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連合は安倍政権と取引すべきだったのか

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連合が安倍政権への協力を表明した。NHKによると、政府への政策提言機能を維持するのが狙いなのようだ。このニュースが流れると様々な方向から戸惑いの声が聞かれた。民進党は事前に相談してもらえなかった。連合は「コミュニケーション不足だった」と釈明した、と東京新聞が伝えている。共産党は「104日」の休日を割り当てるという妥協案に反発し「土日以外は休むなということか」と反発している。

このニュースの背景にあるのは労働政策の行き詰まりなのだが、多分背景が議論されることはないだろう。加えて連合の地位の低下という事情がある。連合は労働者を代表する集まりではなくなりつつあるのだ。

この取引がよいものだったのかどうかを検討する前に、日本の労働環境を見てみよう。日本の労働環境はかなり悪化している。

高度技能を持った労働者が日本に集まらない

まずホワイトエグゼンプションが残業代ゼロ法案なのかを考える必要がある。もともとは高度技能労働者を雇うための制度であり、残業代ゼロ法案という批判は当たらないものと考えられる。しかし、バブル崩壊以降の日本の経営は安い労働力の確保に傾斜してきた。手元で売り上げはコントロールできないので費用の大半を占める人件費を削減する必要があったからだ。が、安い労働力確保に邁進した結果、知的資産の液状化というべき悪影響が出ている。これを差し置いて「高度技能を持った人材がいない」というのはおかしな話なのだが、経営がそれに気がつくことはなさそうだ。

加えて、経営者は安い労働力をどう確保するかということだけを考えてきたので、この制度も多分悪用されることになるだろう。連合も「本当はこんな法律はいらないが取引上仕方がなかった」などと申し開きをしている。つまり、政府と経営者がこの制度を悪用するだろうという予測はしているのだろう。

こうした長年の不信感が議論を歪め、高度人材を日本で働かせることができないという状況ができている。このため専門性が高い人たちは海外のオフィスで働かせる必要があり、ますます日本に高度技能労働者がいつかない原因になっている。

非正規雇用の増大と複雑化

このため産業界はあまり知的資産に頼らなくて良い産業に傾斜し、非正規雇用が4割を突破した。だが、実際には労働環境は複雑になっており、実は「非正規」とひとくくりにできなくなっている。

例えば、中高年層には正社員になりたくてもなれないという人たちがいる。一方で高齢者は現役世代ほど稼げなくてもよいが社会には関わっていたと考える人が多いかもしれない。中にはフレキシブルに働きたいという人もいるわけだ。こうした人たちをすべて「非正規」とくくるのは無理だろう。

このことは安倍政権に悪用されていて「非自発的な非正規は実は少ない」などという答弁が繰り返されている。問題は統計ではなく個別案件なのだが、野党も実は労働の実態にアクセスせず数字だけで状況を把握しようとしているためにうまく反論ができない。

最低賃金の問題

さらに最低賃金の問題も解決しないままだ。最低賃金では生活保護水準以下であり生活が維持できない。これは最低賃金クラスの労働がもともとは主婦や学生などの補助的給与を構成してるからだと考えられる。つまり、お小遣い稼ぎなのだ。

統計局によるとパートタイマーのうち男性の50%は世帯主だそうだ。このうち最低賃金レベルの人たちがどれくらいいるかはわからない。かつてあったパートタイム=補助的労働ということは言えなくなっているようだが、そもそも実態がよくわからない。

国民が最低限どの生活をすることを政府は保証しなければならないわけだから、この状態は憲法違反と言える。つまり、実態調査してしまうと現在の労働環境が憲法違反だということがバレてしまう。そのために主給与として最低賃金クラスで働く人がどれくらいいるのかという調査が行われないのだろう。

地方の衰退を放置

最低水準で働いている人には偏在がある。地方ほど最低水準の人が多く、都市では賃金が高い。

つまり地方は追い込まれている。この結果、外国人の安い労働力を導入しないと立ち行かないという議論すら起きているようだ。農業分野で海外労働者を解禁してほしいという声が多いという。すでに技術研修の目的で外国人が導入されているがこれは「人身売買だ」という指摘があるという。つまり、一種の奴隷労働とみなされているのだ。

そこで出てくるのが戦略特区だ。政府の地方活性化政策が行き詰まってきたのでなし崩し的に規制を緩めようとしているのである。もちろんそうした労働者が地方に止まってくれればいいのだが、例えば東北と関東の間に関所があるわけではない、海外研修生制度のように、逃亡する人が増えることも予想される。

この辺りまでくると、実は経済問題ではなくなっており、人権の問題になりつつある。国連からも人権侵害だという勧告が出ているのだが日本政府は「その指摘は当たらない」と強弁し続けている。

労働問題といっても実は様々な問題の集積である

ここからわかるのは労働問題といっても実に様々な問題の集積であるということだ。経済問題から人権問題を含んでおり、これらを一括りにしないで一つづつ片付けてゆく必要がある。

これができないのはなぜだろうかということを考えたとき、やっと連合の話に戻ってくる。

労働者を代表する資格がない連合

政府としては「労働者の代表に話を聞き、国民の合意によって労働政策を決めましたよ」ということにしたいのだろう。が、パートナーとして選んだのは一部の大企業を代表しているにすぎない経済書団体と連合である。では、連合はどれくらい労働者を代表しているのだろうか。

少し古い数字だが、労働組合そのものの組織率は17.4%であり、パートタイマーの7%が労働組合を組織しているそうだ。このうち7割程度が連合の配下にあるということである。つまり、連合が労働者を代表しているとはとても言えない状態になっている。実はこの組織率の低さのせいで、連合はプレゼンスを失っている。丁寧な説明と労働者のコミットメントをしないで、中央集権的に運動を押し付けてきたという経緯があるのだろう。労働組合は実利的な問題を解決する場ではなく、社会主義運動に労働者を動員するための装置だった。

つまり、連合と労働組合運動そのものが存続の危機に陥っており、存在感をますために政権にすり寄ったということになる。かつては民主党を支持し与党を支える勢力になったが、その支持基盤が脆弱なので大きな成果を上げることはできなかった。さらに、共産党にも同族嫌悪のような感情があり協力ができない。これといった政策もない民進党にお付き合いしていても仕方がないので、自民党に寝返ったということになる。

この動きはますます労働者を離反させることになるだろう。安倍政権はこうした弱体化した集団に働きかけて取引を持ちかけることによって政権の浮揚を図っている。

つまり、連合は政権と取引すべきではなかったが、もはやプレゼンスを失っており、取引せざるをえない状況に追い込まれたと言えるだろう。

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