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新しい外国人材確保政策の何が問題か

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先日、渋谷のハロウィーンで多くの逮捕者が出る問題があった。逮捕されたのは日本人なのだが、地震のときにも整然とした行動をとるはずの日本人が逮捕されるまで暴れるのを不思議に思った人もいるかもしれない。もともとあのような「乱痴気騒ぎ」のハロウィーンを主導していたのは六本木などにいた外国人だった。主体性がなく影響されやすい日本人が「ハロウィーンで騒いでもいいのだ」という文化を受容した結果、あのようなことが起きたのだと考えられる。

あのような暴動を昔ロス・アンジェルスで見たことがある。1995年にバスケットボールでタイトルを獲得したことに喜んだ学生の一部が暴徒化したのである。暴動が起きたのは決して貧しい地域ではなく、UCLAのキャンパスだった。つまり暴動を起こしたのは普通の学生たちだ。アメリカでは「たかがバスケットボール」くらいでこのような騒動が起こる。20年以上経ってあれが輸入されたのだなと思った。

外国人と付き合うのはとても難しい。社会に思わぬ変化がもたらされるからである。

政府は外国人材の獲得を目指した新しい入管法案を閣議決定した。(時事通信)例のごとく問題の多い法案になっている。日経新聞におおよそのまとめが出ているが、問題の内容は法案自体を見ていてもわからない。いつものようにその取り扱いや解釈が問題になっているからである。政府は「僕たちがきちんとするから自由にやらせてくれ」という主張をしている。が、技能実習生制度を見てもわかる通り、政府の管理能力は極めて杜撰である。技能実習生制度も日本語学校も低賃金労働の温床になっている。だが、それはやはり抜け穴に過ぎない。安倍政権はもっと大きな変化を起こそうとしている。

外国人材登用が問題になるのは2つの副作用のせいだ。一つは産業が安い人材に依存した産業形態に陥ってしまうことであり、もう一つは労働者として流入した外国人がいつの間にかいついて社会に影響を与えるという点である。良い変化もあれば悪い変化もある。つまり、外国人を受け入れると決めたのなら、社会がある程度覚悟する必要がある。冒頭の渋谷ハロウィーン暴動で見たように、貧しい外国出身の人たちが暴れるというようなわかりやすい変化ではない。白人の文化が日本人二影響を与えることもあり得る。

この問題を考える時には、だいたいどれくらいの人材が入ってくるのかを見積もった上で対応策をとる必要があるのだが「思わぬ変化」に対応できる体制も作らなければならない。例えばビザの要件を厳しくするというならばそれを監視する政府職員を増やさなければならないし、ある程度同化政策をとるのならば教育予算を計上しなければならない。が、時には想定外のことも起こるだろう。

ところが、政府側は「これは移民政策ではない」とした上で、移民政策ではないのだから、対策考えないといっている。これは明らかな安全神話である。福島の原発対応時に津波について問われて「一切考えない」としたのに似ている。福島の場合は安全神話のためにその後の議論が一切できなくなった。

野党は、ドイツの例を引き合いに懸念を表明している。ドイツもゲストワーカーとしてトルコ人を雇ったが、結局移民として受け入れざるをえなくなった。だが安倍首相は結果的に移民の受け入れになってしまうと困るので「ドイツとは違う」との一点張りであった。質問が終わったのになおも執拗に「違う」と言っていた。

加計学園や森友学園問題でも「私は関わっていない」としたために、あとで大騒ぎになった。今回のこの軽率な「ドイツとは違う」発言もその後の議論を悪い方向に縛るだろう。野党側が「解釈」について延々と質問し、安倍首相がは「私はこのような解釈は取らない」と言い続けるという図式も加計学園や森友問題と同じである。

それではなぜ、ゲストワーカーは移民になってしまうのだろうか。それは国内で傾きつつある産業がゲストワーカーに依存してしまうからである。最初のうちは定期的に人を替えるのだろうが、そのうちに法の抜け穴などを使って同じ人を雇うことになるかもしれない。再度教育するよりも使いやすいからである。ドイツでは次のようなことが起こっている。(労働政策研究・研修機構(JILPT) No.139

1961 年にベルリンの壁が築かれ東ドイツからの新規労働力の流入が途絶えたことなどが 労働力の供給不足に拍車をかけ、高度成長期を迎えていた当時の労働力不足を充足するまで には至らなかったことが、ゲストワーカーが求められた理由である。このとき受入れにあた りドイツ政府が用いたのはローテーション方式と呼ばれる制度であり、受入れた外国人労働 者は基本的に帰国すべき者とされていた。しかし、受入れ側雇用主の要請などにより、就労 滞在期間は長期化していった。

今となっては小泉政権が何を目指していたのかはわからないが派遣や非正規雇用の問題が社会問題になっているのと似ている。いったん例外を認めるとなし崩し的に労働市場全体が非正規依存に陥った。これを麻薬中毒に似ているという人がいる。賃金が抑制されて先行きが見通せなくなることで日本の消費市場はボロボロになった。

日本の場合は外国人労働者の要件が厳しくなることが予想される。今回の14分野に入っている介護も単純労働だが資格取得が必要になるだろう。

具体的には農業や介護、建設、造船、宿泊など14業種を想定している。なし崩し的な受け入れを防ぐため、人材が確保されれば受け入れを停止する措置を盛り込み、施行3年後に制度を見直す。景気の悪化も想定し、国内の働き手を前提とした補助的な受け入れにとどめる。

福祉財源の制約から人件費が抑制されることが予想できる介護分野は、外国人労働者が「期待される」分野である。一方、厳しい資格試験が必要になるなら、ローテーション制度が維持できるのかという問題が出てくる。一生懸命応援してお金をかけて資格を取らせても一定期間で帰ってしまうのだ。国内の働き手が充足する将来の見込みがあるのかという疑問もある。最初はローテーション制度を実施したとしてもそれは現場の要請で変更されてしまうことは容易に想像ができる。介護業務の研修を行うのは国ではなく一般事業者だが、彼らは継続的な教育投資に耐えられるだろうか。

さらに、国民や地方自治体は外国人を見て「彼らは帰って行くのだろう」という前提で接することになるはずだ。実際の「ゲストワーカー」を見たことがない人たちはこの恐ろしさがよくわかっていないと思う。一度、ブリュッセル南駅のトルコ人を見たことがある。今でも南駅近辺は治安が悪いと言われているのだが、人々はその理由を言いたがらない。ブリュッセル南駅は上野駅のようなもので、空港からきた人たちが最初にたどり着く地点である。ゲストワーカーと言われる人たちが地域に同化もされずなし崩し的に集まって「治安が悪い地域」を形成してしまったことになる。

人の入れ替わりはあるかもしれないのだが、その数自体が減ることはない。彼らはベルギーの言葉(フランス語の方言とオランダ語の方言が話される)も英語も覚えることはない。そしていったん海外労働者に対してついた「怖い」というイメージは一人歩きしてしまう。このイメージの悪化に今でも苦しんでいる人たちがいる。

例えば、アブデルハミド・アバウドはブリュッセル郊外で生まれた移民二世だった。どこにでもいる青年だったがいじめで学校に行けなくなりISISと結びついてフランスで2015年に同時テロを起こした。外国人移民が犯罪を犯すわけではなく、孤立した上で社会から見放されたような人が犯罪者になってしまうのである。この人が移民の二世なのか、植民地出身者なのか、それとも短期労働者が不法移民になった人の子孫なのかという「解釈」には何の意味もない。フランス人もベルギー人も「イスラム系の名前」で区別をするだけだ。このような事例があるからこそ「大丈夫なのか」という議論をするわけで、これを「移民政策ではないからこんな問題は起こりえない」とするのはかなり無理がある。

これを防ぐためには二つの方法がある。まずは職種を限った上で外国人労働者を受け入れつつ、低賃金依存に陥った産業を新しい産業に転換してゆく政策をとることだ。つまり、外国人労働者依存の産業構造にならないように国が管理するという方法である。だが、これは介護人材でみたように現実的ではなさそうである。介護は「成長」が予測される分野だが、収益が上がることもないだろうし、かといって撤退することも難しい「成長産業」である。そして、日本の人材だけでは賄えないかもしれない。

すると、海外労働者がなし崩し的に増えることを予想した上で同化政策を準備してゆく覚悟を持たなければならない。そこで、安倍首相が「これは移民ではない」と言ってしまったので、国民は「深く考えなくてもよいのだ」と思うようになり、官僚機構は検討をすることすら許されなくなってしまった。これが危険なのだ。

私たちはこれまで解釈をめぐる問題を延々と聞かされ続けてきた。提言としては、ヨーロッパに倣って「受け入れと定着を前提にした実質的な議論をすべきである」というものになるはずだが、選挙の争点を作りたい野党と問題を直視したくない与党の間の不毛な議論になってしまっている。

今年の渋谷のハロウィーンで13名の逮捕者が出た。(時事通信)一般的におとなしいとされる日本人なのだが、主体性がないので、他国から影響を受けると簡単に変わってしまうという危うさもある。安倍政権の不作為の結果、あれがいろいろな地方都市で起こるかもしれないのだ。

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