脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみを読んだ。夢にはいくつかの機能がある、昼間の経験を再編成し、いらないものをふるい分け、感情との擦り合わせを行う。長期的に覚えている必要があるものを記憶する。まだ起こっていない経験をシミュレーションして、未来に備える。こうして、私たちは定期的に自己認識や経験の意味を再構成している。
夢を見ない(つまり眠らない)と人は死んでしまう。実際に眠れない病気「致死性家族性不眠症」があり、脳が壊れて亡くなってしまうのだという。眠れないから亡くなるのか、脳が深刻なダメージを受けるから眠れなくなるのかはわからないという。例えば、ナショナルジオグラフィックのこの記事を読むと、ヒトが眠る理由は良くわからないと書いてある。『脳は眠らない』を読むと、幾分断定的な感想を抱く。
どうしてヒトは眠るのか。眠っている間は周囲の情報を遮断しているので、敵に襲われる可能性が増えるわけだが、それよりも「メリット」が大きかったということになる。ただし、眠るのはヒトだけではない。本によると、ネコは夢を見ている可能性があるらしい。寝ている間は行動を起こさない仕組みがあるのだが、ここに損傷を与えると、寝ている間に動き出すのだそうだ。その間にシミュレーションを行っているのだろうと考えられている。つまり学習が進んでいるということだ。一方、原始的なほ乳類は夢を見ている形跡がない。つまり進化の過程で、眠ってでも記憶を再構成した方が「トク」だということになったのではないかと考えられる。結果、高度な情報処理ができるようになったのである。
さて、ヒトは夢を見る事で感情の処理も行う。夢はネガティブな感情と結びつく事が多いそうだが、夢で自己認識を改訂することで、こうしたネガティブな感情を処理していると考えられている。しかし鬱病の人は夢を見てもネガティブな感情が更新できない。従って夢を見るたびに、さらに悲観的になり、長期的には悪い影響を与えることになるだろう。ということで、鬱病の人に「夢を見させない」という治療があるのだそうだ。
このように、夢には学習機能がある。いったん全ての外部情報を遮断し、脳内で再構成するという「振り返り」の機能である。こうしたギャップがあるおかげで、私たちは自己認識を新たにし、行き詰まったアプローチとは違う発送を持つ事が可能になる。朝起きたら、新しいアイディアが浮かんだり、昨日は練習してもできなかったことができるようになっているのはそのためだ。そして、大抵の場合努力してそれを行う必要はない。基本的なOSに組み込まれているからだ。
これを読みつつ、常に、情報に晒されて、いつも考え事をしているのは良くないのだろうと思った。つまり時々は情報を遮断して、再構成をする時間が必要だということである。進化の過程を「効率のよい情報プロセスの解」として受け入れるのなら、いったん休んだ方が、連続して情報処理を続けるよりも効率的に問題解決が図れるだろう。もし、山ほどの情報を出し入れしているのに「何も解決しない」のであれば、もはや問題解決に資する情報解決を志向しているとはいえないのではないか。
夢についてはまだまだ解明されていない点がたくさんある。しかしながら、科学者たちは、寝ている人を観察したり、動物の脳に電極を差し込んだりして、夢の解明に努めている。もともと何の意味もないと思われていた夢だが、実は私たちの記憶や学習に決定的な役割を果たしていることが、徐々にわかり始めているところである。