと思った。彼は官僚が書いたものを読むことはできるがその意味まではわかっていないようだ。そしてこれは大変残酷なことなのだが閉鎖空間にいた人の老化現象なのだろうと思う。統計の問題について解説していた片山善博さんが大臣をやっていた時に統計の意味をいちいち聞いていて「そんなことを聞いてくれた大臣は初めて」と驚かれたという。片山さんと根本さんは同じ1951年生まれだそうである。外からやってきて「いちいち疑問を聞いて」いた人は明晰な頭脳を保ち続けるのだが「こんなもんだろう」とぼーっと生きているとああなってしまうのである。
別の機会に維新の丸山穂高さんが質問に立っていた。彼は自民党をある程度かばうつもりらしいのだが、時間が足りないので「勝手に根本さんの言葉を斟酌して」自分で質問し、自分で答弁していた。つまり、若い国会議員たちはこの問題を理解しているということを意味しており、逆に高齢化した内閣は行政対応力を失っているのだ。
立憲民主党などの野党は、この問題を拡大して自民党のガバナンスの問題にしたいという意図がある。だが、これは逆効果である。責めれば責めるほどかわいそうなおじいちゃん感が出る。実は親切にしてあげたほうが「おじいちゃんたちはそろそろ引退したほうが」という印象になるのだ。
立憲民主党と根本厚生労働大臣の話し合いは対立になっているので、この根本さんの衰えが見えない。なんとなく根本さんがいじめられているようにも見えるのである。だが、親切そうで爽やかな外見の孫の小泉進次郎くんや丸山穂高くんが根本おじいちゃんを介護しているように見えるとき、その親切さゆえに根本大臣の衰えが露呈してしまうのである。
野党は根本さんの衰えを際立たせるためには親切な孫対応すべきだと思う。が、本質的な対応をしたいのなら本来は壮年の政治家か外から入ってきていちいち疑問を持つ人に大臣をやらせた方が良い。丸暗記しかできなくなった老人には問題が解決できないし、彼らをいじめるだけでは壊れたテーブレコーダーのように同じ話が繰り返されるだけで問題は解決しないだろう。