フジテレビの港社長が会見を行った。当初から期待はされていなかったようだが「案の定」という内容だった。ついにフジテレビの報道番組で女性アナウンサーが「傷ついている社員がたくさんいる」と発言するなどして騒ぎが拡大している。
同じ日に自民党の東京都議団が政治団体を解散した。しかし裏金疑惑については「昔から行われていた」として総括を拒否している。石破総理も突っ込んだ調査などは行わない考えだ。
偶然なのか必然なのか、この2つの組織には共通点が多い。最後に行き着いた結論は「目的を失った組織では逃げ続けた人しかリーダーになれない」というものだった。だが結果的に組織内の問題を解決できなくなり「組織がなくなるかもしれない」という危機を自ら作り出しているのだ。
目的を失った組織
SNSの台頭でテレビの立ち位置が変化する中でフジテレビは在京キー局の中で唯一新しいビジョンを出すことができていないとされている。このため「面白ければなんでもいい」という状態になっており組織の一部が病化した。
また戦後に自由主義陣営の管理政党として誕生した自民党も時代の変化に対応できておらず政党としての目的を見失っている。結果的に派閥同士の支持者の食い合いが起き「カネ依存」の選挙支援が横行し様々な問題を引き起こすことになった。
リーダーシップの不在
目的を失った組織は逃げ切った人がリーダーになる。逃げ切ったリーダーはビジョンを提示できない。つまりこの問題はある種の循環を作り出している。
今回の場当たり的な説明から港社長には明らかに社長としての資質がないとわかる。資質は「ステークスホルダーの利益最大化のために行動する」という執行役員代表としての資質と定義することができる。
同じことが石破総理総裁にも言える。石破総裁は自民党支持者たちにとっての利益の最大化を期待されている。と同時に石破総理は国民全体の利益の最大化を目指さなければならない。つまり政治とカネの問題も解決できないような総裁が総理大臣にふさわしいはずもない。
港社長がなぜフジテレビの社長になったのかはよくわからないが石破総裁が選ばれた経緯は分かっている。他のリーダーたちが次々と政治とカネの問題で資格を失っていった中で「部外者」であるという理由で唯一残ったのが石破茂氏だったのだ。
自民党は組織の恥を「プライバシー」を理由に隠蔽したが、フジテレビも「被害者女性のプライバシー」を理由に公開しなかったと説明をしている。本来ならば個人を守るはずの倫理規定が組織防衛のために利用されている。つまりどちらのリーダーたちもプライバシーという概念を理解できておらず「自己保身のために利用する言い訳」くらいにしか考えていないのだ。
結果的に作り出されるのはこれまで問題から逃げてきた弱いリーダーであり、当然組織に新しいビジョンを提示することはできない。これを日本全体に拡大すると「デフレマインド」を脱却するビジョンを提示できず日本は低成長に甘んじ続けるということになる。
心情的な庇いあいに終止する「情緒文化」
自民党の政治とカネの問題は大きくなりすぎた清和会(安倍派)の暴走と考えられている。背景にあるのは「カネ依存」の政治だ。政治とカネの問題は安倍派潰しに利用されたが、こと「誰が悪しき慣習を始めたのか」に関しては議論が進んでいない。
同じく週刊誌報道によると「フジテレビの上納文化」は長年続いてきた慣習だったようだ。港社長を筆頭にしたバラエティ畑を中心にした慣習とされていて首謀者とされる社員は出社を辞めているという報道も出ている。
双方とも「組織性」はあるものの、組織全体が毒に侵されていたわけではない。
ただし健全な部分が病化した部分を調査するというようなことは行われていない。目的なき組織で問題を追求すると「誰が悪い」というような犯人探しにつながることがよくある。このため外圧なしには問題解決に踏み出せないのだろう。
また目的を失った組織は「倫理コード」を提示できないということがわかる。これが社会的信用の毀損につながる。
それぞれの落とし所
ここからはそれぞれの落とし所を見てゆく。問題をあいまいにし「なかったこと」にしようとする。その過程で「世間の反発」を和らげようとする。しかし単に世間の反発を懸念するだけで、実際にはそれを和らげるような行動は起こすリーダーはいない。
ただし「そもそも逃げ切ること」でリーダーに登りつめた可能性もある。これまでのらりくらりと逃げてきた人だけがトップリーダーになれる組織だったのかもしれない。
自民党都議会議員団
自民党都議会議員団は解散を決めた。ただし、会派は維持するそうだ。政治団体としての議員団を解散してしまうと「説明責任を果たす主体」を消すことができる。しかしながら「政治とカネの問題は長年の慣習であった」として調査や総括はしない。
- 都議会自民会計担当を略式起訴 収入3500万円過少記載―議員側は立件見送り・東京地検(時事通信)
- 「中抜き」長年の慣行か 関係者証言「無法地帯」―選挙への影響懸念も・都議会自民(時事通信)
- 政治団体「都議会自民党」を解散 裏金事件で謝罪、会派は存続(時事通信)
石破総裁は「本部とは関係ないということにはしない」と言っている。だが積極的に調査をするつもりも内容で「東京都以外に問題を抱えた組織はない」といい切っている。ただし「私が知る限りでは」と言っている。あとから何かがでてきたとしても「私は知らなかった」といえる。
自民党全体の利益を最大化するならば、国民の疑念を払拭し再発防止に向けて強い体制を整えているはずである。石破総裁がそれをしないということは「自分が逃げ切ることができればそれでよい」と考えているということになり、リーダーシップの欠如という結論が得られる。
フジテレビ
フジテレビの港社長の会見は限られた記者たちしか入らず公開もされないというものだった。
開かれた記者会見がネット公開されると「港さんでは乗り切れない」と関係者たちは考えたのだろう。時事通信は会見の内容に加えて港社長の会見が期待外れのものだったとする論評を別に出している。ここから「港さんが社長になったのはそもそもなぜなのだろう?」という疑問が湧く。
この消極姿勢は第三者委員会にも現れている。一部では「第三者も入れた委員会」と指摘されており独立性に疑問が出ている。
一部では外資ファンドの圧力によって調査に追い込まれたと報道されている。しかしこの外資ファンドの声明もいささか芝居がかったものだった。仮に港社長が調査をしたくてもなかなか身内の問題を斬れないという事情があったとすれば、港氏は外圧を利用して「調査を始めます」と言えたかもしれない。
それぞれの被害者
目的意識を失った組織で被害を受けるのは一人ひとりの「従業員」である。
自民党都議会議員団
自民党の政治とカネの問題で最も被害を受けているのはおそらく議員たちである。前回の衆議院議員選挙では多くの議員が落選した。地盤が弱く組織に頼っている人ほど被害を受けている。今回も「裏金議員は公認しない」という案が出ているそうだ。東京都連の説明責任を回避が優先されている。
フジテレビ
フジテレビは更に悲惨なことになっている。一部「アウティングは避けるべき」という風潮がある。しかしX子さんは文春への取材で「会社に公開を妨害された」と言っている。またX子さんと同一であるかどうかがわかっていない元フジテレビ女性アナウンサーもSNSを更新し偶然にも「会社に公開を妨害された」と言っている。
加えて文春は水谷愛子という別のアナウンサーからも「私も上納されました」という証言を取っている。
結果的に「フジテレビにいる女性アナウンサーも実は……」と視聴者が想像することになる。フジテレビの報道番組に出演する宮司アナはフリーのメインMCに促される形で次のように発言した。表に出ている人が世間の好奇の目に晒され続けることになる。極めて残酷な状況が生まれている。
また「一連の報道をめぐって、意図しない目を向けられて傷ついている仲間が多くいます」と明かし「とてもつらくて、自分たちで説明もできないといった、とてももどかしい状況に置かれています」と心境を語る。
フジ宮司愛海アナ 生放送で覚悟の訴え「傷ついている仲間が多くいます」(東スポ)
この件に関しても「一体誰が悪いのか」という議論が始まってしまうのだろうが、本来優先すべきなのは
- そもそもフジテレビのミッションは何で
- そのミッションを実現するためにはどのような行動規範が必要なのか
であるべきだ。港社長以下フジテレビの執行部はこの責任を果たしているとは言えないし、報道機関としてのフジテレビも社会的責任を果たせる体制になっていない。
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