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アメリカ例外主義の終わり?

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先日2025年の経済概況をまとめ「アメリカが一人勝ちする状態はブラックホールかがん細胞か」と書いた。極端な書き方をすると反論が寄せられることがあるが、このエントリーに関してはQuoraでトランプ氏のネガティブな評価に関する感情的な反発が寄せられて終わりになった。

すると今度は「これを否定する記事を探そう」という気分になる。

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REUTERSが「変わる世界経済、米国一強から「3極化」へ」というコラムを出している。アメリカ株は2年連続で20%のリターンを達成していると書いている。実際にアメリカ株を買っているので「ああそうなんだろうなあ」という気がする。しかしこのコラムはそんなことは3年も続くはずがないという「経験則」を持ち出してそろそろアジアと欧州の三極体制になるのではないかと言っている。

米国の株式市場は2009年以来、文句なしに世界をリードしてきた。しかし米国の例外性はすでにドル、米国株、そして結果として米国と他の先進国市場との間に生じた過去最大のバリュエーションの差に反映されている。米国株は2年連続で20%のリターンを達成しており、経験則から3年目は期待できないことが分かる。

変わる世界経済、米国一強から「3極化」へ(REUTERS)

ところが直近のトレンドはこのコラムを否定する。Bloombergの2つの記事はどちらもドルの価値が上昇するだろうとしておりつまり「しばらくはアメリカの一人勝ちが続く」と評価しているようだ。

アメリカ合衆国が「一人勝ち」し続ければインフレが加速する。物価高によって内国民は苦しむだろうが賃金の上昇は伴うのでシステムとしては破綻しない。海外の投資家は資産価値さえ上昇すればアメリカ人が苦しもうが別に構わない。

一方でアメリカ合衆国に一人勝ちがなくなればアメリカ国民が高いインフレに悩むことはなくなる。これはアメリカ人によってよいことだがアメリカNo1を望む人たちは許容しないかもしれない。

今回の推移を1970年代と比較する人がいる。状況が極めてよく似ているのだ。

日本はバブル崩壊のあとで金融緩和政策に至るまで時間がかかりすぎてしまい、その間にデフレマインドが定着してしまった。このため「もっと早く金融緩和をやればよかったのに(今更そんな事を言っても仕方ないが……)」という人が多い。

ところがアメリカでは真逆の現象が起きる。

第二次世界大戦で一人勝ちしていたアメリカは金兌換で世界経済を支えた。ところがベトナム戦争の戦費がかさみ金兌換が保証できなくなる。これを転換したのがニクソンショックだった。ニクソンショックには金兌換の停止と中国との修好が含まれる。そしてこの転換がインフレ(ドル価値の毀損)を起こす。

日経新聞のこの記事は「ニクソンインフレ後」の事が書いてある。ニクソン大統領の引き起こしたインフレはいったん「ソフトランディング」が予想されていた。ところが中東戦争が起こると石油価格が上昇を始めてしまう。

このときの「主犯」は政治に忖度したFRB議長だったと言われているそうだ。

1970年代に米経済を軟着陸させるどころか、高インフレを招いた一因は当時のバーンズFRB議長の失策にあったとされる。72年の大統領選前に通貨供給を増やし現職のニクソン氏の再選を側面支援。77年に大統領に就いた民主党のカーター氏には議長再任を求めて近づいたとも言われている。

米インフレは「韻を踏む」か 1970年代に再加速の歴史(日経新聞)

仮に今回と1970年代が似ているとすれば2回めのインフレは「スタグフレーション」と予想される。つまりコスト高と人件費の高騰が止まらなくなる。

結果的にこの狂乱はボルカーショック(経済が突然死するリスクを背負い急速な金融縮小が行われた)で収拾が図られるのだが、国民的人気が高く経済政策に一貫性を持たないトランプ次期大統領の4年間にパウエル議長がボルカー氏なみのリーダーシップを発揮するのは難しいだろうと予想できる。

いずれにせよアメリカ合衆国の経済の「一人勝ち」は戦後何回か起きていて、今回が初めてのケースではないようだ。

これは「投資家にとってはいいこと」だが「アメリカ国民にとっては災害」といえる。

今回は反論に期待しつつ極論から始めてみた。

ところが日本人の中にはなぜか「トランプ氏を悪く言う事」に対して極端で感情的な嫌悪感を持つ人が多い。構造的な理解ができないからこそ心理的に依存するのだろう。

その背景にある「迷い」がなぜ生じるのかは考察に値するテーマだと感じる。国民一人ひとりが責任を担うという民主主義に耐えられず強い人に引っ張ってもらいたい依存心の強い甘えた人が多いのかもしれない。

この「自分で判断したくない」という傾向は投資にもよく現れている。「みんながこれを買っていますよ」という情報に弱いのが日本人だ。

新NISA、人気上位5銘柄だけで計4兆円 全体の3分の1占める(朝日新聞)

いずれにせよ感情的・感覚的な反論に終止するばかりで構造に着目する反論は得られず自分で反証を探ささざるを得なくなった。

今後アメリカ合衆国が一人勝ちしつづけるかどうかはトランプ氏の「その日の機嫌」に左右される。アメリカが一人勝ちを放棄すれば世界経済は安定しアメリカ国民の生活も安定するが、一人勝ちにこだわればやがてアメリカ国民の生活は破壊されるかもしれない。過去にも同じようなことが起きておりこのときは「突然死覚悟」でブレーキを踏むまで(これがいわゆるボルカーショックだ)インフレは収まらなかった。

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