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ヤマト運輸の動きにAmazonがほくそ笑んでいるかもしれないと思う訳

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ヤマト運輸が「もう耐えられない」と言ってAmazonに運賃の値上げ交渉をしているらしい。これを見てAmazonはほくそ笑んでいるかもなあと思った。
もともと日本のサービス業は生産性が低い。これはITを適切に導入できなかったからだと言われているようだ。特に小売業はひどい状況だ。物流、特に中小の卸業者が整理されない状況で残っているとされており「世界一複雑」と言われている。以前、廃棄コロッケが再流通するという事件があったが、あの時に偽装に手を貸した人たちのほとんどは高齢だが生活のために仕事をやめられないというような人たちだった。こうした人たちがコンピュータやタブレット端末を使いこなせるとも思えないし、ITインフラが作れるとも思えない。
背景には複数の業者からお買い得品を仕入れるという商慣習があるようだ。卸を整理すれば物流は効率化されてモノの値段が安くなるはずだが。実際には零細企業を競争させたほうが有利な取引ができるだろう。メーカーから直接仕入れるということが少なく、間にいくつもの流通業者が残っている。膨大な人手が関わっているが、高いものは売れないという状態になっているのだ。
同じことが運輸業にも言える。ある程度は集約が進んでいるようだが、問題はラストワンマイルであると考えられる。ドライバーが足りなくなっているようで、制服を着ていない人が荷物を届けにくること多くなった。多分、大手三社(日本郵便・佐川急便・ヤマト運輸)の重荷になっているのは「全国各地に同じようなサービスを提供しなければならない」というユニバーサルサービスの呪縛だろう。このためフランチャイズ制度が切れないのだろう。
ついてきていないのはフランチャイズだけではない。大手三社はIT化を進めているのだが、ユーザーも必ずしもこれについてきているとは言い切れない。その気になれば配達時間を指定できたりドライバーとコミュニケーションを取ったりできる。スマホでも操作可能なのだが、これを知らない(あるいは調べるのが面倒だ)と考えている人も多いのではないだろうか。
ヤマト運輸は再配達にペナルティを課すことを検討しているようだが、これはある程度効果を生むものと思われる。経済的動機はユーザーが行動を変える強力なドライバーになるからだ。しかし、それでも「全国津々浦々に荷物を届けよう」という方針を維持しようとする限り、ITを使って劇的に生産性を向上させることなどできない。
そう考えてくるとふとある可能性が浮かんでこないだろうか。配送が面倒な遠隔地、ITについてこれない高齢者、何度も再配達させる割にあまり買ってくれない低所得層などを「切り離してしまえば」効率的な運用が可能なのだ。
Amazonは小売業者なのでユニバーサルサービスの規制対象にはならない上に、会員制サービスも持っている。余分なお金を出してコンテンツを楽しむという人たちなので、所得が高いことが予想される。さらにIT技術の操作にも苦労を感じないという「生産性の高い」顧客だけを手にいれることができるわけである。
ヤマト運輸はこれまで残業代を不当に搾取しており、今回の値上げ交渉に「利用した」形だ。一方で、言われるままに荷物を箱ばされている労働者側も難しいIT技術を駆使するようなモチベーションを持っているとは思えないので、生産性が低い形で温存されるだろう。一般小売業についてはもう絶望的に生産性が上がりそうもない。
同じようにコンビニエンスストアも物流改革を進めているのだが、こちらはフランチャイズシステム独特の弱点を抱えている。店舗に物理的な制約があるので品物が揃わないから価格を選ぶこともできない。
ゆえにAmazonだけが効率的な物流を作ることができる機会に恵まれていることになるが、これは高齢者や低所得層の切り捨てが前提になっている。高齢者でもパソコン操作に熟達している人がいるので、結局ITリテラシのない人ほど高い買い物をさせられるようになるのではないだろうか。
ヤマト運輸が撤退して困るのはAmazonではないのではないかと思う。
 


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