日経新聞などの記事をもとに結構意気揚々と書いたのだが否定するツイートが出た。重要なニュースはTwitterで知る時代になったようだ。日経新聞が飛ばしたのか、立場上否定しているだけなのかは分からない。ロイターは「報道が出たがGPIFは否定している」と両方書いてある。(追記:2017.2.2 17:33)
【髙橋理事長コメント】本日の一部報道についてのコメントです。GPIFは今後とも国民の皆様からお預かりした年金積立金の運用にあたり受託者責任を果たしてまいります。 pic.twitter.com/jdjjVyGgU0
— GPIF (@gpiftweets) 2017年2月2日
当初思っていたより深刻なことが起こっているのかもしれない。GPIFに根回しなく原案を日経新聞に見せたことも考えられるわけだが、そもそも政府に投資先を「指示された」ということになると、GPIFの独立性が著しく損なわれる。しかし、それは表向きのことで実際には政府の意図が色濃く投資に影響していることは公然の秘密状態になっているように思える。
安倍首相が国会で「アメリカ第一主義」を表明した。アメリカに雇用を作るために日本人がコツコツためた年金を使うそうだ。年金は安倍首相の小遣いではない。これは国難なので今すぐアベを引きずり下ろさなければならない。
と、威勢良くいきたいところなのだが「ちょい待てよ」と思う。ヘッドラインしか読んでいないので、勘違いがあるといけない。ここは深呼吸して日経新聞を見てみよう。
日経新聞を読んだ限りこのニュースは別の見方もできる。これからアメリカはインフラ投資によるバブルが期待できる。GPIFはこれに乗っかりたいということなのだ。
じゃあ、いいことなのではないかという人も出てくるだろうが、そうばかりとは言い切れない。単に安倍首相に反対したい人はここからは読まなくていいと思うが、いくつか考えるべきポイントがある。この時点では事実誤認もあるはずなので、間違いがあったらご指摘いただきたい。
投資のガバナンス – 投資に政府が介入してもいいのか
最大の問題は、政府が自分たちの思惑で投資に介入していいのかという点ではないだろうか。政治家が投資の目利きならいいのだが、たいていの場合政治が関与するとろくなことは起きない。新銀行東京のように破綻してくれればまだよいのだが、場合によっては、これまでの失敗を隠蔽するために投資を決めるということがあるかもしれない。
プライベートセクターでは原発の投資が焦げ付くという事例が幾つか起きており(東芝と日立)問題になっている。原子力はもともと国策だったのだが、東日本大震災以降急速に状況が悪化していた。しかし、日本の原発投資は「関東軍化」してしまい、出口戦略を見出だせないまま破綻しているのである。一度始めると止められないのだ。
国内の成長というこれまでの政策の放棄 – 海外に投資していいのか
このところ黒田さんの元気がない。金融政策は時間稼ぎで、政府が成長戦略を打ち出すはずだった。しかし、実務経験のない政府に知恵があるわけでもなく「もはやデフレではないがインフレも起きていない」という状態が定常化している。実際はデフレ懸念があったが、安倍首相が「私が、えー、大丈夫と、大丈夫と言っていいるからでですね、まさに、そのー、大丈夫と思う次第であります。デンデン。」という具合だ。
だから海外に投資するわけだ。しかし、これはすなわち国内の株式市場からの撤退を意味する。資金は限られているからだ。これは政府が「国内は成長しない」ということを認めたことになってしまう。
すると国内の株は下がる。GPIFはクジラと言われており株式市場を底上げしている。つまり、すでに国内株がバブルを起こしていることになるので、これが一部引き上げれば、海外に投資できない国内の一般投資家はひどい目に合うかもしれない。
また企業資金は海外に逃避してしまい(政府が率先して逃がしているのだから当然だ)国内への投資は進まない。これは共産党が言っている「内部留保」が蓄積することが意味する。賃金が上がらないということである。
外交的戦略の決定的な欠如 – トランプは信頼できるか
GPIFの本来の意図はわからないが安倍首相は「手近にお土産がないかなあ」とキョロキョロと辺りを見渡していたように思える。長期的な外交戦略がなく「お土産を渡して一緒にゴルフでもすれば悪いようにしないだろう」と考えているわけで、無極化が進行している現在において極めて危険な姿勢だ。
トランプ大統領の政策はドル高を加速させる(経済が好調になれば投資が集まるのでドルの需要が高まる。すると経済が成長するので利息が上がり、さらにドル高が加速する)のだが、製造業が生き残るためにはドル安でなければならない。人工的な為替操作が起こると、海外投資の価値(ドルが上がることを期待して投資しているのだ)が毀損される。
これまで一週間のトランプ大統領の言動を見ていると、この辺りの理屈をどうもよくわかっていないみたいだ。これは気が変な人に年金資金を預けるのと同じことである。専門的には「ボラティリティが高い」というのだろうが、このような投資を一週間で決めていいのかという問題がある。いったんコミットしたら引けない類の投資は控えるべきだろう。
さらにトランプ大統領は意図的にショッキングなことを言って「ディール」を得ようとしている。自発的にお土産を持って行けば「もっと出せるでしょ」ということになるだろう。言い方は悪いが追い剥ぎにお土産を持ってこちらから出向いてゆくようなものなのだ。
いつものように曖昧な権限
GPIFは独立行政法人だ。つまり政府とは独立して意思決定ができるはずである。だから安倍首相が「儲かるところをみつけて」オプションとしてGPIFに渡すというのであればギリギリ同意できる。インフラ投資は政治マターなので政府の援助は必要だからである。しかしこれは「投資しなければならない」という意味ではない。これがどちらなのかが曖昧という点に大きな問題があるのだが、これは日本的には「阿吽の呼吸」で決まってしまい、同時に集団思考的な状態が生じる(つまり誰も責任を取らなくていいと思い込んでしまう)というのが、これまでの見立てだ。
実際に責任を取られるのは将来の年金受給者なのだ。結局、同じような問題が繰り返し起きていることになる。
さらに、アメリカ人は日本の巨額マネーに対して国内のインフラ投資市場を解放するということに同意するだろうかという問題がある。アメリカファーストの国が国内権益を外国にやすやすと渡すはずはない。もし、僕がウォール街の大物プレイヤーだったら「GPIFを俺に運用させろ」というだろう。巨額の手数料を得ることができるからだ。なんとなく安倍首相はこれをOKしかねないと思う。