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日本のインパール化がよくわかるオリンピックの杜撰な経営

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Twitterでオリンピック関連の話が流れてくるときに3兆円という数字が語られることがある。猪瀬さんはお金がかからないオリンピックと言っていたのに嘘をついていたのかと漠然と思っていた。ところが、最近全く違った数字を見た。組織委員会が見積もる予算は1兆3500億円であると中間報告をしたというのだ。このことから日本はもはやオリンピックどころかいかなる巨大プロジェクトも運営できなくなっているということがわかる。

そもそも「数字が一人歩きしている」ところから誰も全容を把握していないことがわかる。多くの人が「最後は国がなんとかしてくれるだろう」と期待しているはずだが、実際には国も状況を把握できていない。つまり、誰も責任を取らなくなる可能性があるということになる。

まず組織委員会がIOCに対して説明した数字は1兆3500億円である。費用の削減もしたと説明しているのだが「引き締めていかないと予算が膨らむ可能性がある」と念押しもしている。(日経新聞)予算がタイトすぎるということで競技の代表者からクレームもついているようだ。日経新聞の記事は「削減した項目もあった」と伝えているわけだが、共同通信社は短く刈り込んでおり、コストが上昇する可能性が高いいう印象を持ってしまう。(共同通信社)情報の刈り込み方で同じソースでも印象がかなり違ってしまうようだ。

JOCがどのような意図でこのように発言をしているのかはわからないのだが「思ったように予算が膨らむ」となってしまうと、つなぎ資金を提供している(あるいは提供するであろう)金融機関への説明責任が出てくる。「話が違う」として資金の引き上げが起こればその時点でプロジェクトは破綻する。

3兆円のソースは実は二つある。一つは自民党出身の森さんが「だいたい3兆円くらいかかるんじゃないかな」と言い放ったという過去記事である。この時の都知事は舛添さんだったので実質的には自民党政治の杜撰な経営姿勢からでてきた数字と言って良い。東京都は都民などに全く説明をしないままで「だいたい3兆円くらいかな」と「言い放った」としてマスコミから叩かれていた。(iRONNA

ここから「舛添(あるいは自民党政治)ではダメだ」という空気が醸成され、最終的には小池都知事の誕生につながった。小池都政は都政改革チームを作り、この問題は回避されたかのように思われた。

このニュースを読んだときにはそれほど違和感を持たなかったが「この3兆円の根拠は」と考えて読んでゆくと、実は「可能性がある」と書かれているだけである。つまり、森発言を利用して小池さんが騒いでいただけという可能性もなくはないということになる。(日経新聞)この時の発言が実に「小池節」である。科学とか客観性という「真実」を思わせるフレーズに日本人が弱いということをよく知っているのだ。

同日午前に開かれた都政改革本部の冒頭で小池知事は「短期間に極めて客観的、科学的に分析してもらった。東京大会に向けたベースになる物で、この報告を受けて総合的に判断を進めていきたい」と述べた。ただ現在の計画は国際オリンピック委員会(IOC)の承認を得ており、大きな見直しは困難が予想される。

小池さんには、悪い言葉でいえば「アジテータ」としての才能があるともいえるし、良い言葉でいえば「注意を惹きつけるのが上手」とも言える。テレビキャスターとしては必要な才能なのかもしれない。が、この科学や客観性は実は単なるでまかせだったのかもしれない。ところが、今回の3兆円のソースは実はここではない。つまり、小池さんはテレビに向けて「解決宣言をした」だけで実際には何も解決できていないかもしれないのである。だが、今回の3兆円がどのような根拠で算出されたのかも、実はよくわからない。

会計監査院の調査で実はすでに国庫から8000億円の支出があったことがわかっているというのだ。(朝日新聞)朝日新聞は次のように書いている。

国家的イベントの開催を支えるのに、どれほどの費用がかかるのか。4日に発表された会計検査院の調査結果などを合わせてみると、2年後の東京五輪・パラリンピックの関連経費は3兆円規模になる。ただ、大会組織委が公表するのはその半分程度。「総額」の出し方の違いには、主催者の苦悩も見え隠れする。

よく注意して読むとこの文章には主語がない。会計監査院が予測しているのか、それとも朝日新聞が予測しているのかがわからないのである。朝日新聞のようなクオリティペーパーでさえ主語がない報道をして許されるのが日本社会なのである。

産経新聞も同じことを書いているので、会計検査院の人がほのめかした可能性が高い。

ということで識者たちの中にはこの3兆円という言葉を一人歩きさせている人もいる。(猪野亨・札幌在住の弁護士)会計検査院の人が記者との会話の中で「ひょっとして3兆円くらい行っちゃうんじゃないですかね」とした会話が「オリンピックは3兆円もかかる」となり、これは「詐欺ではないか」と炎上しかねないということである。この猪野さんの文章の最後はなぜか「政府の無駄遣いで消費税増税になる」と結ばれている。

ここまでくると「オリンピックという巨大プロジェクト」なのに責任者がおらず、誰も全容を把握していないということがわかってくる。管轄しているはずの政府にも一体いくらかかるかはわかっていないのである。その中でなんとなく森さんがいった「3兆円くらいかかるんじゃないかな」という言葉が一人歩きし、誰かがなんとかしてくれないかなという集団思考的な空気が蔓延しているのではないかと思う。

会計検査院が言っているのは「いったいいくらになるかよくわからない」ということだけである。だから「責任者を決めて精査するように」と言っている。(時事通信)時事通信もヘッドラインは「3兆円規模か」としているので、やはり出元は会計検査院なのだろう。と同時に、時事通信の記事を読むと「オリンピック予算でないものまで投げ込まれている可能性がある」ということがわかる。これは武藤敏郎事務総長も指摘している。(読売新聞)武藤さんによると「8000億円は全てオリンピック関連予算ではない」ことになり、3兆円かかるというのも単なる政府の言いがかりということになってしまう。ここまでは「JOCが嘘をついており、政府が迷惑している」という図式だったのだが、JOCからみると「余計な請求書までこっちに回ってきていますよ」ということになる。そしてこの巨額の支出は国会にも報告されていないようだ。与党が嘘をつくのはいつものこととして、野党はなぜ何も入ってこなかったのだろう。

検査院がこのほど取りまとめた調査によると、国の施策に基づく大会関連事業は13~17年度までの5年間で286あり、計約8011億円を支出していた。一部を除き額はこれまで公表されていなかった。(時事通信)

報告後、武藤事務総長は記者団に対し、国が「大会関連事業費」として約8000億円を支払っていたと会計検査院が指摘したことについて、「議論が混乱したと思っている。(指摘された事業は)もともと行政として必要なものばかり。五輪の直接の経費とするのは正確ではない」と述べた。(読売新聞)

このように明らかに人によっていうことが異なっており、中には認識がずれているだけのものものある。だから、これについて「真実はどこにあって」「責任者は誰だ」としてもあまり意味はなさそうだ。

このことを安倍首相に問うてみても「オリンピックのことは部下にやらせているし、組織委員会が適切に処理している」というだけだろうし、小池都知事も「どうやったらこれを政局に活かせるかしら」くらいのことしか考えないのではないかと思われる。小池都知事の豊洲問題のガバナンス能力の低さから見てオリンピックを管理するのは不可能だろう。そもそも三億円問題がパフォーマンスだけで解決できていないわけだし、築地をどのような名目で売却するか決まっていない上に(東京新聞)、法的に抗議する動きも出始めている。(日経新聞

さらに悪いことに、アリバイ的な報道はあっても、コメンテータを使ったアジテーションが行われることはないだろう。これについては「自主的な報道規制」が引かれている可能性が高い。事実として交通渋滞について伝えることはあっても、反対派のインタビューは流れない。

豊洲の問題も2年間ゴタゴタしたが「移転できてよかったね」ということになっている。次は解体ですねと前のめりの会社すらある。だが、実際には豊洲では交通渋滞などの問題が起きている上に、築地で営業をしている人たちもいるという。なぜこのような報道規制ができたのかよくわからなかったのだが、Twitterで「オリンピックと絡めているのだろう」と予測している人がいた。証明できないので単なる<物語>なのだが、オリンピックを成功させるために駐車場の確保が必要だから築地の解体を邪魔する報道者はオリンピックで潰すというお触れが出ればどこも報道はできないだろう。

例えていえば、ものすごく高い防波堤を作って津波を防いでいるような状態だ。築地とオリンピックはマスコミが取り上げないから炎上しないという気分が蔓延すれば、モラルハザードが起きて却って問題が大きくなりかねないということをみんな忘れてしまっているのではないかと思う。だが、広告収入の減少に悩むマスコミは魂を売ってでもオリンピックという金のなる木を手放すわけには行かない。

これは第二次世界大戦の時に陸軍が陥った状態に似ている。勝算がなく始まった戦争に収拾がつかなくなると、参謀達がバラバラに作戦を遂行するようになる。そして、最終的には多くの兵士が見殺しにされて餓死した。しかし自己保身に走ったマスコミはこれを報じなかった。戦争のような極限状態がなくても日本には構造的にこうした「末端を見殺しにする」回路が埋め込まれていることがわかる。つまり、中枢にある村が自己保身と利益確保に走ると全体が麻痺してしまうのである。

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