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厚生労働省の勤労統計ごまかし問題

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新年早々また気分が悪いニュースが流れてきた。厚生労働省の勤労統計にごまかしがあったのではないかというのだ。だが、断片的にニュースが入ってくるので全体像がよくわからない。そこでこれまでの経緯をまとめてみた。組織的隠蔽の疑いが出始めているようだ。

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勤労統計とは何か

厚生労働省は勤労調査の目的を「毎月勤労統計調査は、雇用、給与及び労働時間について、全国調査にあってはその全国的の変動を毎月明らかにすることを、地方調査にあってはその都道府県別の変動を毎月明らかにすることを目的とした調査です。」と説明している。職工の調査は大正12年から行われており、規模を拡大しながら現代まで来ているという。各種の給付金の算出根拠になっている他、国家予算を決めるための基礎資料のひとつになっている。国の法律に基づき厚生労働省が実施するが実際の統計は都道府県が行っているそうだ。

何が行われていたのか

法律によると従業員500名以上の会社は全数検査をしなければならないのだが、実際には全数調査ではなかったそうだ。日経新聞によると東京の場合は1400の事業所のうちで500しか調べられていなかったそうだ。最初の段階ではこれが恣意的にサンプリングされたのか、あるいはランダムにピックアップされたのかということがわかっていなかった。つまり、どの程度政策を歪める意思があったのかがわからなかったのでである。最初の時点でも中日新聞は「全数検査に見せるようにプログラムまで作られていた」と伝えている。つまり、厚生労働省の担当者は代々これがごまかしであるということを知っていたことになる。一部では2004年からごまかしがあったという報道があるが、厚生労働省は「いつからごまかしがあったのかよくわかっていない」としていた。その後、朝日新聞は「2018年の1月から調査方法を徐々に本来のあり方に戻そうとしていた」と伝えた。つまり、厚生労働省全体が問題を知っていて「これはまずい」と隠蔽を始めていたことになる。比較的給料の高い会社を統計から除いていたようだがこの目的はわかっていない。

何が問題なのか

公式の問題点は二つある。一つはこの調査が経済把握の基本統計であるという点である。つまり、統計が信頼できないとその統計に基づいて行った政策決定が間違っている可能性が排除できない。ロイターは消費税増税が正しい判断だったのかと指摘しているし、原則論的には間違った統計で意思決定はできないから予算編成も最初からやり直しにすべきだ。もう一つの問題点は問題が大臣に報告されてからも間違った統計が発表されていたという点である。つまり大臣まで間違っていることがわかっている数字を公式見解として出していたわけで、この間に審議があれば間違った情報をもとに国会審議しなければならなかったということだ。この件が表ざたになってからも統計資料には補足説明すらなく厚生労働省がこの調査を重く見ていなかった証拠ではないかと指摘されていた。ただし、朝日新聞の報道が確かならば厚生労働省は知っていてとぼけていた可能性がある。

しかし、この他に公式には問題にならないであろう重要な背景があると思う。一つ目は騒ぎになるタイミングだ。安倍首相はヨーロッパにいて官邸が動けないタイミングだったのだ。厚生労働省が官邸の介入を嫌って先に情報を出した可能性がある。また、中日新聞は「ごまかしがあったのはわかっていたが規則なので出した」という担当者のコメントを紹介している。例えて言えば「体裁さえ守られていれば別に嘘をついてもいいのだ」と考えていることになる。官僚組織は、安倍政権下の5年でやっていいことと悪いことの区別がつかなくなっているのだ。安倍政権で横行している「嘘の政治」の結果であり、有権者が政治に関心を向けなかったことの帰結だと思う。

伝える側の問題点

この報道で気になったのは伝える側の予断と忖度である。この調査は各種給付金の算出根拠になっているのだが、調査がデタラメだったのだから実情より高かったのか低かったのかはわからないはずである。にもかかわらず給付が低かった可能性を伝えている。安倍政権はいろいろな人を感情的に怒らせているので是が非でも政策が間違ったことにしたい人たちもいるはずで、調査そっちのけで官邸攻撃に走ることが予想される。するとヒューマンスキルに欠ける安倍政権は嘘をついてでも情報を隠蔽しようとするだろう。こうして実情はわからなくなり、今後の対応も立てられなくなる。

毎日新聞は「同統計を基に給付水準が決まる雇用保険や労災保険が過少給付されたケースがあることも判明し」と早くから書いていた。朝日新聞ものちにそう伝えている。つまりもうわかっていることがあるということだ。毎日新聞は「政府関係者によると、過少給付の総額が数億円規模に上る可能性もあるという。」と書いている(朝日は二千万人・数百億円と言っている)ので、この政府関係者が厚生労働省でないこともわかる。首相が知らなかったとは考えにくい。だが、ここで取材先への忖度が働き誰がなにを知っていたのかさっぱりわからない。さらに読み進めると「統計の平均給与額などは実際よりも少なく算出されていた可能性がある。」とされているので、確定情報なのか可能性の話なのかもよくわからない。さらに別の報道なども読むともともと手抜きのためにやっていたが、首相が「給料は上がっている」と強弁してきた手前サンプリングを修正した疑いもありそうだし、逆に給料は上がっていたのに保険給付を抑えるために恣意的に統計を曲げていた可能性もある。集団の中で嘘が蔓延し誰も本当のことがわからなくなっていた可能性があるうえに、報道に透明性がないのでそれが伝わらないというかなり救いがたい事態になっている。

厚生労働省は今まで何をやってきたんだろうか?

すでに書いたように、調査が間違っていることが判明してからも厚生労働省は「間違っていることはわかっていたが法律で出すように決められていたのでそのまま出しました」という説明をしている。カンニングした生徒が「カンニングは悪いことですが、提出しろと決まっていたから提出しました」と言ったら「この生徒は反省していないだろう」と思うだろう。民主党政権なら大問題になっているはずである。だが、国民はすっかり政府の嘘に慣れてしまっておりもはや何も感じない。ちなみに1月10日の重要なワイドショーの話題は吉田沙保里の引退と銭湯中年アイドルのドメスティックバイオレンス問題だった。すでにモラルが崩壊して国中が「狂っている」のである。

厚生労働省は2004年から間違った方法で調査がされていたという報道が出回っているにもかかわらず「本当のところはわからない」と言っている。これは、官邸に諮らないと本当のことが言えないということなのかもしれないし、すでに思考停止に陥っていて「上から何か言われるまで放置しておこう」ということだったのかもしれない。さらにタイミングを見ると官邸に悪者にされる前に情報を出してしまおうと考えた可能性もある。11日に根本大臣の説明があるということだが、安倍官邸は体裁のよい説明を行い、後から野党がそれを追求して予算審議に影響が出ることになるだろう。つまり発表があってからの方が報道が出にくくなるのではないだろうか。与野党共に選挙のことで頭がいっぱいになっており、モラルが崩壊した官僚組織のことなど誰も気にしなくなっている。

組織としての無力感からデタラメが蔓延しているのだとしたら厚生労働省ははかなり大変な状態に陥っているはずである。が、政治も選挙のことしか考えられず、有権者は難しいことは偉い人がなんとかやってくれるだろうと感じている。全体が「どうせ自分一人が頑張ったところでどうにもならない」という諦めの気持ちを共有しており集団思考に陥っているわけである。それを虚のリーダーである安倍晋三が「まとめている」という形だ。彼はこの件で表には出てこないだろう。運転手のいないバスが高速道路を突き進んでいるということになるのだが、乗客は「そのうち自然に止まるんじゃないか」と考えていることになる。

今後の影響は

NHKは今後の影響について書いている。統計調査が間違っているということがすでにわかっているので、このままでは新しい予算が立てられない。正しい統計がどちらにぶれるかでこれまでの政策決定が間違っていたことがわかるのでこれも野党の攻撃材料となるだろう。安倍首相のヒューマンスキルのなさから与野党はすでに協力して何かをやって行けるような状態ではなくなっているうえに、リーダーシップのなさから官僚組織もモラルが崩壊している。予算編成が難渋すればそれ以外の審議時間の確保が難しくなる。大きなものはもちろん憲法改正だ。すでに行事が目白押しで時事通信社は憲法改正の審議に「落ち着いた時間が取れないのでは?」と指摘されている。参議院議員選挙までは衆参で2/3が確保できているのだが、この統計問題のハンドリングに失敗して参議院選挙で負けてしまえば発議は絶望的になるだろう。

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