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雇用統計が好調なのにアメリカの株価が下落

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Quoraで「トランプ次期大統領は安全保障では問題を引き起こすかもしれないが経済は好調なのではないか」というコメントを貰った。このコメントが気になり「トランプ次期政権を控えたアメリカ経済」についてQuoraで記事をまとめたのだが、どうも何を言っているかよくわからない内容だなあと感じる。

まとめ終えてから「おそらく強すぎるのが問題なのだろう」と感じた。アメリカ経済はブラックホールのように世界中のマネーをアメリカに集めている。いわば「超高圧」状態になっていて何がどう展開しても不思議ではない状況だ。秩序なき成長で思いついた例えが「がん細胞」だった。

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ベースにあるのは「雇用統計が好調」というニュース。ネガティブな要素はなくアメリカ経済が引き続き絶好調であることを意味している。しかしながらどういうわけか株価が下がっているそうだ。なんとなく納得が行かない。

いろいろな記事を流し読みして現在のトーンを端的に表している識者の声を見つけた。世界経済が落ち込む中アメリカ合衆国だけが過度な楽観論に支配されており、同時にトランプ政権化で政治状況が不確実性を増しているという。

JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「過去数週間は、今年1年がどのような年になるかを予見する良い機会となったかもしれない」と指摘。「米金融当局の金利据え置き、割高なバリュエーション(すべての資産が楽観的な見通しと経済ソフトランディングを織り込んでいる)、二面性ある政策の不確実性という組み合わせだ」と語った。

米経済の強さ示した雇用統計、投資家には頭痛の種-株と債券が同時安(Bloomberg)

ヨーロッパ経済と日本経済が落ち込んでいるのは世界情勢の緊迫化による資源高と需要不足が原因だろう。どちらも中国経済に依存している。

しかしアメリカ合衆国は独自の市場を持っていてなおかつ天然資源や穀物に恵まれている。つまり、アメリカ合衆国には一人勝ちする条件が整っている。このため現在の労働市場と消費は極めて好調だ。

にもかかわらず株価が下がっている。

逆に国債の金利は上がっている。これは「債権の下落」と表現されることもある。

まず日本の連想から「インフレは賃金上昇を伴わず悪いインフレなのだろう」と批判したくなる。しかし実際には賃金が伸び悩んでいるというニュースはない。ただこの賃金上昇はあくまでも「平均」なのだから中には住む家を失ったり物価高に悩む人達が出てくるだろう。高いインフレから振り落とされる人が社会不安を引き起こす可能性はあるが日本のように社会全体が沈滞するということはなさそうだ。

一方でトランプ次期政権の政策は国債金利に影響を与えている。大胆な減税は放漫財政に傾くだろうと予想されているようだ。

またトランプ次期大統領の目玉政策である関税と不法移民排除はどちらもインフレ圧力になる。アメリカ人は意外とこれを冷静に判断しているようで「インフレ予想」はトランプ関税を懸念しているそうである。

米消費者のインフレ予想急上昇、トランプ関税を懸念=ミシガン大調査(REUTERS)

もともと現在のアメリカ株の好調さは「バイデン政権下での高金利は一時的なものである」という見込みの上に立っている。この見込みが後退する上に「安全資産」である国債の金利が上昇すれば相対的に株式の価値は下がる。ニュースの中に「金」が値上がりしているというものがあった。どうやら不安も高まっているらしい。

もう一つ気がかりなのがバイデン大統領の置き土産だ。日本製鉄のUSスチール買収に介入に関しては「労働組合との不適切な関係」が疑われるが、この他に「バイデン政権のヘリテージを破壊してトランプ氏に享受させないようにしているのでは」という観測がでている。つまり橋を破壊している。

バイデン政権は同盟国との関係強化を図りアメリカへの投資を促進してきた。この「安心して投資できる環境」を自ら破壊してトランプ次期大統領に渡さないつもりだというのである。仮にそれが本当だとすると「自分の名誉を犠牲にしてまでもトランプ政権を妨害したいのか」という執念のようなものを感じる。

ロスアンゼルスの山火事のニュースのなかに保険料の高止まりについて扱ったものがある。様々な課題を内包したニュースだが、そもそも保険会社が「撤退」できる環境にあるというのが驚きだ。今回消失した地域は比較的裕福だったがそれでも「無保険状態」の家が多いのだという。

アメリカ合衆国の最高裁判所は民主党が主導する中間所得者層保護の金融機関規制を「行き過ぎだ」と規制する傾向が強い。近年では健康保険会社に対する批判も高まっておりCEO殺人事件に発展した。

アメリカ経済の「好調」さには必ずしも歓迎できない側面があるようだ。生活インフラが値上がりしているのだ。

Quoraの記事は保険以外の問題をまとめ「過度な楽観論と不安定さが同居していますね」とまとめたのだが、どうも分析としては甘いと感じた。その原因はどこにあるのだろうか?と考えた。

しばらく考えて「問題はアメリカが弱いことではなく強すぎることなのではないか」と感じた。

現在のアメリカ経済は「一人勝ち」の状態にある。世界各国から投資マネーが逆流しアメリカ合衆国に流れ込む。このため資産(住宅や金融商品が含まれる)が高騰している。日本人は資産をいくら持っていてもそれを使いたがらないが、アメリカ合衆国ではこれが個人のクレジットに反映されるため消費が盛んになる。このため「実需」を伴った好調さが作られている。

日本のようにお金を持っている国が「困窮」を感じる一方で、世界からの投資(つまり借りた金)で賄われている国が多幸感に浸っている。これが現在の資本主義の姿だ。

しかしながら中間所得者(日本で言うところの庶民)は必ずしもこれに満足していない。家賃、食料価格、燃料、医療保険料やその他の保険などが値上がりしているからである。

皮肉なことに庶民は「アメリカがもっと強くなれば自分たちのところにもトリクルダウンがあるだろう」と期待すればするほど庶民の生活は苦しくなる。経済が過熱されインフレが高止まりするからだ。資産を潤沢に持っている人たちは消費ができるが日々の返済のためにより賃金が高いところで働くしかない。

極めて単純な予想をするとトランプ次期大統領の治世ではますます強いアメリカ志向が強まるのだからアメリカ合衆国に資産を持っておくことは極めて有効であると考えられる。ただ過熱状態になっているのだから資産価値は安定しないだろう。

そしてこの「好調さ」がアメリカの庶民の幸福とリンクしていると考えるのは難しい。そしてアメリカの庶民が強いアメリカを希求すればするほど庶民生活は圧迫され外国に対して関税恫喝を含む過度な要求が繰り返されることになるだろう。アメリカは同盟国の信頼と自由主義陣営の結束を犠牲にしながら「自己肥大」を続ける。

これを何に例えればいいのだろうかと考えたのだが、いまの処は2つの例えが思いついた。ブラックホールとガン細胞だ。アメリカ合衆国という資本主義実験国家の新しい「実験」が始まったといえるのかもしれない。

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Comments

“雇用統計が好調なのにアメリカの株価が下落” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    「日々の返済のためにより賃金が高いところで働くしかない」ということは、必然的に賃金の安い業界は空洞化してしまう恐れがあるのでしょうかね。最近のUSスチールの買収も、空洞化が要因の一つでしょう。
    そういえば、「ハンファグループ、米国のフィリ造船所」というニュースを読み、アメリカは造船業界も空洞化していたなと思うと同時に、安全保障に関係していそうな会社がストップされずに買収されているところを見ると、やはりUSスチールの買収反対の理由は「建前」なんだなと強く思いました(分かり切っていたことですが)。造船会社の買収が反対されなかったのは、アメリカなりの「建前」の理由があるのか、韓国の外交が巧みなのか、反対されないほどアメリカの造船業界は衰退していたということなのか、どれかなんでしょうね。

    1. 理論的にはスーパーマーケットの従業員(比較的賃金が安い)がIT産業(比較的賃金が高い)で働くことは難しいですから、産業内での人材獲得競争になり市場原理で賃金が上昇するんじゃあないですかね。労働者が産業間移動するときは新しいスキルを身につけてエントリーレベルの仕事から始めるのが一般的だと思います。そのために学校に通って資格を取り直したりするんですが、最近は学費も値上がりしているんですよね。

      ハンファの話は知りませんでした。3週間前の出来事だったんですね。政治家が気がつくか気が付かないか程度の差かもしれないですが、確かになぜA社はよくてB社はダメなの?って思いますよね。