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トランプ大統領の危機はこんな感じで起こる

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トランプ大統領と安倍首相の会談が終わった。ゴルフのスコアがどうだったとか、無理なことを言われなくてよかったなどという感想が一般的なようだが、かなり怖いなと思った。トランプ大統領の政権が機能不全に陥るシナリオが見えてしまったからだ。トランプ政権はアナリシスパラリシスで膠着する可能性があると思うし、明確に知れ渡ってしまった。後々これをついてくる人が出てくるだろう。
トランプ大統領の基本戦略は次のように成り立っている。まず無茶な注文をする。そこでおびえている相手に「意外といいやつだ」というところを示す。つまり高いボールを投げた上で懐に引き込みディールを引き出そうとしているのである。
トランプ大統領が成功したのは自分が何を欲しているのかということが明確に分かっているからなのだろう。課題があり、戦略があり、その戦略のために自分のリソースを最大限に利用する。これは学んでもよいかもしれない、と率直に思う。
だが、これがそのまま弱点になりえるということも同時に分かってしまった。ストーリーが明確なので、それ以外のところが抜けてしまうのだ。トランプ大統領がTwitterで言い切ることができるのは、スコープ外の出来事とディテールに興味がないからなのだ。
ということはトランプ大統領の専門外(ちなみにディールをすること以外はすべて専門外だ)の出来事にはきわめて弱いということを意味する。140文字くらいしかバッファがないわけである。どうやらアメリカ側はもっと複雑なステートメントを準備していたようだが、トランプ大統領は「アメリカは日本の見方で応援するよ」とだけ語った。多分、側近はこれだけしか伝えられなかったのだろう。


今回、トランプ大統領は日米のディールに集中していてそれ以外のことが見えなくなっている。後は元首として尊敬されるボクを見てくらいの意識が働いている。そもそも自分と自分が勝ち取るものにしか興味がないのでそのほかの複雑なことは分からない。
こういう人が複雑な事象に直面するとどうなるだろうかというのが今回の問いである。多分、誰か専門家に丸投げしてしまうか、必死で情報を集めだすだろう。だが、北朝鮮がミサイルを撃ってきてもトランプ大統領には北朝鮮から得るべきものはなにもないのでディールが成り立たない。相手は突発的に行動しそれは捨て身で理不尽でもある。ディールの世界にはそんなことは起こりえないが、国際情勢ではこうしたことが起こるのだ。
部下に丸投げすればまだマシかもしれない。防衛のトップはかなり熟練した人のようなので責任の所在さえ明らかになればなんとか対処するだろう。しかしもっと重要なことで「俺が判断しなければ」となると、情報を集めだすことになる。そして集めれば集めるほど多角的な情報が入ってくるので判断ができなくなる。こういう状態をアナリシスパラリシスという。分析麻痺とでも訳すのだろうか。
学習型の人にとって「分かる」というのは情報を収集した結果ある体系が内的に生じるということなのだろうが、すでに答えを持っている人にとってわかるということは「自分が予想したのと同じことを他人から聞く」ということを意味する。分からないと人は情報を整理するのではなく、情報がないから分からないと感じることになるはずだ。すると周りのスタッフは責任がない分いろいろなことを言い始める。分からないのはお前の説明が悪いからだとののしり始めるかもしれない。自己保身から複雑なことは伝わらなくなる。この結果、集団思考が生まれ、行政府は無能化するだろう。
できればこんなことは4年(もしくは8年)起こらないことを期待するのだが、アメリカが機能不全を起こせばそれに追随する人たちは何も判断が下せなくなる。日本はアメリカが変わらないことを前提に国防体制を構築している。安倍首相はアメリカの判断に付いてゆきさえすればOKだと感じていそうだし、稲田防衛大臣にいたっては当事者意識がなく、国会の答弁係かつ官僚の原稿読み係だという自己認識があるようだ。日本側のパートは国家防衛分野ではすでに集団思考を起こしている。
危機を起こすのが北朝鮮や中国(中央政府はさすがに鉄砲玉みたいなことはしないだろうが、地方組織や地方軍は何をするか分からない)でないことを願うばかりである。また経済でも予期しない動き(ドルレートや金利が突然動くなど)がないことも神様にお祈りしよう。市場は軍隊よりも冷酷だし、ディールは成り立たない。
よその地域で混乱が起こればウエイクアップコールとして機能することがあるかもしれないが、不測の事態が起これば、日米はたちまち大混乱するのではないだろうか。