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防衛省の情報秘匿について考えたこと

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先日、Twitterのページに完全プライベートのメッセージが来た。どうも「珍しい名前なので」という理由でFacebookで検索をかけたようだ。FacebookでレスポンスがなかったということでTwitterに流れ着いたらしい。Twitterのアカウントは逆匿名(本名なのだが、誰も僕に興味がないので結果的に匿名になっている)なので、プライベートなメッセージにちょっとびっくりした。
情報をかけた人はパズルを解くみたいにして情報がつながったのが面白かったみたいだが、打診を受けた方はいきなり昔の知り合いが斜め上の方向からアプローチをかけてきたためにちょっとした騒ぎになったのである。結局、よくわからないから放置するということにしたようである。
ここであることを勉強したのだが、これをそのまま説明しても面白くもなんともないだろうから、もう少し一般的な事例に起こしてみたい。それは防衛省の情報隠蔽と組織のトポロジーについてである。布施さんというジャーナリストが防衛省に日報の開示を求めたが、防衛省が隠蔽した上で背広組が「なかったこと」にしようとしたという問題だ。この問題を考えると防衛省が有事の際にうまく作戦を処理できない可能性が見えてくるのだ。そしてそれは今後ますます広がるだろう。
知らない人から個人情報を公開せよという要望があるときは詐欺である可能性が高い。つまり不確実性が高くイレギュラー処理である。さらに、家族のITコミュニケーションツールの使い方がバラバラな上にあまり中が良くないということがあげられる。誰がどんなツールを使っているかよくわからない(理解しないまま会社や家族との連絡に使っている人もいる)上に、結節点が一番リテラシーが低い。
この2つが結びつくと「リスクを恐れて、テラシーが一番低い人がコントロールを保持したがる」という状況が生まれるんだなあと思った。それでも簡単な組織なのでたいしたことにはならないのだが、それでも説明をするのにオーバーヘッドがかかり、多分情報請求者の動機など細かいところが伝わらなかった。情報がうまく伝わらないので「判断を保留しよう」という結論になってしまった。
これを一般的な組織に当てはめると、何かイレギュラーなことがあると、一番情報から遠い人が情報のコントロールを握りたがり、なおかつ判断不能状態に陥るということになる。南スーダンで起きていることは南スーダンにいる部隊が一番よく知っており、現地で取材しているであろうジャーナリストの布施さんもある程度の情報を知っていたはずだ。その意味では本部(いわゆる背広組)は一番情報から遠いところにいて「何が起こっているのかよくわからない」という状態になっている。さらに稲田さんは防衛大臣(防衛省のマネージャー)というよりは安倍総理付きの弁護士(エージェント)という役割を持っているので「さらに外れている」。だから稲田大臣に何かを聞いても答えられないのは当然なのかもしれない。
この場合でも組織が動くのは「一切判断しない」からである。つまり決められたことをやっているうちは組織上の問題が露呈しないのだ。
情報開示請求というイレギュラーなことが起こり、なおかつ野党がどう行動するかわからないという事態になっている。不確実性が高まると、情報から一番遠い人がコミュニケーションをホールドするという状態に陥る。情報がないので判断停止に陥る。どうしていいかわからない時に何をするのかというのは組織によって様々なのかもしれないが、防衛省の場合「なかったことにする」としたことになる。さらに具合の悪いことに今回の自衛隊はアメリカのスーパーバイジングなしに現地政府と連絡を取り合って独自行動を展開していたようだ。これも問題を複雑にしている。
ここから、準戦争状態が起きた時に防衛省は判断停止に陥る可能性が高いということである。防衛省がスムーズに動けるのは米軍(絶対に負けない軍隊)から明確な指示があった時だけなのである。
たかだか(と言っては失礼なのかもしれないが)インフラ作りに行っているだけで、このような判断停止が起こるわけだから、不測の事態が起きた時になにが起こるかというのは火を見るより明らかだ。混乱状態にある上に刻々と状況が変化するわけだから、判断ができないうちに深刻な影響が及ぶだろう。稲田さんの頭の中は「自分がどう責任を取らされるか」ということでいっぱいになるはずで、判断は遅れるだろう。テロリスト軍団や北朝鮮は、民進党のようには負けてくれない。話し合いをしたり世論に訴えかけたりしても「ずどん」と一発で終わりである。

これは、一般的な組織図だが、中央に情報を集約し、中央からフィードバックを返す仕組みになっている。極めて当たり前の組織図に見えるし、自衛隊がこのような組織を持っていることは疑いようがない。これは中央の意図を効率的に伝えるには向いているが、末端から情報を集めてきて柔軟に動くような行動にはあまり向いていないということだ。この軍隊組織は情報を得るのにコストがかかるという前提で組み立てられているからだ。情報処理(選別と意思決定)によりコストがかかるという前提に立っていないことがわかる。

これを並べ直した図である。この組織を一番効率良く叩くためにはオレンジ色を叩くのが一番良い。相互の連絡がないので情報経路が寸断されてしまうからである。ちょっとわかりにくいが平たく言えば「稲田さんがヘボだと自衛隊が壊滅する」ということだ。
これを補強するためにはどうしたら良いだろうか。それは下記のような体系にすることだ。

いくつか線を足してやることで中央が叩かれても情報の寸断がなくなる。と同時に中央がすべての責任を負う必要もなくなるだろう。各セクターが独自に判断して動くのが「組織のオブジェクト化」だ。これは単純な組織なのでホップ数は変わらないのだが、もっと複雑な組織では情報のホップ数が減るはずなので中央部も情報が得やすくなるだろうし、オーバーヘッドも削減できる。
ここまで日本人は非公式の情報処理体系を作っているということを散々観察してきたのだが、これが破綻しなかったのは日本人が持っている組織上の不具合を補う仕組みがあったことを示唆している。
中央集権的な体制を大陸から輸入したのだが、それに潰されなかったのはこの非公式ネットワークのおかげだろう。非公式ネットワークは「ノミュニケーション」「大学が一緒とか故郷が一緒とかのプライベートなネットワーク」などから成り立っている。人事ローテーションという制度もあるし、同期がコホートを組んでいるという会社も珍しくない。
防衛省には、軍事的な機密情報というものがあり、中央の統制が必要という側面があるので、どの程度中央集権的な組織を作り、どの程度オブジェクト指向にするかということについては専門的な議論がありうるだろう。だが、安倍政権はこれを明確に掌握するために非公式のネットワークを潰していると考えられる。
人事局を作って官房が官僚の命運を握るというのはその一例であるが、結果的にできたのは「官僚が人権的な配慮からお互いに天下りを融通し合う」という非公式ネットワークだった。
日本の軍隊(面倒なので自衛隊などと言い換えないことにする)は第二次世界大戦で実戦経験が止まっており、なおかつ米軍の下請け(安倍さん流のダブルスピークではパートナー)として発展したために「すべての情報を自分で管理して判断する」という役割を求めらてこなかった。国民も複雑な状況というものを想定しておらず(想定したとしてもせいぜい米軍の下請けで補給を担うというような役割だろう)批判をするにしても第二次世界大戦(なし崩し的に参戦したということとヒトラー流のきちがいが政権を握るというモデルが一般的である)をメンタルモデルにして批判を組み立てざるをえない。
安倍政権は、右翼のお友達の要請で「米軍から自立した軍隊」を目指して改革を進めてきたわけだが、同時に非公式ネットワーク潰しを行った。これはアクセルとブレーキの関係であり相容れない。つまり今回の事件は偶然起きたことではないし、稲田さん力量がなかったことが原因ではなかったということが類推できる。
つまりここから言えるのは「情報開示ができなかった」というのは我々が思っている以上に深刻な事態であり、なおかつ、新しいメンタルモデルがない安倍政権はこの問題を取り扱えないであろうということだ。
いわゆる軍事アナリストというセクターも世界情勢や兵器などには詳しいそうだが、組織論とか組織の中で情報がどう流れてゆくかということは専門外なのではないかと思う。これは意外に危険なことなのかもしれない。
以上の考察はとても基礎的なもので、多分ネットワークの基礎とか組織の権限移譲などを学んでいればスムーズに理解できることと思う。実際の分析はもっと複雑で、オブジェクト化を進めるためにはどの程度の自立性を作るのかとか、同程度の突発事項を想定するのかとか、中央はどのような役割を果たすのかということを綿密に計画しなければならない。
しかし、それ以外の人には「そもそも何を言っているのか」すらわからないので議論すら成り立たないだろう。
さて、ここまでで安倍さんがやろうとしていたこと(軍隊を自立させつつ、自分の統制下で完全にコントロールしようとした)が成り立たないことがわかった。が、こういう人は反省しないので、なんとか理想的な組織を作ろうとして組織図をいじりはじめる。結果的に既存業務すらうまく運ばなくなる会社も多い。その意味から原因がわかったとしてもどっちみち安倍さんには無理なんだろうなあと思う。


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