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日本はなぜ「46%の関税」と認定されたのか

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案の定、トランプ大統領の「解放の日」政策の発表で大騒ぎになっている。状況を理解するうえでなぜ日本は46%の関税と名指しされたのかを理解しておくことが重要だ。

すでにトランプ大統領は日本に消費税減税を迫っているなどという動画も出回っているのだが、間違った前提のもとにお城を立ててしまうとその後のニュースが読めなくなってしまうだろう。

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発表の直後、Xでは「どうやら単に貿易赤字を根拠にしているようだ」という説が出回り始めた。これを裏付けるようにUSTRのウェブサイトの算出根拠が示されBloombergがバックアップする記事を出している。

To calculate reciprocal tariffs, import and export data from the U.S. Census Bureau for 2024. Parameter values for ε and φ were selected. The price elasticity of import demand, ε, was set at 4.

Reciprocal Tariff Calculations(USTR)

2日夜に公表された相互関税の算出方法に関する説明の中で、米通商代表部(USTR)は2024年の米国勢調査局のデータに基づき、当該国の対米貿易黒字をその国の総輸出額で割る計算式を提示。そして、その数字を2で割って相互関税の税率を出した。

トランプ政権の相互関税、貿易赤字ベースに算出-非関税障壁加味せず(Bloomberg)

自動的な計算を行ったため「アザラシとペンギンしかいない」島にも関税が書けられることになってしまった。日本のYouTubeではトランプ大統領が非関税障壁の例として「日本の消費税を引き合いに出した」という間違った情報が出回っているそうだ。そもそも、トランプ政権が例示したのはヨーロッパの付加価値税であり日本の消費税ではないし、今回の計算には非関税障壁は入っていない。

ではなぜ基礎理解が重要なのか。

ラトニック商務長官は確かに「非関税障壁というモンスターを退治しなければならない」としている。ところが話をしているうちに中国のフェンタニルについて話し始めている。そしてそもそも計算根拠に非関税障壁は入っていない。言っていることに整合性がない。

ではなぜこんなことになったのか。

第二次世界大戦後基軸通貨国としての地位を確かなものにしたアメリカ合衆国はグローバル経済の恩恵を受けてきた。基軸通貨のドルを原資に世界中から安く物を買う。確かに各国は儲けを得るのだがこれをドルに投資する。こうして経済を循環させてきた。

ところがアメリカ合衆国の中で再分配がうまく機能しなくなると農業や製造業従事者に恩恵が回らなくなってしまう。そこで、各国に対して「なんとかしろ」といっている。

だが、原因はアメリカ合衆国の内部にあるのだから構造上各国は何もすることができない。故に問題は原理的に解決しないのである。

BBCの報道などを考え合わせるとトランプ大統領は異なる2つのメッセージを発信している。

一つは、グローバル経済ゲームにおいて、投資も製造業もアメリカに一人勝ちさせよと迫る内容。

ところがもう一つはグローバル経済からアメリカを切り離して自活圏・自立圏を構築するという内容になる。

トランプ大統領はこの両立しないメッセージを整理しないままで「関税こそがすべてを解決する」と言っている。

つまりこの問題を解決するためには

  • トランプ大統領が間違いを認め(あるいは共和党穏健派がトランプ大統領に間違いを認めさせ)アメリカ国内の問題を受け入れる
  • 世界がアメリカ依存から脱却する

という2つの選択肢しかないことになる。

BBCは100年ぶりの高い関税が課されたと言っている。1930年代とはどんな時代だったのか。

1914年から1918年にかけて第一次世界大戦が起きた。ヨーロッパの生産設備が破壊されるとアメリカ合衆国に空前の経済ブームが起きる。やがてこれが資産バブルを起こし1929年に崩壊した。これが大恐慌だった。世界はこの状況に耐えることができずブロック経済を形成し第二次世界大戦の素地が作られている。

現在の状況に照らし合わせると次のようになる。2014年からロシアがウクライナに侵攻しヨーロッパのエネルギー価格が上昇する。アメリカがグローバル経済の勝者となる。ところがアメリカ国内で格差が拡大し民主主義が動揺した結果トランプ大統領が誕生。一気に問題の解決を図り自由貿易を破壊しようとしている。

第一次世界大戦の教訓はアメリカ合衆国のシステム破綻をそのまま世界破綻につなげるべきではないというものだ。このためカナダもヨーロッパも報復関税には慎重な姿勢を見せている。フランスのマクロン大統領は問題が解決するまでアメリカ合衆国への投資を控えるべきだとしている。

また日本は構造問題を総括することも解決することもできなかった。ABCD包囲網が敷かれ追い詰められる形で第二次世界大戦に突入している。保護主義が台頭していた時代に「仮想敵」として利用されたという側面がある。中国はこの歴史的教訓を活かし「自由貿易を擁護し仮想敵にならない」ように注意深く振る舞っているようだ。むしろこの機会を活かしヨーロッパや日韓との関係構築を深化させようとしているという情報もある。

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