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小池百合子のキャスター的リーダーシップ力

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最初に申し上げておくと小池百合子東京都知事は嫌いだ。ふわふわとしたビジョンを示すのはうまいが、築地豊洲の問題を見ていても問題解決能力はまるでない。なのだが今回の結党宣言を見て学ぶところが多いなあと思った。これは騙される人が相当数出てくるだろうなあと思う。いくつかにまとめてみた。

ビジョンの統合力

第一に重要なのはビジョンの統合力だ。Twitter上には様々なリベラルな人たちの「希望」が並べられている。民進党はこれを一つひとつ拾って、それをお互いに連携せずに一つひとつ政策に結びつけようとしていた。例えば「解散権の乱用だ」という声が出ると、総理の解散権を縛るのを公約にするという具合である。つまり、バラバラに出てくる要望をバラバラに実現しようとしているために、全体としてちぐはぐなことになってしまっている。しかも、それでもうまくいきそうにないとおもうと内部から足を引っ張る声が出てきて分解してしまう。これを賽の河原エフェクトと呼びたい。つまり、民進党は地獄だった。

小池さんはこうした声をまとめた上で「産業競争力を増すためには思い切った施策が必要ですよね」として、そのために必要な政策をブレットポイントとして出している。Twitterを見てパワーポイントでリストを作るようなやり方をして、最後に「希望」という言葉でまとめた。こうすると、あたかも全体が整っているように見える。

小池さんはこれを「幹」と言っていた。

皮肉なことに日本人の男性は「幹を作る力」を失っている。なぜか女性のほうが大局的にビジョンを構築する力を持っているようである。なぜそうなるかはわからないのだが、そうなっている。多分、男性陣には「俺はこれをやりたい」という野望があるので、それをなんとかして全体の中で整合させようと右往左往するのだろう。多分、小池さんには「やりたい政策」がないのだ。強いて言えば小池さんのやりたいことは政界でのプレゼンスを増すことだけなのかもしれない。だから、他人のビジョンが統合できるのだろう。

このやり方は実は小泉首相に似ている。小泉首相もやりたいことがなく、みんなが実現したがっているビジョンを統合するだけだった。

つまり、ビジョンを統合するためにはやりたいことがあってはいけないのである。

構成力

キャスター経験が生きているなと思ったのは、小池さんが記者を指名して話を聞き、記者が「解散が発表された」と言えば「解散する見込みね」などといなしていた点だ。こうして、プレゼンテーションの流れをコントロールしていたのが、強みになっている。

例えばいままで一人歩きしていた「一院制」も「議員の質に問題があり数を減らすなら抜本的な改革ができますよね」と言ってまとめていた。若狭さんが新聞社にどんなプレゼンをしたのかはわからないのだが、目的と手段のうち、具体性のある手段だけが一人歩きしてしまうことになった。多分、新聞社は政治の記事を右から左に流すのに慣れきっていて、もう全体像が見えなくなっているし、興味もないのだろう。一院制は例示であり、維新潰しではないだろうか。

重要なのは、男性政治家は自分の政策(しかも国民生活から見るとどうでも良いものも多い)を押し通して生き残ることに夢中になっており、記者たちも毎日の細かなニュースを追いかけるのに疲れているので、誰かが統合してやらなければならないという点ではないだろうか。つまり、毎日がTwitter状態になっているのである。ここでキャスターのスキルが役に立った。

そこで小池さんはテレビカメラを集めた上で台本を構成して短いプレゼンテーションを行った。まず「日本には希望が足りない」といい「そのためにはいくつかの具体的な政策が必要だ」と続き、最終的に「仲間を集めて政党を作ります」と宣言した。

さらに、それが「絵空事」に聞こえないように「衆議院選挙は政権選択選挙なので、ひょっとして与党になるかもしれませんよ」と匂わせて、ニュースに価値を持たせた。過不足ない構成は見事としか言いようがない。一度ビジョンを刷り込まれたマスコミは一斉にその方向について流れ出し、民進党と自由党に合併話があり、最終的には希望の党と連携するのではなどと伝えていた。

後出しじゃんけん力

最後に上手だったのが後出しじゃんけん力だった。まずは絶対に成果をあげそうにない若狭さんに「自力でやらせて」見る。するといろいろなところから不満の声が出る。しかし、それで表に出るということはなく、さらに焦らす。そして安倍首相が解散を言い出す直前になって「満を持して」登場したのである。

いったんリセットすると言っているのは、つまり「若狭さんじゃだめでしょ」ということである。まずは三流俳優に踊らせておいて満を持して登場する女優のようなものだ。もちろん外向けの発言でもあるのだが、若狭さんにも「身の程をわからせる」ということになった。若狭さんの立ち位置はせいぜいコメンテータレベルで、全体の番組を構成する力はない。

この後出しじゃんけん力を見ると、豊洲・築地の問題でもあまり事前に騒がないほうがいいかもしれない。あとで統合して見せることで「さすが小池さん」ということになるだけだからだ。

キャスター的政治の限界と罪

小池人気を支えているのは「私は立派なビジョンを持っているが、国が邪魔をする」という論法である。この論法は政権につかない限りは利用可能であろう。しかし、実際にはやりたいことがあるわけではないので、政権についてしまうと政策は空中分解するだろう。

本来なら有能な政治家がバックについて、戦略を立てながら進むべきなのだろうが、みんなプレイヤーになりたがる人ばかりなので、ニュースショーを作ることはできても、それを実現するのはなかなか難しいのではないかと思う。

ニュースを見ていると「ああ、こうすればいいのに」と思うことがある。つまり、現実そのものを編集して見せればすっきりとしたニュース番組ができる。つまり、ニュースキャスターが「シナリオ」を書いているようなものなのだ。もちろん、現実はシナリオ通りに動くわけではないので、少なくとも東京都政ではオリンピック計画も築地豊洲移転もそれほどうまく進んでいない。小池新党が政権政党になると国政は混乱するだろうが、今のところそれを心配する必要はなさそうだ。

少なくとも関東圏ではかなり躍進するのではないかと思う。

小池さんの構成力は見事なので、結論を言い切って「できる人」に見られたいなら参考にすべき点がいくつもある。しばらくは、何かを作り出したり実現する人ではなくプレゼンがうまい人がいい思いをする時期が続くのではないだろうか。

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